第17話 許婚

 



「ふう……待たせてすまない。おかげでサッパリしたよ。土御門君も入ったらどうだ? 」


「あ……は、は……い……」


 僕がソファでソワソワしていると、先輩が濡れた髪をバスタオルで拭きながらシャワーから出てきた。


 そして僕は先輩の姿を見て固まってしまった。


 お風呂上がりで少し火照っている顔がとても色っぽくて……それにワンピースが先輩の身体の線を浮き上がらせていて、それがすごく煽情的で……なによりそのワンピースを内側から押し上げている大きな胸と、その中央にはくっきりと浮き上がっている乳首が……僕の視線はそれから動かせないでいた。


「どうしたんだ? そんなに固まって……ああ、サラシと下着を洗濯するからな。替えもないしな」


 え? つまり下も!?


「あ……その……」


「フッ、そうジロジロ見ないでくれ。私も一応は女なのでな」


「あっ! は、はい! す、すみません! 」


 僕は少し笑みを浮かべながら言う先輩から、首ごと視線を逸らし謝った。


「ふふっ、別に怒ってないさ。昔から男性のそういう視線には慣れているのでね。それよりお風呂に入ってきたらどうだ? 下着は洗濯機の中に入れておいてくれ。私が一緒に洗うから」


「は、はい! シャ、シャワーを浴びてきます! あっ! れ、冷蔵庫に飲み物ありますので! 」


 僕はそう言って逃げるように浴室へと向かった。


 はぁ〜……目が離せなかった……女の人はそういう視線に敏感だって三上が言ってたのにな。こんなんだからムッツリって言われるんだろうな。


 先輩は僕の視線に怒ってはいなかった。けど、あの笑みは僕を男として意識していない感じだった。


だって隠す素振りすらなかったもん。


 別に先輩が僕のことをなんとも思ってないのはわかってたさ。


 いや、まだこの世界じゃ初日だ。これから少しずつ僕を男だと意識してもらえれば、きっといつか怒ったり恥ずかしがったりする先輩を見れる……はず。見れるかなぁ……


 僕はシャワーを浴びながら、落ち込んだり意気込んだりまた落ち込んだりと忙しくしていた。


 そしてシャワーを浴び終え、洗濯機の中を見ないようにして僕は下着を放り込んだ。


 それから僕が部屋に戻ると先輩はソファに座り、スポーツドリンクを飲んでいた。


「早かったな。ん? 何をしてるのだ? ソファに座らないのか? 」


「は、はい。失礼します」


 僕は先輩に促され、1人分空けて隣に座った。


「ふふふ、外では頼り甲斐のある男の子なのに、まるで借りてきた猫のようだな」


「お、女の子と部屋で2人きりというのは初めてなので……それも先輩のように綺麗な人とだと緊張します」


 この状況を望んでいた。けど、実際にそうなるとどうしていいかわからない。

 今だって隣で座りながら髪を拭いている先輩から視線を外して正面を見てる。


「綺麗……か。剣を振ってる男勝りな女なのだがな」


「剣を振ってる先輩も綺麗だと思います。戦っている時の先輩は特に輝いて見えます」


「戦っている私が輝いているか…… 試合相手からは怖いとはよく言われるが、そんなことを言われたのは初めてだ。そういえば昼の戦いでも戦っている私が好きだと言ってたな」


「はい。戦っている時の先輩の顔が好きです。あの楽しそうな笑みがとても」


 あの妖しくも美しい先輩の顔が……


「そうか……私は笑っていたか……これも血か……」


「え? 」


 血? どういうこと? 何か過去にあったのかな?


「いや、なんでもない。それにしてもお互い大変な目にあった一日だったな。朝起きた時はこんな日になるなんて思いもしなかった。土御門君は終始落ち着いていたが、私に気をつかって無理をしてないか? 」


「いえ、僕は平気です。先輩がいなければヘタレてたかもしれませんが。あはは……」


「それは私も同じさ。一人でこの森にいたら、今頃あのゴブリンに殺されていたかもしれない。私に武器と安全な寝床を与えてくれた君には感謝している。ありがとう」


「そ、そんな! たまたまゲームっぽい世界だったので……本当にたまたまです」


 僕は、僕がこの世界で先輩と一緒にいたいがために、この先輩に似た人を創りこんな目にあわせていることに罪悪感を覚えた。


 ごめんなさい。僕のわがままでこんな目にあわせてしまって……そう言いたいけど言えない。謝りたいけど謝れない。この目の前にいる女性に、貴女は僕が小説で創り出した鬼龍院先輩の現し身なんですなんて絶対に言えない。


「それでも君がいてくれたおかげで私は戦えた。そして本物の刀で戦うことができた。変に思うかもしれないが、私はここに呼ばれて良かったと思っているんだ」


「え? この世界に……ですか? 」


「ああ、ここなら家に気をつかい品行方正でいることも、付き合いたくもない者たちと付き合うことも、好きでもない男と結婚する必要もないからな」


 先輩は僕を見てそう言って笑った。いや、目は笑っていなかった。


 先輩の実家は剣の名門だ。きっと幼い頃から厳しい教育を受けてきたんだろう。


 剣を持つ者は高い教養と強靭な精神力を求められる。それが名門ともなれば相当なレベルのもののはずだ。家の名を汚さないように、普段から色々と我慢していたのかもしれない。


 なによりも……


「結婚……ですか」


「ああ、古くからのしきたりでな。父が決めた分家の男と大学を卒業してから結婚することになっている。しかし剣の腕は確かだが、力に溺れた嫌な男でな。それでもこれまで育ててもらった恩があるからな、私は断ることなどできなかった。だがそれも家に帰れないのであれば仕方あるまい。父は心配しているだろうが、私としては呪縛から解き放たれて清々している」


「それは確かに……そうですよね」


 やっぱり許婚がいるという話は本当だったんだ。大学卒業の4年後とはいえ、結婚する相手がもう決まっていた……でも確かに目の前にいる先輩は結婚しなくていいかもしれない。けど、現実世界の先輩は4年後に……


 だから先輩に告白した人たちは全滅だったのか。それはきっと僕も同じ。過去に先輩に告白した人たちよりも、見た目も強さも遥かに劣る僕なんて歯牙にも避けられないかもしれない。


 でも……


 それでも僕は先輩が好きなんだ。


 2年間ずっと思い続けてきた先輩に許婚がいるからって諦められるわけがない。


 そんな半端な気持ちで人を好きになったりなんてしない。


 僕は諦めない。必ず現実世界でも先輩と今みたいに話せるようになる。そして僕がどれほど先輩を想っているのかを知ってもらうんだ。


 うん、まずはそこからだ。


 僕は先輩を好きな気持ちを再確認し、新たな決意をもとに目の前にいるこの世界の先輩と色々な話をした。


 途中お腹が減ったので神ショップでご飯を買うことになった。先輩の希望でファーストフードのハンバーガーセットにしたんだけど、先輩は初めて食べるみたいで幸せそうな顔をして食べていた。


 なんでもお祖父さんもお父さんがも米国の食べ物が嫌いで、食べたら駄目だと幼い頃から言い聞かせられていたらしい。それでも一度は食べてみたかったみたい。


 学校帰りに剣術部の女子に誘われたりもあるらしいんだけど、家の道場での鍛錬があるから行けなかったらしい。


 普段は堅いイメージで特定の人以外にはあまり感情を見せない先輩が、その大きな胸をワンピース越しにたゆんたゆんと揺らしながらポテトを口にして驚き、ハンバーガーを食べて頬を緩ませていた。


 僕はそんな年相応の普通の女の子のような先輩の姿を見て、また一つ彼女が好な理由が増えたのだった。


 揺れる胸を視界の端に収めながら……




※※※※※※※※※※


筆者より。


結局エロに走るという……


あと、ストック切れました。今後はちょこちょこ書いていきますので、気長にお待ちいただければ幸いです。ちゃんとキリの良いとこで完結はさせます。(*・ω・)*_ _)ペコリ


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