第16話 マジックテント
バシュッ
「あっ、鬼龍院先輩! テントです! やっぱりこれは魔道具でした! 」
僕は先輩に顔を向け、目の前で高さ2m、幅3mほどの大きさに展開したピラミッド型のテントを指差しながら僕も驚いてます風にそう言った。
「凄いなこれは……あんな小さな物がこれほどの大きさになるとは……」
「テントの周囲に薄っすらと白い膜が張ってますね。これは恐らく結界だと思います。マジックテントの商品説明に書いてありました。やはりこれはマジックテントだと思います。それなら中は見た目よりずっと広いはずですので中に入ってみましょう」
「あ、ああ……」
くっ……我ながらなんてわざとらしいんだ……でも先輩も驚いて思考が停止してるっぽいからここは押し切るしかない。
僕は先輩に突っ込まれる前に、テントの革でできた入口をめくって先輩に中に入るよう促した。
先輩と一緒にテントに入るとそこには15帖ほどの広い部屋があり、僕たちは玄関のある場所に立っていた。
玄関から見える部屋には右手にキッチンと冷蔵庫に電子レンジ。左手にトイレと脱衣所に浴室があり、正面には4人掛けのソファとテーブル。その奥にはセミダブルのベッドが置かれていた。
壁は白いクロスが貼られており、床はフローリングでソファやベッドは白で統一されていた。
「え? これは……部屋? 」
「みたいですね……この部屋の設備は魔石によって電気もお湯も使えると書いてありました。買うとかなり高いので最初から持ってたのはラッキーですね」
僕は玄関で驚いた顔をして固まっている先輩にそう説明した。
「なんというか……ずいぶんと都合の良い魔道具を最初から持っていたものだな……いや、森で夜営するよりは安全だし、私も女なのでな。色々と助かりはするが……」
「あははは……そうですよね。どこかのご都合主義満載の小説に出てくるような魔道具ですよね」
僕が作りました。
まあでも川で先輩の水浴びとかも魅力だけど、女の子にトイレの心配とかさせるのはね。いいんだ。先輩に不自由な思いをさせるくらいならご都合主義でもなんでも。
「とりあえず靴を脱いで中に入りましょう」
僕は玄関で立っていてもあれなので、靴を脱いで玄関の壁にある武器置き場杖を置き中へと入っていった。すると先輩も刀を鞘ごと抜いて壁に掛け、部屋の中へと入ってきた。
「ここがトイレみたいですね。洗浄便座なのは嬉しいですね。そしてここが脱衣所で洗面所とドラム式の洗濯機までありますね。乾燥もできるみたいです。お風呂は思ったより広いですね。三人は入れそうです」
前作のマジックテントより全然広いや。神様が気を利かせてくれたのかな? ありがとうございます神様。
「ずいぶんと設備がいいな。それに洗濯乾燥機があるのは助かるな」
「あとは衣類ですけど、ショップは僕しか見れないので部屋着とかは僕が選ぶことになります。センスが悪かったらすみません」
「そうか、そんなものまで用意できるのか。なに、なんでも構わないさ。君に任せるよ。私はちょっとお手洗いをお借りする」
「は、はい。僕はソファで用意してますので」
僕はそう言ってソファへ向かい、ステータスを開いて神ショップをタップした。するとそこには所持金35000zと、生活用品や武器、魔道具や食料品などの項目が現れた。
僕は生活用品の項目をタップして、浴室に置いてなかったボディソープやシャンプーにコンディショナー。なぜかあった食器類に、予備のトイレットペーパーとティッシュなどを買った。コンビニに置いてある物だから結構高い。もうすでに6000z使ったよ。
「凄いな。本当に買えるのだな」
「はい。魔石を換金して買えました。ちょっと高いですけど、必要なものなので」
「いや、買えるだけありがたいさ」
「いま部屋着を選びますのでもう少し待っていてください」
「ああ、横で見ているよ」
僕はトイレから出てきた先輩が隣に座ったので少しドキッとしつつも、次に衣類の項目をタップした。そこにはファッションや寝具、下着などの項目があり、寝具を選び毛布とクッションにタオル類を購入した。
それらは目の前に次々と現れ、先輩が隣で驚いている様子なのが感じられた。
そして次に部屋着兼パジャマを選んだ。
えーと……僕のは普通の黒のスウェット上下の一番安いものにして、先輩のは良いものをと思ったけどサイズはどれくらいのがいいんだろ? 大きすぎても失礼だし、小さすぎると苦しいだろうし……特に胸とか。
先輩にサイズを聞く勇気もないしな……これは無難にこのひざ下まである紺の長袖のワンピースにした方が良さげかな。これなら身長さえ合ってればまあなんとかなるし。個人的にも身体の線が出るから好きだし。
「ワンピースタイプか。ふむ、なかなか触り心地がいいな。着るのも楽だしこのまま寝巻きにもなる。土御門君ありがとう」
「い、いえ。女の子の服を選ぶのは初めてで……ピンクとかの方が良かったですかね? 」
せめて色くらい聞いておけばよかった。
「いや、私は落ち着いた色が好きなんだ。こういう色の方がいい。ピンクの方が女らしいのかもしれないがな」
「そんなことないです! 先輩は十分女性らしいです! その綺麗な黒髪には落ち着いた色が似合います! 」
「ふふっ、ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。ではさっそくシャワーを浴びさせてもらって着替えるとしよう。先にいいかな? 」
「は、はひっ! ど、どうぞ! 僕は一昨日の3年生みたいに覗いたりしませんので! 」
「ん? 一昨日? 一昨日に覗きをした不届き者がいたとは聞いてないが? 」
え? あっ! しまった! あまりにも先輩そっくりだから本物と間違えた! この世界の先輩はずっとここにいたんだった!
「あ、間違えました。昨年のでしたすみません」
「ああ、昨年の3年か。皇桜大学への進学を捨てて転校していったな。愚かな男たちだった。土御門君はそんなことをしないと信じてるよ」
「は、はい! しません! 」
「ふふふ、素直な子だな。ではお先に失礼する」
先輩はそう言ってシャンプー類とタオル類にワンピースを両手に持ち、脱衣所へと向かっていった。
「ど、どうぞごゆっくり! 」
僕は先輩の後ろ姿にそう声を掛け、神ショップの画面に視線を戻した。
うう……替えの下着のこと言い出せなかった……
言い出せたとしても女の子の下着を選ぶとか難易度高いよ……そもそも先輩は家では着けてるのかな? いつもサラシを巻いてるから家では着けてない? さすがにそれはないよね? 下は履いてるわけだし、やっぱり必要だよね。
下着か……確か86のEに下は88だったよね。どんなのがあるんだろう?
僕はもしも欲しいと言われたときのために調べておくことにした。
うわっ! こんなにあるの!? えーと……先輩のサイズで年頃の女の子がしてそうなやつ……この黒のやつなんていいな。え? 高い! 上下で1万zもするのか……僕のパンツなんて千zなのに……でも残り1万6千zあるから買える。よしっ! 言われたら買おう。でも先輩も好きでもない男に用意されるのも抵抗あるだろうしな。難しいな……
とりあえず僕だけ買うのもあれだし、僕も我慢しよう。
つ、次はどうしよう……そうだ! 食べ物! なんとなくお腹減ったし先輩も減ってるはず! コンビニ弁当かファーストフードだけど干し肉よりはいいよね。その前に飲み物を買っておこう。先輩がお風呂上がりに飲めるようにスポーツドリンクでいいかな? お茶も買って冷蔵庫に入れておくか。ほかには……
僕は聞こえてくるシャワーの音に意識を向けないよう、無駄に神ショップの商品を見て回り気を紛らわせていた。
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