第12話 人型

 


「なんだあれは……」


「鬼龍院先輩! ゴブリンです! ゲームや小説に出てくる魔物です! 武器は手に持っている棍棒だけです! 落ち着いて戦えば先輩の敵じゃありません! 」


 僕は茂みから現れた、身長120cmほどの額に角を生やし醜悪な顔をした3匹のゴブリンを見て固まっている先輩に勢いよくそう説明した。


「あれを斬るのか? 人に似た形の生き物を? 」


 先輩は刀に手を掛けつつも、抜くかどうか迷っているようだ。


 失敗した! 最初は狼とかにしておけばよかった。人型の魔物は普通の人には、これが創られた世界だと知らない先輩には心理的抵抗があるんだ!


 思えばこの世界が自分で創った世界だと知る僕だって、初めてゴブリンを倒した時は気分が悪くなった。いくら強くたって、平和な日本に住む女子高生が抵抗を感じるは当たり前だ。


 レベル1でもスタートから魔法を覚えている僕なら、恐らく3匹いてもギリギリいける。けど全部倒してしまったら先輩は自分を弱いと思うかもしれない。自信を無くすかもしれない。


 それは駄目だ! 先輩の辛そうにしている顔なんて見たくない!


 なら僕が! 僕がまずゴブリンを倒して、罪悪感を感じる必要のない魔物だと証明すれば!


『風刃』


 《ギギャッ! 》


 僕は先輩とゴブリンの間に立ち、僕たちに気付いて走ってくるゴブリンへ風刃を放った。


 僕の放った風刃は先頭のゴブリンの胸もとを深く切り裂き、ほかの2匹のゴブリンを巻き込み転倒した。


 そして僕の魔法を受けたゴブリンは魔石を残して消えていった。


 よかった……練習した甲斐があった。あとは……


「先輩! 見てください! ゲームみたいに消えました! あれは人間じゃありません! 魔物なんです! 倒さないとこの世界にいるかもしれない人間を襲うんです! ですから思いっきり戦ってください! 」


「土御門君……君は……すまない。君を守ると言っておきながら情けない。魔物……そうか、本当に異世界とやらに召喚されてしまったようだ……ならば、斬らねば殺されるならば……私はこの刀を抜き戦おう。鬼心一刀流 鬼龍院 小夜子……参る! 」


「援護します! 『プロテクション』 」


 僕は刀を抜きゴブリンへと駆ける先輩へ、防御力アップの魔法を掛けた。これはステータスの防御を20%アップさせる魔法だ。


「ハアァァ……ハッ! 」


「え? 」


 僕の防御魔法が先輩の身体を包もうとした時、先輩は起き上がったゴブリン2匹を一振りで切り裂いた。たぶん。


 たぶんというのは、僕はそのあまりの速さに目が追いついていなかったからだ。


 確かに刀は良い物を初期装備に設定したけど、レベル1で身体強化のスキルも使ってないのにこの強さとか。さすが先輩だとしか言いようがない。


「あ、えーと。先輩お疲れ様です……どうしました? どこか痛めましたか? 」


 僕はゴブリンを斬り終え刀をじっと見つめている先輩に、どこか身体を痛めたのかと思い声を掛けた。


「いや……初めて生き物を斬ったのでな……そうか……これが……これが木や藁ではなく生き物を斬る感覚か」


「あの……えーと、ゴブリンは消えてしまいましたし、あまり深く考えなくてもいいかと」


 僕は先輩が僕の時と同じく、生き物を殺したことを思い悩むのではないかと心配した。


「フッ、そうではないんだ土御門君。私はもっと斬りたいと思ってしまったのだよ」


 先輩は刀から視線を外し僕に振り向きそう言って笑った。


 その笑みはとても妖しくも美しい笑みだった。


 あっ……あの時の顔だ。2年前、街で木刀を振り回して暴れていた男を叩きのめした時のあの……僕の心を先輩に釘付けにしたあの笑みだ。


「ぼ、僕は先輩の戦う姿が好きです。ですからこれからたくさん戦いましょう。こんな突然襲い掛かってくる魔物がいる世界です。もしも人間がいたらきっと困ってるはずです。僕たちで駆除しましょう! 」


「私の戦う姿が好き……か。そんなことを言われたのは初めてだ。女が戦う姿が好きだなど、君は変わっているな」


「よ、よく言われます」


 違います。先輩だから好きなんです。戦っている時のあの顔が好きなんです。


「ふふふ、そうか。それならば期待に応えねばならないな。それと……ありがとう土御門君。あの時刀を抜くのを躊躇っていた私を鼓舞してくれて。君のおかげで私は自分を嫌いにならずに済んだよ」


「そんな……先輩は……恐怖で躊躇っていたんじゃないと思います。優しいから、生き物を殺すことを躊躇ったんだと思います。それは弱さなんかじゃ決してないと思うんです」


「土御門君……君は……ふふっ、ありがとう」


「い、いえ! そ、それより魔石を回収して先に進みましょう! レベルももかしたら上がってるかもしれませんから確認しましょう! どう考えてもこれゲームみたいなシステムですし」


 僕に優しい笑みを向ける先輩の視線に恥ずかしくなり、僕はゴブリンの魔石を回収して先に進んだ。


「ふふふ、わかった。ところでその石は何に使うのだ? 」


「それが……さっきステータスをいじってたらわかったんですけど、どうも僕の加護で魔石を食べ物や色々なものと交換できるみたいなんですよね」


「そんなことができるのか? まるでゲームそのものだな。魔物を倒して金銭やアイテムを得るといったところか……さきほどのゴブリンといい、いったいこの世界はなんなのだろうな」


「わかりません。もしかしたらゲーム好きの神様が作った世界なのかも知れませんね」


 僕のことですね。はい。


「なんとも俗っぽい神なことだな。しかし今は食糧の心配をしないで済むのはありがたい。この森は思ったより深そうだからな」


「そうですね。食べる物は大丈夫だと思います。とりあえず今はこの獣道を進んで行くしか無さそうです」


 この獣道と呼ぶには広めの道は、チュートリアル用の道だ。僕たちのいるここは、大陸の中心にある魔物の湧く渦と森の外にある街との中間地点だ。森のやや深い場所にいるので、大きく外れると強力な魔物と出くわすことになるんだ。


 このチュートリアルの道は外から強い魔物が入れないようになっている。だからここを歩いていれば、安全にレベルを上げながら街に着くことができる。


「そうだな。まずはこの歩きやすい道を歩いていくとしよう」


 先輩はそう言って僕を追い越し、周囲を警戒しながら歩いていった。


 僕はそんな先輩の後ろでステータスを開き、神ショップのタグをタップして魔石の投入口へゴブリンの魔石を投入した。


 すると所持Gが1500Gと表示された。


 神ショップは小説を書いていくうちに、先輩のために現実世界の衣料品店を追加したりした。これからも必要であれば追加していくつもりだ。


 大まかな価格はコンビニがジュースやお菓子が200Gからで、弁当は500G。ファーストフードのセットも500Gで、衣料品は2000Gからだ。


 そして魔導具は5万Gからで、魔法武器なんかは20万Gから買える。僕の持っているマジックテントは100万Gで、これは広さと設備に応じて1千万Gするものまである。


 だいたい最初に設定した価格の倍に修正されてる感じだ。


 僕はショップを閉じたあと、先輩に話し掛けてステータスを確認しあった。すると二人ともレベル2になっていた。大丈夫だとは思っていたけど、レベルアップ速度2倍が修正されていなくて安心した。


 レベルアップと同時にスキルポイントも1取得したけど、スキル取得は2PTからなのでまだ使えない。


 スキルは職業によって取れるスキルが違う。近接戦闘職には攻撃スキル、魔法職にはMPなどが増加する常時発動スキルなど長所を伸ばす感じの物がある。各職共通してあるスキルは、身体強化や空間収納とかだ。この辺はバランスを取るために、職種によって取得コストが違うようにしてある。前衛は身体強化を低コストで取得でき、後衛は高いコストになる感じだ。


 それでも僕たちはこの世界の人たちの2倍の速度でレベルアップすることができるから、スキルポイントはすぐ貯まるのでそれほど心配する必要はない。だから今はとにかくレベルアップを優先すべきなんだ。



 そしてそれから道を進んでいくと、ゴブリンが現れ先輩が瞬殺してを繰り返した。僕の出る幕なんてまったくなかったよ。


 途中先輩だけレベル4になって僕が2のままだったので、僕にも残してくださいとお願いしたくらいだ。レベル10にならないと、パーティ機能が解放されない設定にしたことを後悔したよ。最初からパーティ組めるようにしておけばよかった。ここまで圧倒的だとは思わなかったんだよね。


 そしてあっという間にドリームタイム終了の時間になり、僕は直前で先輩にひと休みしましょうと言って石に座ったところで意識が遠のいていったのだった。


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