第7話 設定作り

 



「うーん……世界観はテンプレの中世のヨーロッパ風の異世界にするとして、どういう設定にしようかなぁ」


 僕は家に帰り過去に読んだラノベやネット小説を思い出しながら、これから書く小説の設定を考えていた。


 まず導入とかいうシーンは僕が図書室で本を読んでいると先輩が隣に座って、そこで先輩と一緒に召喚されたことにしようと思う。


 召喚された理由はそうだなぁ……定期的に外の世界から適性のある者を召喚して、異世界に刺激を与えてるとでもしておこう。その代わり強力な加護をもらえるって事でいいかな。もちろん帰る方法はない。


稀に次元の渦に呑まれた者も来ることにしておこうかな。これは後で誰か増やしたくなった時の保険に使えるかも。


 それに高位次元から来た地球人は成長補正がつくようにしておこうかな。レベルアップ速度2倍でいいか。


 魔物は定番の魔物にして、魔王はどうしようかな……倒したら終わっちゃうしな。それだと先輩の戦う姿を見れなくなるから無しでいいか。魔王がいないことによって、魔物が街を襲うってのも少なくできるし。


 基本は人間と棲み分けができてる的なのが理想かな。こっちのペースで魔物と戦いに行けるしね。だとしたらダンジョンがいいかな? でもそれだとダンジョン内で人間に襲われたりもあるか……


 だったら前に読んだラノベの話にあった、大陸の中心に魔界と繋がる渦みたいなのがある設定にしよかな?


 大昔にその渦から現れた魔物により人間の国は滅び、土地も奪われたという設定でいいか。


大陸は一つだけで、ドーナツ型のように渦を囲んで滅んだ街を覆う森や砂漠があり、その外側の海に面した土地に人間や多種族が住んでる感じかな。


 大きな国とかあってうっかり人間と戦うことになるのは嫌だから、街単位の都市国家的な物があるようにしよう。貨幣は各都市で共通のものがあることにしてっと。仕組みとかには触れない。つっこまれても答えられないし。


 それで各都市国家はその奪われた土地を取り戻すべく長年戦っていると。各都市の協定で奪い返した土地は、奪い返した者の土地になるということになってることにしたら面白いかも。


 国とは別に個人で魔物から土地を奪い返し、住民を集めて街を修復して国を興すこともできる。それらを狙う者たちの組合を冒険者組合ってことにしようかな。


この組織は各都市国家に傭兵として冒険者を派遣したりもする。冒険者たちは魔物から土地を奪い返す力を、冒険者組合の依頼をこなしつつ付けていく感じかな。


 僕と先輩はここに加入して、日々の依頼をこなして生活していくんだ。あ〜ドキドキするなぁ。


 でもイケメンが現れて先輩を取られたらどうしよう……自分の創った世界の住人に好きな人を取られるとか立ち直れなくなりそうだ。


「す、スタート地点は街から遠い所にしとこうかな……」


 それくらいのアドバンテージはいいよね? 修正されないよね?


 それと魔石を使った魔道具とかがあって、高価だけど魔導自動車的な物もあることにしよう。これは過去に来た召喚者が、技術を伝えたような設定にしておけばいいかな。あくまでも中世風てことで。


「だいたいこんな感じでいいかな。人類はかなり住む所を限定されて、漁業や魔物を倒すことで経済が回ってるということにしよう。それで魔物はまた倒したら消えるようにして、低確率で出る皮や肉などの素材が現れるようにしておこう。神様ショップはどうしよう……僕だけ使えるようにしておこうかな」


 そうすれば先輩に1人で戦うとか言われないで済むかも。これくらいしか夢の中でさえ先輩を繋ぎ止める手段がないのも情けないんだけどさ。でも先輩と僕とじゃ基本スペックが違いすぎるんだよね。かと言って僕だけチート設定にし過ぎても修正されるし。


「神様ショップは前も認められたけど内容を変えて、コンビニとファーストフードに衣類やマジックアイテムに限定しておこうかな。あとは努力チート風にすれば修正も最小限で済むと思うんだよね。女神の加護はステータス画面を開けて、スキルポイントをいじれるというものだけにしておこう。あとは僕と先輩の職業をレアなのにしておくくらいかな」


 先輩はそうだな……侍かな。レベルMAXになると刀神になる強力な職業てことにしよう。僕は攻撃も回復も補助もできる賢者がいいな。最終的には大賢者になれるようにしよう。


 魔法は戦ってみて魔法名が長いと咄嗟に使いにくかったから、和風の短いのも入れようかな。無詠唱でもいいんだけどなんか味気ないし、『風牙! 』とか叫んだらカッコイイしね。


 よしっ! だいたい世界感は決まった。あとは魔法やスキルの種類をいくつか考えて、初心者セットを少し豪華版にして書き始めよう!


 早く書いて先輩と夢の中で話したいな。


 僕は色々とゲームの資料などを見て、物語に登場するアイテムや魔法などを決めていくのだった。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




 《ハァ! 》


 《勝負あり! 》


 《次っ! 》


 《お、お願いします! 》


「凄い……一瞬で」


 僕は目の前で繰り広げられた一瞬の攻防に、ただポツリと呟くことしかできないでいた。


 黒の袴を履き白い剣術道衣の上に、簡素な面と胴と小手の防具を身に付けた両者が、試合開始の合図とともに交錯した所までは見えた。


 けど次の瞬間には、先輩の木刀が相手の右脇腹に当てられていた。いや、正確には寸止めなんだけど、そのあまりの速さに僕の目が追いつかなかったんだ。


「すげーよなー。俺でもあれは避けられないわ」


「さっきの子は確かテレビで見たことある。中学の全国大会で優勝した子だよね? 」


「そうそう、見ろよ。本人は呆然としてるぜ? 去年もそうだったけど、入部初日に天狗になってる新入生の心を折るための歓迎試合だよな」


「折れても特待生だから辞めれないしね。そうやって敗北から這い上がる心を養うのが目的だって聞いたよ」


 剣術部に限らずこの学園の武術部では、毎年武術の特待生枠で入学した新入生との歓迎試合を行う。


 週明けの今日は剣術部と弓術部に槍術部が公開歓迎試合を行う日だ。徒手格闘系や柔術系は明日やることになっているので、放課後に三上と一緒に剣術部の道場に見学に来ていた。


「意気揚々と入学してきてすぐにこれじゃな。しかも毎回相手はその部の主将だ。明日は俺んとこもやるけど、心が折れた新入生の世話役にされちまったんだよな。めんどくせー」


「三上なら大丈夫だよ。なんだかんだ言って世話焼きだし」


 いつも口じゃブツブツ言うけど、結構世話好きなんだよね。孤立している僕に構ってくるくらいだし。


「俺を近所のオバハンみたいに言うな! 」


「あははは、まあ似たようなもんだよね。去年の体育祭て3年生に僕が馬鹿にされてる時に、横から入ってきたぐらいだし」


 去年の秋の体育祭の時に、競技に参加できない僕を軟弱者と言って蹴り飛ばした槍術部の3年生たちを、突然現れた三上が一人でノシちゃったんだよね。それまで話したこともない僕をなんで助けてくれたんだろ?


「あれは……優夜が強かったからな。強い奴が負けるのはおかしいから加勢しただけだ」


「前もそんなこと言ってたけどわからないや。僕、あの時ボコボコにされてたのに」


 3年生2人に蹴られまくってボロボロだったのに僕が強い? 強かったらボロボロになってないと思うんだよね。


「目がな……強かった。理不尽な暴力には負けないって。そんな目をしてた……まあそんな前のことはいいじゃんか! ほらっ! 憧れの鬼龍院先輩がまた一撃で倒したぞ! これで10人全員に一撃だな。強すぎだろ。さすが主将なだけあるわ」


「ほんと凄いよね」


 でも面越しに見える先輩の顔は眉をしかめてるんだよね。歯応えがなくてガッカリしてるのかも。


 今年の新入部員はシゴかれそうだなあ。


 先輩は強い人と戦ってる最中は、すごく生き生きとした表情をするんだ。


 でも試合に勝っても、いつも悔しそうな顔をするんだよね。勝って嬉しそうな顔をしたのを見たことがない。


 きっと、もっと良い戦い方ができたはずだと自分を責めているんだと思う。


 凄いよね。あんなに強いのにまだ強くなろうとしてるんだもん。ストイックだよなぁ。


「さて、終わったみたいだ。俺は部に顔を出してくるよ。じゃあまた明日な」


「うん。また明日」


 僕は最後に面を外した鬼龍院先輩の顔を目に焼き付けてから、道場を覗いていた窓から離れた。


 さて、急いで帰らないと。


 今日は帰ったら週末の3日間で書き溜めた小説を一気に投稿する予定なんだ。


 ネットで小説投稿サイトでフォローやポイントを早く得る方法を調べたらさ、最初は数話ほど一挙に投稿した方が良いって書いてあったんだよね。いくら僕そっくりの主人公とはいえ、先輩と仲良くしている姿を幽体離脱状態で何日も見ているのは嫌だから早く100pt取りたいんだ。


 ああ……でもそこまでして読んでくれる人がいなかったらどうしよう……いや、設定は練ったしこの先どうなるんだろうって思ってもらえるように書いた。初めて書いた小説でも5日で100ptになったんだ。大丈夫なはず。


 今回はもっと早く主人公の身体に入れると思う。


 できれば初日からがいいな。早く夢の中で先輩と話したい。


 僕は新作を読んでくれる読者がいなかったらどうしようと不安になったり、自分を鼓舞したり欲を出してみたりと忙しく考えながら家へと帰るのだった。




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