第8話 新作投稿
「とうとうこの時が……」
学校から帰った僕はドリームタブレットでカミヨムサイトにアクセスをして、新作を投稿する際に必要な設定をすることにした。
設定は最初に作品名を登録することから始まる。
僕は今回も『小説家になれる』風の長文タイトルにすることにした。
その名も『僕と先輩の異世界恋戦記〜憧れの先輩と召喚された世界は魔物溢れるとんでもない世界だった!〜』だ。
「長い……けど流行りみたいだし遅れをとるわけにはいかないよね。それでもなんだか頭が悪そうに見えるのは気のせいだきっと」
まあいっか。タイトルは途中で変更できるみたいだし、とりあえずこれで行こう。
「あらすじは異世界に召喚された2人が、最初は戸惑いつつも見知らぬ世界で冒険者となり、刀と魔法を駆使した戦いの末に自分たちの居場所を見つける……的な感じにしてっと。次にジャンルは異世界転移にして、その次はタグ設定か」
タグとは読者が読みたい小説を検索しやすいように設定するものだ。ほかには、この小説はこんな要素がありますよって一目でわかるようにする役割もある。
「うーん。まず『恋愛』は欠かせないかな。僕と先輩が最終的に恋人同士になるのが目的の話だし。ほかは『努力チート』に『アクション』に『クール系ヒロイン』『カッコいいヒロイン』『冒険』『魔法』てとこかな。R15はうーん……魔物は消えちゃうからそんなグロい描写はしないしなぁ。あとはえっちな描写か……ほ、保険で入れておこうかな」
僕は書いているうちに先輩との仲が進展して、もしものことがあるかもと保険でR15のタグを入れた。
しかし僕の頭の中ではそれは既に保険ではなくなっていた。
僕はそんな感じで思い付く限りタグを設定していった。
これも後から追加変更できるからとりあえずはこれでいいや。
そしていよいよ本文の投稿をした。
「ん? 初めて投稿した短編のタイトル文字が薄くなった? これは夢の中に出てくる物語が移行したってことかな? 」
新作を投稿した途端に、作品管理画面にあった処女作のタイトル文字が薄くなった。けど非公開になったわけじゃなさそうだ。
恐らく今後は新作の世界が夢に出てくるんだろう。旧作は夢の世界での行動により得られるドリームポイントは入らなくなり、小説を読んだ人の評価のみとなるってとこかな?
「処女作はフォロー数52人にポイントが185ptか……まあ頑張ったよね」
新作の世界に行った時のために、この3日間はずっとゴブリンと戦って経験を積んでたしね。それが評価されたのかも。そうは言っても1日1時間しか入れなかったんだけどね。
新作では先輩と1時間でも長く夢の世界にいれるように、もっとポイントを稼がないと。
「よしっ! あとは寝る前に確認しよう。24時まであと6時間か……楽しみだな……あっ! 近況報告っていうのがあったんだった! そこで処女作をフォローしてくれた人たちに宣伝しよう! 」
作者の管理画面には、読者に向けての近況報告というメッセージを書くことのできる機能がある。ここで読者さんに向け、更新がいつになりますとか色々と連絡するらしい。
僕はこの近況報告を使って新作の案内をすることにした。
「多分処女作と方向性は変わってないから、とりあえずは読んでくれるはず。それでとりあえず新作をフォローしてくれればラッキーかな」
僕も気に入った作品の作者さんの新作はとりあえず読むしね。
僕は52人のフォロワーさんたちの内、何人がまた読みにきてくれるか楽しみになった。
それからソワソワしつつも母さんと夕食を食べ、次の話を書きつつ一旦22時頃にポイントを確認してみた。
「やった! いきなりフォローが39人付いてる! 評価も3人から平均3ptもらえてる! 」
僕がカミヨムの管理画面を開くとそこには総合ポイント88という数字が表示されており、僕は小躍りするほど喜んだ。
「やっぱり前作のフォロワーさんが来てくれたのかな? かな? それとも夜のゴールデンタイムに投稿したから新規さんかな? 神様の世界じゃどうかわからないけど」
このペースなら初日から先輩と夢の中で会えそうだ。
僕はそれから10分置きにカミヨムサイトを開いてポイントを確認していった。
そして1時間後に僕は100pt越えを達成した。
「やった! フォロワー45人! 評価4人で103pt! 凄い! ネットに書いてあった通りだった! 最初はまとめて投稿の方が効果があるんだ! 」
前作のフォロワーさんもいると思う。けど6時間でここまで効果があったのは、ある程度話数があったからかも知れない。
これで先輩が僕のそっくりさんと冒険しているのを指を咥えて見ないで済む。
早く投稿したいのを我慢してて良かった〜。
「うん、寝よう。早く寝よう! 」
僕は早く先輩と会いたいのでもう寝ることにした。
眠れば先輩と2人っきりで会える。そして1時間も話せる。
眠れば図書室にいるはずだ。そこで先輩と隣同士になって……
僕はドキドキしながらベッドに入り目をつぶった。
しかし……
「眠れない……」
僕は楽しみ過ぎて眠れなかった。
まさか……楽しみにしていたゲームの発売日の前日でも眠れるこの僕が……
駄目だ、眠らなきゃ先輩に会えない。心を無にするんだ。何も考えるな……
無に……眠るんだ……寝なきゃ……なぜ眠れないんだ? 無に……せめて起きる時間の1時間前にはお願い……眠りに……
僕はただ眠るだけという行為に悪戦苦闘し続けていた。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
クルルルル
クールルル
「ん……ここは……」
僕は鳥らしき鳴き声に目を覚ました。
そして目を開けると頭上には青い空が見え、周囲は巨大な木々に囲まれていた。
どうやら僕は森の中にある拓けた場所に寝そべっているようだった。
ああ、ここは召喚されて最初に目が覚める森かな? 学ランを着てるし間違いなさそうだ。
よかった。なんとか眠れたみたいだ。
でもこの姿なのに図書室スタートじゃないのはなんでだろ?
あっ! 先輩!?
僕は身を起こし一緒に召喚されているはずの先輩を探した。
すると少し離れた場所に黒いセーラー服に赤いスカーフをした先輩が、僕と同じように仰向けになって寝ていた。
やった! 成功だ! なんで図書室での召喚のシーンがはぶかれたのかはわからないけど、とにかく僕の創作したこの世界に先輩と来ることができた。
あっ! 早く起こさないと! 魔物が来たら大変だ!
僕はストーリーでは近くに魔物がいないことになっているけど、ストーリーから外れた行動が取れる状態ではどうなるかわからないと思い先輩を起こそうと近付いた。
そして先輩を起こそうと声を掛けようとして、その姿を見て僕は止まった。
本当に先輩そっくりだ……まるで実物のように……
艶のある長い黒髪に切れ長の目……スッと通った鼻筋に……あっ、女の子の寝顔をいつまでも見てるのは嫌われるって父さんが言ってたっけ。
僕はずっと見ていたい気持ちを抑え、鬼龍院先輩に声をかけたのだった。
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