第4話 初戦闘
僕は大木の下で目を覚ましてから、主人公の身体になっていることの理由を考えていた。
「昨日と今日で違うこと……確か今朝見た時は総合ポイントが90ptを超えていた。ということはその後にフォローしてくれた人や、評価を入れてくれた人がいて100ptになった可能性がある。確か100ptになったら報酬があったはず。恐らくその報酬が、この物語の登場人物になれるものだったのかもしれない」
僕は今の現状がカミヨムサイトの100ptポイント達成報酬によって起こったことだと仮定した。
正直そんなことができる組織があるなんて信じられない。でも現に5日連続で物創作した物語の世界に来たんだし、その原因はどう考えたってあのドリームタブレットとカミヨム小説投稿サイトにあるとしか思えない。
僕はとりあえずはそう考えるようにして、そして足もとにあった杖を持って立ち上がった。そしてローブについた落ち葉を落とし、ふと僕のラノベ脳が一つの可能性を思い付いた。
「もしかして転移したってことはないよね? 」
そう、ネット小説でゲームの世界に転移して帰れなくなる話はよくあるテンプレだ。
「それは困る……先輩に会えなくなる。寝たら帰れると信じるしかな……ん? 」
僕が最悪の可能性を考えていると、開きっぱなしにしていたステータス画面の右下に、見慣れない文字があることに気づいた。そこにはドリームタイムという文字と、数字が表示されていた。
「ドリームタイムと56? なんだろこれ? こんな項目は設定で書いてないんだけど……あ、55になった」
ドリームタイムに減っていく数字……もしかして滞在時間?
それならカウントが0になれば帰れるってことだよね? ちょっと数えてみるか。
僕は夢の中にいれる時間のカウントだといいなと、頭の中で60秒をカウントしてみた。
するとだいたい1分ほど54に数字が減った。
「良かった。これはそのまんま夢の時間のカウントという意味っぽい。体感だとスタートは60分だったのかも」
僕は時間制限があることにひとまず安心した。けど帰れる可能性を見つけたら見つけたで、残り54分の滞在時間というのは物足りなさも感じていた。
「よしっ! 多分帰れる。それなら楽しまなきゃ損だよね。まずは魔法に慣れないと」
もし1日1時間しかこの世界にいられないのなら、エルフのいるところまでたどり着くのに何日掛かるかわからない。でもせっかくファンタジーの世界に来たんだ。魔法を撃って戦ってみたい。
僕はステータス画面を閉じて、魔法の試し撃ちをすることにした。
「MPは30あるし、3回くらいは大丈夫かな? なら魔リス……は可哀想だからあの木でいいか。『ウィンドカッター』 」
ボクは木の上にいる魔リスのその愛くるしい姿に攻撃魔法を撃つことはできないなと思い、正面の大木に向かって風の刃を放った。
その結果、風の刃は狙い通りに大木の表面をえぐった。
「念のため消費MPを確認しておこうかな。ステータス」
ユウ
Lv.1
職業: 賢者
HP: 28
MP: 27(30)
力: 12
防御: 12
魔力: 15
素早さ: 13
SP: 0
魔法: ファイアーボール・ウインドカッター・ヒール・シールド
加護: リアラの加護(成長率2倍)
「消費MP3か。これはちゃんと設定通りだ。神様ショップもあるし、加護だけ成長率20倍がダウングレードしたのか。なんでダウングレードしたんだろ? 小説の世界なら同じでいいと思うのにな」
イベントとかは主人公が強くなっているのを前提に設定しているから、このままじゃエルフの里を救うのは難しい。最低でも10倍は時間が掛かると思う。
僕は予定より時間が掛かるけど地道にレベル上げしていくしかないと思い、もう一度魔法を試したのだった。
神様ショップがあるからなんとかなるよね。
魔法の試し撃ちをを終えると、最初にエンカウントするゴブリンがいる場所に少し早歩きで向かうことにした。
《ギギャッ! 》
「うわっ! 」
僕は突然飛び出してきたゴブリンにビックリして固まった。
ちょ、直接相対すると怖い!
130cmほどの身長しかないゴブリンは、棒立ちの僕に向かって棍棒を振り上げて僕の足へと振り下ろした。
「うぐっ……痛い! や、やめっ……あがっ! 」
僕は足を棍棒で殴られ、そのまま膝をつき棍棒で頭を殴られるところを両手で庇いそのまま倒れ込んだ。
痛い……夢なのになんで?
僕は夢の中のはずなのに、リアルな痛みが身体を襲いパニックになっていた。
《ギャギャッ! 》
「ぐっ……このっ! やられっぱなしでいられるか! 『ファイアーボール』 」
僕はゴブリンが楽しそうに僕の身体を棍棒で殴り付けていることに頭にきて、至近距離でゴブリンの顔にファイアーボールを放った。
《ギャーー! 》
僕の魔法を至近距離で受けたゴブリンは、断末魔の声をあげながら頭を黒焦げにして倒れた。
そして数秒の後に透明な小さな魔石のみ残してその身体が消えた。
「うぐっ……ハァハァ……血が……痛い……『ヒール』『ヒール』 」
僕は倒れていた状態から上半身を起こし、額から流れる血を拭ってヒールを唱えた。
すると身体中の痛みが徐々に消え、額から流れる血も止まった。
「ま、まさかこんなに怖いとは思わなかった。自分で創った世界なのに死にかけるなんて……」
甘く見てた。風も感じるし手足に感覚がある時点で、痛覚もあることに気付くべきだった。
確かにここは僕が創った世界だけど、魔物が僕を避けるわけじゃない。主人公にしたのと同じように襲い掛かってくるんだ。
僕は世界観や魔物を設定しただけで、この世界を本当の意味で創ったのはきっと神様か何かだろう。
今思えばカミヨムって『神読む』なのかもしれない。神である読者とか最初書かれていたのは、お客様は神様とかそういうんじゃなくて、そのまんまの意味だったんだ。
神様を楽しませるサイトだというのなら、この力も納得だ。
あのタブレットは神器みたいなもので、カミヨム小説投稿サイトは神様用のサイトなのだろう。そう考えればネットで調べても出てこないし、僕の住所もわかるだろうし充電の必要のないタブレットも作れてもおかしくない。
神様の娯楽か……怖いし痛い。けどこの世界なら僕は運動をしても倒れることはない。
気になるのはもしもこの世界で死んだらどうなるかだけど、まさか現実世界の僕もベッドに寝たまま永遠の眠りにつくことは無いよね? 無いよね?
「怖いけどこの世界なら僕は強くなれる。走ったりもできる。今度はもっと落ち着いて慎重に戦う。この身体の僕ならできる! 」
僕は魔物への恐怖よりも現実世界ではできない動きができることと、なによりも強くなれることに魅力を感じていた。
そしてステータスを再度確認し、HPが全回復しているのとMPももう一戦できるほど残っているのを確認してから歩きだした。ドリームタイムの残り時間は30分を切っていた。
それから15分ほど歩いた頃。2匹目のゴブリンと遭遇した。
今度は僕は落ち着いてウィンドカッターを放ち、近づかれる前にゴブリンを倒した。
初戦の苦戦具合はなんだったのかと思えるほど呆気なかった。
僕は魔石を拾い、最初のゴブリンの魔石と一緒にステータス画面の神様ショップを開いてそこに入れた。
すると所持金欄に20Zと表示された。Zというのはゼウスの頭文字だ。安直だけどネーミング設定ってこんなもんだと思う。
そしてついでにショップの商品を見ると、価格が倍になっていた。
僕がここも調整されたのかとガッカリしているところで、ドリームタイムのカウントが残り5分になった。
「ちゃんと帰れるとは思うけど、ちょっと緊張するな。このまま待っていよう」
僕は残り5分ならゴブリンを探してるうちにタイムアップになると思い、そのまま待つことにした。
そしてカウントが0になった時。僕は急激な眠気を感じそのまま目を閉じるのだった。
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