第3話 不思議な力

 



 おかしい……今日で4日連続だ。


 僕は目の前で金色の髪に長い耳をしたエルフの女の子を連れ、エルフの里を襲う魔物の棲み家がある森の奥地へと歩いていくユウを見てそう思っていた。


 初めて夢で見てから4日……僕は毎晩この僕が創った小説の世界の夢を見ている。

 しかもストーリー通りに。


 2日目は、ユウはひたすらレベルアップをするために森で戦い続けていた。そしてユウが眠ると僕は初日と同じように部屋のベッドで目が覚めた。


 その時は2日連続で同じ夢を、しかも続きを見るなんて珍しいなと思っていた。けど3日目の夜もこの世界の夢を見た。


 3日目はユウはオーガすらも楽に倒せるようになっていて、レベルも30を超えていた。この世界では一流の戦士クラスのレベルだ。そのうえユウはレベルアップによって得ることのできる、この世界の人は自由に使えないスキルポイントを自由に使える。これによって身体強化などの魔法ではない特殊なスキルを手に入れ、有用なマジックアイテムも魔石を換金して神様ショップでたくさん手に入れていた。


 そしてユウは湖で水浴びをしている美しいエルフの少女に出会い、その直後に彼女へ襲い掛かってきたオークを瞬殺した。ユウに助けられた彼女は、裸を見られたことも忘れお礼をしたいとユウを里へと案内した。そして里でユウはエルフの長老に里が頻繁にオークの群れに襲撃されていることを聞かされ、オーク退治を請け負うことにした。


 ここまで全て僕が書いたストーリー通りで、僕は自分の書いた物語が実写化されているのを見ている気分だった。エルフの子の裸も凄くリアルだった。こんなことならもっとラッキースケベのシーンとか書いておけば良かったと思ったのは、一応健康な男子高校生なら仕方ないことだと思う。


 それからユウはエルフの里で一晩過ごし、僕は目が覚めた。


 ここまでは確率は低いけど3日連続で同じ夢を見て、その続きを見るのは無くはないと思えた。相変わらず記憶は鮮明だけど……


 でも4日連続はいくらなんでもおかしい。


 僕はなぜ毎日同じ夢を見るのか原因を考えた。


 その結果、思い当たるのは一つしかなかった。


 あのタブレットだ。この夢を見だしたのは、あのタブレットが送られてきた日からだ。それにこの世界は、カミヨム小説投稿サイトに投稿した小説の世界。どう考えてもあのタブレットと、カミヨムサイトが原因としか思えない。


 僕は目の前でオークの群れに対し、魔法を駆使し蹂躙するユウを見ながらそう確信していた。


 それからユウはオークキングを倒し、エルフの女の子に腕を組まれながら里に戻っていった。

 そしてエルフの長老に一緒にいたエルフの女の子を嫁にして欲しいと頼まれ、エルフの女の子もそれを了承していると聞いて受け入れた。


 ユウとエルフの女の子は翌日に祝言をあげることになり、ユウは長老の家で眠りについた。


 僕は目が覚めるとボーッとする頭を振り払い、この4日間存在を忘れていたドリームタブレットを起動させた。


 作者の管理画面が表示されると、いつの間にか総合ポイントが92ptに増えていた。そしてフォロー数も40人になっていた。


「僕が書いたつたない小説をこんなに読んでくれる人がいるなんて……あっと、今はそれどころじゃないや」


 僕は少し嬉しくなったけど今はそれどころじゃないと、サイト説明をタップして詳細を確認した。けどやっぱり投稿した作品が、夢に出てくるとはどこにも書かれていなかった。


 次に僕はパソコンを起動して、カミヨム小説投稿サイトやドリームタブレットを検索した。


 しかしカミヨム小説投稿サイトの特設ホームページも、カミヨムという名もドリームタブレットも検索には引っ掛からなかった。SNSでも検索したけど全くなかった。


「おかしい。いくらなんでも検索結果にまったく引っ掛からないなんておかしいよ」


 そもそもカミヨム小説投稿サイトはネットで見つけたんだ。その特設サイトすら引っ掛からないなんて……


 僕はなんだか不思議な力によって情報が消されているようにすら思え、怖くなってパソコンもタブレットも閉じたのだった。


「これは何かある……」


 ネットは権力者によって規制できるし、夢に関しては……このタブレットに催眠効果があるとかなのかな? でも初日以外はこのタブレット開いていないし……もしかして神様かなにかの力とか?


 僕はお金持ちの道楽サイトだと思っていたカミヨムが、実はなんらかの超常的な力により作られたのではないかとラノベ脳で考えていた。


 だとしたらやっぱり今夜もまたあの世界の夢を見るのだろうか?


 オーク退治をした日の翌日は結婚式だ。そしてその夜はエルフの女の子と初夜を迎え、それからは神様ショップで購入した現代の道具を使って里を豊かにして終わる。


 エルフの女の子と初夜……


 違う、そうじゃない。


 最終話まで進んだらもうあの夢は見なくなるのかな?


 また見たかったら新作を書けということなのかも。


 いずれにしろこのタブレットとカミヨムサイトが、不思議な力を持っているのは間違いないと思う。


 あのタブレットで物語を書いて、カミヨム小説投稿サイトに投稿すれば夢として見ることができる。


 こんなこと三上に話しても信用しないだろうな。だって夢を見るのは僕だけだし。頭がおかしくなったかのかとか言われそうだ。


 僕に似た主人公が初夜か……今夜が楽しみでもあり怖くもある。



 そしてその日の夜。


 僕はユウとエルフの女の子の結婚式も初夜も見ることは無かった。


 それは僕が主人公そのものになり、夢の中の世界で目を覚ますことになってしまったからだ。




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