第2話 夢

 


 ここは森?


 ああ、夢か


 それにしても大きな木だなぁ


 僕は地上から3mほどだろうか? それくらいの高さから目の前に立ち並ぶ木々を見ていた。


 ん? あそこで誰か寝ている?


 僕は20mほど先にある太く大きな木の下で、人が仰向けで寝ているのを見つけた。


 近づいてみようと思ったら、視点が少しずつ寝ている人の所へと移動した。


 黒髪にローブに杖、それにこの大人しそうな顔立ち……僕だ。


 《キュルル キュルッ 》


 僕が僕そっくりの人をまるでゲームのフリービューのように色々な角度から眺めていると、頭上から動物の鳴き声が聞こえてきた。


 リス? いや、額に水色の宝石って……まさか魔リス? それに僕そっくりの人と身につけてきる装備……まさかユウ?


 ああそうか。ここは僕の書いた小説の中の世界か……夢にまで見るなんて、なんだか恥ずかしいな。


 僕は僕が小説を書いている時にイメージしていた通りの光景に、ここが小説の中の世界だということに気付いた。


 すると寝ていた男の子の目が覚めたようで、上半身を起こしてキョロキョロし始めた。


 僕が書いた通りの動きだ。


 物語の中では主人公のユウは病弱で、ある日大きな病気にかかり17歳でこの世を去ってしまう。すると白い部屋で目が覚めて、女神様に異世界に行かないかと誘われるんだ。女神様の目的はエルフの里を魔物の脅威から助け、エルフを繁栄させてる欲しいというものだった。そのために特別に加護を与えるとも。


 なんで現地人を使わないのかとか、魔物の元を絶たないのかとかいうツッコミは無しにして欲しい。短編だし初めて小説を書いたから、知っているテンプレ展開を書くことしか僕にはできなかったんだ。自分でもご都合主義だと思う。


 そういう訳で目が覚めたユウは、ここが始まりの森であることを知っている。そして今目の前でステータス確認までし始めた。


 いきなり主人公最強は読者が萎えると聞いたので、賢者という攻撃・防御・支援魔法とバランスよく覚えて使うことのできるレア職にした。そして魔法を最初から数個使えるようにして、女神の加護としてレベルアップしやすいようにもしたんだ。


 十分チートだって? 最初から魔力が無限にあったり、強奪系のスキルとかの主人公よりは抑えてると思う。


 あっ、ユウが動き出した。そして頭上にいる魔リスに目を向けるけどスルーして歩き出した。魔リスは水の魔法を使うけど、この始まりの森で最弱の魔物であまり攻撃的じゃない設定だ。それにその愛くるしい見た目から、僕は攻撃をしないように書いたんだよね。


 自分で可愛く描写して見逃して、悪人を書いて倒す。このマッチポンプ感……でも物語を創るということは、こういう事の繰り返しなんだよね。


 僕は森を北へと歩くユウを色々な角度から見ながら追っていった。


それにしても幽体離脱して自分を見ているようで不思議な気分だなあ。



 そしてしばらく歩いていると、ユウの前にゴブリンが1匹現れた。ユウはウィンドカッターの魔法を発動してゴブリンの首を切り裂いた。


 ゴブリンは緑色の血を吹き出し倒れ、そしてゲームのように消えた。そこには無色の小さな石が残されていた。


 遺体が残らないのは、この世界をゲームの世界っぽく設定したからだ。ステータスもそうだけど、主人公がどれくらい強くなったか把握するのにゲーム設定は便利だからね。


 このオリジナリティの欠片もない設定……でも小説に限らず、まずはなんでも模倣から始めるのが一番の近道だってネットに書いてあった。だから最初はこれでいうと思うんだ。


 ユウはゴブリンを倒した後に、吐きそうになりながらもステータスを確認している。さすが女神の加護持ちだ。一匹倒しただけでレベル3にまで上がっていた。


 それからもユウはゴブリンを倒し、レベルアップで得たスキルポイントでMP回復速度上昇(小)を取得した。そして少し休んで戦ってを繰り返していた。


 水や食糧は初期装備セットに1週間分があるし、魔石をステータスを開いて神様ショップというウィンドゥを開いてからそこに入れると、ショップで使える通貨に換金される。これは様々なマジックアイテムを買えたり、日本のコンビニやホームセンターに売ってる物を買えたりするんだ。


 これもよくある設定だよね?


 そして夜になり、ユウが神様ショップで買ったマジックテントを開き中に入った。


 これはバストイレ付きの1Rマンションの設備と広さがあるものなんだ。これもよくある設定だと思う。たぶん。


 そして夜もふけ、ユウがベッドで眠りについたところで僕の目が覚めた。



「う……ん……朝? いい夢だったな……でもずいぶん鮮明に覚えてるな……」


 僕はベッドで目が覚め、つい先ほどまで見ていた夢を思い出していた。


 いつもならすぐに記憶が曖昧になって忘れるんだけど、この時は違っていた。


 ユウが大きな木の下で寝ている姿や魔リスの表情。ゴブリンとの戦いやマジックテントの展開まで、まるで映画を観た直後の時のように鮮明に覚えていた。


「不思議だ……でも自分が創った世界とキャラクターを見れてなんだか楽しかった」


「優夜〜 朝ごはんできてるわよー 」


「あ、うん。今いくー! 」


 僕が夢の中の出来事を思い浮かべていると、母さんがリビングから呼ぶ声がした。

 良かった。母さんは二日酔いにはなってなさそうだ。


 僕は部屋を出て顔を洗って歯を磨いてから、母さんと一緒に朝ごはんを食べた。


「優夜、体調はどう? インフルエンザが流行ってるから気をつけるのよ? 」


 ご飯を食べていると母さんが心配そうにそう言ってきた。僕は小さい頃からよく熱を出す。それに運動をすると、すぐにめまいがして身体に力が入らなくなる。これは原因不明でお医者さんも匙を投げて、そういう体質なんだと受け入れるしかないと言っていた。


「うん。今は大丈夫だよ。いつも心配掛けてごめん」


「いいのよ。強い身体に産んであげられなくてごめんね」


「視力もいいし耳も良いよ。ちゃんと話せるし歩ける。五体満足で産んでくれたことに感謝してるよ」


 僕は早産だったらしく、さらに帝王切開で産まれた。母さんのお腹にはその時の傷がある。小さい頃に母さんとお風呂に入っている時に、その傷を見るたびに痛かった? って泣きながら聞いていたのを覚えてる。


 今もお腹を切るなんてすごく痛い思いをしてまで、僕を産んでくれたことに感謝している。


 それにネットをしてると五体不満足の人たちと交流することがある。でもみんな苦しい中でも必死に生きているし、楽しいことを見つけてる。


 その人たちに比べれば僕はすごく恵まれていると思うんだ。だから痛い思いをしてまで、五体満足に産んでくれた母さんに感謝すべきなんだと思う。


「そう……ありがとう。でも学校でいじめられてない? 剣術や武道がすごく強い学校なんでしょ? 」


「大丈夫だよ。目立たないようにしているし、友達もいるから」


 僕が通っている高校は私立大学附属の武道で有名な高校だ。偏差値も高くて、中学の3年の時にあの人に出会ってから必死に勉強してギリギリ入学することができた。父さんと母さんはすごく喜んでくれたけど、金銭的負担を掛けちゃって申し訳なく思ってる。


「三上君ね。軽そうに見えるけど、あの子は特待生だったわよね? あの学校に特待生扱いで入れるなんて凄いわよね」


「小学校の時から空手の大会で何度も優勝してるみたいなんだよね。チャラ男だし練習嫌いだけどね。才能って残酷だよね」


「ふふふ、そういう子は陰ですごく練習してるのよ。お母さんの同級生にもいたわ」


「うーん……そういえば部活が終わるとすぐ帰ってたかも。休みの日しか遊んでないような……」


 確かに放課後に遊んだことはないかな。あの三上がこっそり自主練をしてる? 信じられない……


 僕は茶髪のチャラ男こと三上のことを思い浮かべたけど、自主練よりも女の子を追っ掛けてるイメージしか湧かなかった。


 昨日も合宿ダルいとか、早く帰ってナンパしたいとかSNSのNineで言ってたしね。


 そして朝ごはんを食べ終わり、その日は春休みらしく一日中ラノベや小説サイトを見て過ごした。


 そしてその夜。またあの夢を見たんだ。


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