第93話 ウォービルVSシュヴァイン

「いくぞダイフォルガー!!」

『お任せあれっ!!』


 ウォービルの気迫に応えるダイフォルガーが光包まれたかと思うと、ウォービルの魔力に応えた彼は3メートルはありそうな大剣へと変貌する。

 防衛砦付近でエドガーと手合わせをしていた際にも見せていた形態であり、ウォービルの魔力量から計算して戦闘可能な限界の長さである。伸ばすだけなら簡単だが、そうなると一撃に込める力が弱まり、とても実戦は使えるものにはならないのだ。

 威力と攻撃範囲、そのバランスの究極型がこの状態だった。


 ウォービルの気迫に当てられたか、シュヴァインのそばにいた死霊たちが一斉にウォービルへ襲いかかる。


「邪魔だっ!!」


 それらをたった一振りで退け、ウォービルはシュヴァインの死霊との距離を一気に詰める。

 突撃する慣性そのままの勢いを伴いながら、横一線に振りぬいた彼の攻撃をシュヴァインは後方へ跳躍し回避した。


「避けた……?」


 その光景に違和感を持つゼリレア。

 昨日までのシュヴァインになかなか攻撃を仕掛けられなかった彼女だが、シュヴァインも含め死霊たちが回避行動を取る姿は昨夜まで一度たりとも見たことがなかった。

 攻撃を防ぐことはあったが、基本的に死霊たちの思考は攻撃の一点のみだったのだ。


 だが攻撃回避されることは織り込み済みだったか、突撃する勢いと、横なぎに振りぬいた大剣の遠心力をそのまま活かし、一回転したウォービルの一撃が再びシュヴァインへ襲い掛かる。

 その速さに対応できなかったのか、シュヴァインは威力の相殺を狙い剣を振り下ろす。

 剣と剣がぶつかった衝撃とともに、ウォービルの込めた魔力が爆散する。

 だが必殺の威力を込めたウォービルの一撃は、シュヴァインによって防がれていた。

 防がれる予感はあったのか、ウォービルが後退し間合いを取る。


「ちっ。死してなおやはりお前はお前か……!」


 彼以外の者ならば、今の一撃を前に倒れていただろう。

 だがエンダンシーを用いての実戦訓練を彼とはしたことがないが、実剣を用いての訓練で二人の勝敗はほぼ互角。

 リトゥルム王国で唯一ウォービルが簡単には倒せないと認める男が、目の前にいるシュヴァインなのだ。


「……お前ほどの男が、なぜ死んだ……!」


 4日目の夜に死霊たちが現れ出し、窮地に陥った部隊の救出のために彼が出陣した話は聞いている。

 仲間を救うために、死んでも死なない者たちを相手取り、きっと彼は一晩中戦い続け、死んだのだろう。


「忠義に厚いお前を……!!」


 王国のためにその命を散らした栄誉ある男の命を弄ぶ反乱の首謀者が、ウォービルには許せなかった。

 傷つき、汚れてしまっていても、彼の胸元には金糸のスリーソードが残り続けている。王国でたった7人しか着ることが許されない、騎士の誉れ。


 スリーソードは王国七騎士団の団長及び副団長の証であり、一本は英雄王が使っていたと言われる王家に伝わる宝剣を。

 一本は建国より王家を支えたリッテンブルグ公爵家に英雄王が送ったという剣を。

 そしてもう一本は、騎士となった者自身が掲げる剣を意味する。

 己自身が王国を支える者となれ、王国七騎士団の象徴たるスリーソードにはその意味が込められているのだ。


 その誉れ高きスリーソードを汚された。

 長年の友の名誉すら、奪われた。


 王国最強の男の怒りは、もう抑えきれなかった。


 せめて、自分の手で、彼を終わらせる。

 それが友として、好敵手としての、手向けだった。


「うおおおおおおおお!!!」


 全身から迸るほどの魔力を込め、ウォービルはシュヴァインへ突撃した。

 彼とシュヴァインの相手に割って入る死霊たちを尽く薙ぎ払いながら、ウォービルの一撃がシュヴァインへ迫る。

 だが、刀身が3メートルほどはある大剣を軽々と振るうウォービルから放たれる連撃を、防ぎ続けるシュヴァイン。

 その光景を茫然と眺めるゼリレアにとって、その戦いはまるで現実感のないものだった。

 どうしてそんな速さで攻撃できるのか、どうしてあの攻撃を防げるのか、理解できない。

 だが、ウォービルの放つ魔力に秘められた悲しみが伝わり、彼女の心にも苦しさが込み上げてくる。

 こんなに悲しい戦いを、彼女は知らなかった。

 剣を打ち合う夫とかつての友。

 この戦いも戦場における一幕に過ぎないのだが、この戦いの結末を見届ける義務が、自分にはある気がしていた。


 だが、その戦いを邪魔する者が目に入る。

 この戦いを邪魔させない。


 考える間もなく、彼女は駆けだしていた。

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