第3話 魔法が使えない系

 信也


 俺、死んだのか…


 信也ッ!


 眠たい…


 起きろ信也ッ!


 起きる…?


「信也起きろって!今何時だと思ってんの?土曜日だからって寝過ぎだろ」

 布団をめくり上げられた。

 これはうちの母だ。


「お母さん…お休み」

 1度めくり上げられた布団をすかさずまたかぶった。


「おいこら信也ッ!」


 そっか…さっきのは夢だったんだ…

 異世界転生した納得が行く。

 でもあの痛み…

 あの感触…

 リアル過ぎて怖い、、、


 ゴンッ!


「いってぇ!殴ること無いだろッ!」


「早く起きな。大事な話があるから。」


母が深刻そうな顔をして俺を呼び出した。


 その日、お爺ちゃんが病院で息を引き取った。

 元々体が弱っており、入院していたうちのお爺ちゃんだったが、今朝、脈が急に下がりそのまま息を引き取った。


 うちは4人家族で俺、母、姉、父

 姉はカナダに留学中で

 父はイギリスでの仕事


 この一軒家には今、俺と母の2人で住んでいる。

 随分と家の中は寂しくなった。あの時の笑い声は当分聞いていない。


「お母さん…お休み…」


「お休み、信也」


 2階の自分の寝室へ行く途中、何度もお爺ちゃんの顔がよぎった。

 俺は元々小さい時からお爺ちゃんっ子だったから本当に悲しかった。


 布団に入っても落ち着かない。


 …お爺ちゃん…

 …お休み…


 気づかないうちに涙がこぼれていた。


 ………

 …


「――哀れなる勇者よ」


 あれ…


「――哀れなる勇者よ」


 呼び掛けに答えるようにゆっくりと目を開けた。


「…あれっ…?」


「――哀れなる勇者よ」


 目を開けるとそこには野良猫とは思えないような綺麗な白い毛並みの猫が脳に直接語りかけている。


「私よ美少女天使よ」


 あれ…これって…


 見た事がある。

 ハッキリと覚えてる。


「…ミーちゃん…」


「何で今考えたあだ名を当てちゃう訳だにゃ?」


「ミーちゃん…ミーちゃんだ…」

 何故だろう、この猫を見た瞬間に色々な事が頭を駆け巡り涙がこぼれてきた。


「ど、どうしたにゃ!自分がコミュ症だからってそんなに泣くこと無いにゃ!」


「ミーちゃん…」


「?…何だにゃ?そんな真剣な顔をして?」


「ドラゴンって知ってる…?」


「当たり前だにゃ!ミーちゃんはこの世界の天使だにゃ!」


「1000年前の伝説だよな…?」


「ミーちゃん達天使が力を封印したから大丈夫にゃよ?どうしたんだにゃ?」


 俺はあの時ちゃんと見た。

 あのドラゴンが

 あのドラゴンは

 崩壊の炎竜だ。

 もうすぐ復活する…

 伝えなきゃ

 あれがこの王都へ来れば間違いなくこの国は滅びる。


「ドラゴンが復活する…!」


「そんな訳無いにゃよ。ミーちゃん達が完全に封印したから…!」


「違うって!復活するんだって!あの崩壊の炎竜が!国が滅びるんだよ!あれが復活したら!早めに手を打た…」


「信也…」

 ミーちゃんは急に声のトーンを変え俺の話に割り込むように聞いてきた。

「一回、死んだでしょ」

「それに…現実世界で大事な人が亡くなったんじゃないの」


「何で…それを…」


「代々私達天使が呼び出した勇者は未来予知が出来たの。

 しかし未来予知をするたびに勇者はどんどんと頭がおかしくなり精神崩壊しこの世界に来なくなっていたわ。」


「それって…」


「呼び出された勇者が使える魔法は未来予知だと思われていた。だが実際は違う。

 実際の魔法は【タイムリープ】と呼ばれるもの。死んだらリセットされ数日前に戻る。

 だから勇者はこれから起こる事を全て当てた。1度味わって死んでいるから。」


「じ、じゃあ何で俺の大事な人が死んだって分かったんだよ」


「【タイムリープ】の条件よ」


「条…件…?」


「【タイムリープ】の条件は


 現実世界での大事な人の死」


「じ、じゃあ俺がこっちの世界で生き返ったのは…」


「きっと貴方の大事な人が死んだからよ。

 だから来る勇者は皆、精神崩壊していったんだと思うわ。」


 そんなの…あんまりだ…

 俺の責任でお爺ちゃんが…?

 俺が死んだ責任で変わりにお爺ちゃんが…?

 いや、違う…


 全部、全部全部全部全部全部全部全部

 全部全部全部全部全部全部全部全部全部


 コイツらの

 この天使の…


「ふざけんなよ!!何で俺を選んだんだよ!お前が…お前が俺を選ばなかったら!お爺ちゃんは死ななかった!何で…何で…!」


「…ごめんなさい」


「今さら謝ったて意味無いんだよ!!何で最初に言ってくれなかったんだよ!!おかしいと思わないのか!!こんなの…!あんまりだよ…」


「…ごめんなさい」


「ごめんなさい」


 こんなに他人にキレたのは始めてだった。

 俺は出てくる言葉、暴言全てをコイツに吐きまくった。

 怒りと悲しみでどうにかなりそうだった。

 コイツはずっと謝っていた。

 謝り続けていた。

 最初に言っていた強い人を集めていた理由は多分、力とか体力とかそういった強さじゃない。多分精神的な意味での強さ。


 気が付けば日が暮れていた。

 その日は王都の宿に泊まることにした。

 頭の中は色々と複雑で整理がつかない。


 宿のベットに座り頭を抱え込んでいた。

 ミーちゃんは悲しそうな目で窓から外を眺めていた。


 俺は多分この世界だとなんの力も無い。

 魔法も使えない。力も無い。只の一般人。

 唯一使えるのが、犠牲を払うタイムリープ。

 俺はこの先何回も死んで何人も大事な人を失うのだろうか…

 そんなの嫌だ…


 ふとミーちゃんの言葉が頭をよぎる

「この世界に来なくなっていたわ。」


 そうか…

 分かった。


「ミーちゃん…俺さ…決めたよ…」


 これ以上大事な人を1人も失わない方法。


「信也…」


「俺…死ぬわ」


「信也ッ…何を…!」


「現実世界で俺が死ねば、誰も死なないんだろ!!俺がこの世界に行けなくなれば!皆助かる!!」


「待ってッ!信也ッ!」





――俺が死ねば全て解決だよな



 











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