第3話 春と一緒にやってきた人
そんなお墓参りからはや1ヶ月。
別に大したことも起きず、あれから音楽が降りてくることもなく。
淡々とエントリーシートを何枚も書き、履歴書を何枚も写し、何枚も企業へ送りつけているうちに春休みは終わってしまい、私は大学4年に上がろうとしていた。
新学期は慌ただしい。時間割を組んだり、新一年生をサークルに勧誘したり、とりあえず新学期だし春だしってことで飲み会もたくさん行われた。その中でもキチンと予定通りに私の就活は2次面接、最終面接へと進んでいった。
そんな4月の終わり。わたしの所属するサークルに新一年生が入ってきた。たったの5人だったが、されど5人。これから私たちの大切な仲間だ。
わたしの所属するサークルはいわゆる飲みサーというもので、基本的に飲みに行くことが多い。もちろんボーリングやカラオケ、キャンプに行くこともある。大学生らしいことを何でもできる自由なサークルだった。
その5人の入部を祝うため、私たちは大学最寄り駅の近くにある焼き鳥屋へ入った。と言ってもサークル全員ではない。新一年生3人と、二年1人、四年3人の全部で7人で飲みに行った。この二年1人と私を含む四年3人は元々仲が良く、よく宅飲みをする仲でもあった。
一年生2人は高校生の雰囲気を残した黒髪の女の子たちで緊張している様子だった。しかしもう1人の男の子は一年生には見えないほど大人びていてそして見た目が綺麗だった。美少年という感じ。髪色は漆黒なのにダサくないし、何ならその漆黒に吸い込まれてしまいそうだった。綺麗なこの男の子を一年生の女の子がチラチラ気にしていたから私たちも何となく「この男の子目当てで入ったんだろうな」と察した。
「好きなもん頼みや〜今日は俺らの奢りだし」
その一声で今回の飲みはスタートした。
お酒が進むにつれて一年生も私たちも会話が弾む。一年生の女の子たちはカシスオレンジを飲んでいた。…あの男の子はなんだったけ。思い出せないほど彼はすぐ飲み終わっていた。
「先輩。みずき先輩。」
気がつくとその男の子が声をかけてくれていた。ちょっと酔っていたし、頭も回っていなかったようだ。
「ごめんごめん、どうしたの。」
「僕の名前、きいてくれないんですか。女子には聞いてたのに。」
「えっ、あ〜ごめん。もう知ってるんだよね。水城君でしょ。」
「そう。正解。じゃあ名前当ててください。」
名前。水城、は覚えていた。自分と名前が同じだったし、女の子たちが「みずきくん」と声のトーンを上げて呼んでいたから。でも流石に下の名前までは覚えていない。
「ごめん、知らない。教えて。」
「水城 御影。ねえ、本当に覚えてない?俺のこと。」
思考が止まる。なんだその言い方。
私と水城くんは知り合いだったのだろうか。
「覚えてないならいいです。」
そう彼は言うと女の子の方へ体を向け「何飲んでるの?僕にも飲ませてよ。」と声をかけていた。
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