第3話 君クビになりたい?

 勇者宿舎は、ライス城に隣接する広大な国有地に建設された。元々は三〇人程度を想定し土地を贅沢に使用し建設。しかし、急遽追加で二七〇人分の勇者宿舎を造ることになったが土地があまり残っていなかったため、街中や城に仮設宿舎を建設。その間に先に建てられた宿舎に改修と増築がなされ、軍の工兵や街の大工を総動員して僅か十日で造られた。

 しかし、政府の苦悩はここで終わりではない。次々と問題が浮上し、王国も対策に大忙しである。


「陛下。勇者様方の一部が『インターネット』を要求しています。なんでも、動画が見れないだのSNSが使えないだの暴れており、魔王討伐どころの話ではありません。どうなさいましょうか?」


 王は城内の会議室で、他の幹部とともに勇者たちへの対応について案を練っていた。しかし、その幹部たちは殆どが顔面蒼白であり今にも倒れそうである。そんな中、聞き慣れない単語を王は付添人から聞く。パン王国の公用語は日本語であり、王は生まれも育ちもパン王国なので日本語はほぼ完璧な筈であった。


「うむ。ところで、『インターネット』とは何だ?日本語で言ってくれ。あと、カメムシ臭い」


 王は、臭いはしてないが、付添人のロッカーにカメムシを数百匹ほど放り込んだだめ、文章の最後にあしらう言葉を一言付け足した。


「僭越ながら陛下、『インターネット』は日本語の辞書にも載ってるので日本語の筈です。あと、カメムシは全匹保護した後、陛下の部屋の窓に貼り付けておきましたので臭くないはずです」

「君クビになりたい?」


 付添人はふざけた言動を取ることは多いが、決して無能ではないのでクビを切ろうにも切れないのだった。


「……まあいい、で他の勇者はどうだ?魔王討伐に意欲的になってくれたか?」

「いえ、全く。誰一人として興味すら持とうとしません。そこで、私めの提案なのですが芝居をするというのはどうでしょうか。異世界から召喚した勇者と言えども価値観などは各々違うでしょう。いきなり魔王を倒せと言われても乗る気がしないということの筈です。しかし芝居ならば、なぜ魔王討伐が必要なのかがすぐにわかることでしょう」

「他に方法も無いし、やる価値はあるだろうな」


 こうして、勇者たちに訴えかけるための芝居の制作が開始された。


「とりあえず、内容を決めないとな。戦意が高揚するような芝居……」


 パン王国は大陸の覇権国家であるが、周辺国との戦争は数百年前を境になくなってしまっていた。それ故、それまで行われていたであろう戦意高揚を目的とした芝居も受け継がれることなく途中で途絶えてしまっている。そして、いざ戦意高揚させるような芝居を考えろと言われても、王には厳しかった。本来なら有名な脚本家を公費で連れてくればいい。だが、魔王が迫っているという状況でのこのこと一番魔王に襲われやすいであろう王都に来るものなどいない。例えそれが王の命令であっても。


「実際の魔王やその手下との戦いはリアリティがありすぎて逆に引いてしまうのでは?」

「そうだな。まあ、何かに譬えた方がいいだろうな」

 

 あまり流血シーンや残虐なシーンを入れると、却って戦意喪失に繋がりかねない。

 王は考えてもアイデアが全く思いつきそうにもなかったため、付添人の言う通りにすることにした。


「これなんてどうです?暴虐の国王が支配する中で、王の付添人となった主人公がカメムシなどの嫌がらせに絶えつつも王の首を切り落とす」

「カメムシってワシじゃないんだから……ってこれワシだよね?舐めとん?お前の首切り落としたろか?」


 付添人が自信ありげに語る提案を王は黙々と聞いていたが、途中で違和感を覚え始めた。そして、王自身のことだと確信すると、中指を立てて付添人に怒号を飛ばす。


「いえ、偶然の一致です。世界には同じ顔の人が三人いるっていいますし。たまたま私が陛下のばんこ……行動を知らずに言ってしまって、それが偶然にも当てはまっている可能性だってあると思いませんか?」

「今蛮行って言おうとしたな?大体──」


 大体行動知ってるだろ、と言いたかったが話を元に戻したい付添人に無理やり戻された。


「話が本題からそれすぎですよ。芝居の内容の話に戻りましょう」

「君さあ?……もういい。ツッコミに疲れたよ」


 王は急に生きる気力がなくなったように、頭頂部が背もたれに触れるくらいに椅子に深く凭れかかった。


「陛下、相当理由は存じませんが窶れてるように見えます。たまにはゆっくりなさってくださいね」


 ツッコミがいのある台詞だが、疲れ切った王はツッコミを言うわけでもなく静かに席を立ってトイレへと向かった。

 途中、行き交う人が王を見て心配そうな表情を浮かべるが、王にそんなこと気づく余裕はない。


「全く、あやつはいつからあんなふうになったんだっけ……?うぅ」


 付添人とことを深く思い出そうとすると、勇者たちと付添人のストレス下痢っぽくなってしまう。

 王は廊下にあるトイレに入っていったが、出てくるまで暫くの時間を要することとなった。

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