第5話
テンポは簡単に。
でも単純な繰り返しにならないよう少しづつ変化を付けていこう。
行進曲っぽく、それをポップなリズムを奏でる。
皆が乗りやすく、ギターのかき鳴らし方にも強弱をつけて。
(コレは、俺も含めて前へ進む為の曲だ。だから、だから震えてるなよ、俺の手。楽しめ、全力で楽しんで歌うんだ)
「なにを始めるつもりじゃ?」
キキスが怪訝な表所で俺を睨む。
「この勝負は簡単明快、俺の演奏を俺の歌を、貴方が止められたら、そっちの勝ちだ」
「……ほう」
「そして、貴方達が俺の音楽を乗ったら、それが俺の勝ちだ」
此処に居る誰もが一瞬で方が付くと思っているんだろうな、小馬鹿にした笑いをしている人が大半を占めている。
こんな笑いは、久しぶりだな。キキスと呼ばれる彼女も同じだ。
「では行くぞ」
「いつでも、どうぞ」
一発目が肝心だ、さぁ全力で度肝を抜いてやるよ。
お前らにライブってもんを教えてやる。
==============☆★☆★============
勝負なんて初めからキキスの勝利で終わる。
俺もフォルも思ってた、いや、ここに集まった全員が思ってたともう。
キキスも一瞬で終わらせる為に防音結界に合わせて、風で吹き飛ばそうとダブル演唱を唱えて、マコトに放った。呆気ない終わりだと誰もが思ったのに。
「さぁあああああぁぁ、行くぜやろ共おぉぉおおおおおおぉぉぉ‼」
かき鳴らしていた楽器をより一層に激しく鳴らすと、その音が拡散するかのように音が倍増されてい、防音結界も風の魔法もかき消す様に飛散させた。
「なっ⁉」
「バカな」
耳に痛い音ではなく、体の内を響かせる様な音がすぐに響き始める。
誰もが驚いた顔をしてマコトを見ている。
俺も、フォルもキキスも例外なく全員が彼を見た。
それを嬉しそうに笑みを浮かべて、周りを見回して歌を歌い始めた。
「このっ‼【エアショット】」
魔法を撃たれたのに、その場から動かずに歌う。
「がむしゃらに目指した――――――」
風の塊がマコトに当たる前に、ただの向かい風の様に吹き荒れるだけで終わった。
「なっ⁉ なんじゃこいつは、何が起きてるっ‼」
同じ風の塊をぶつける【エアショット】を連続で放っても、結果は同じだ。
「何が起きてんだ?」
「…………多分、彼はキキスのエアショットをほどいてる」
「は? 意味が分からん」
「えっと、圧縮した風の塊を毛糸玉として、毛糸玉を一瞬で解す感じかな」
「なるほど」
確かにそれならイメージしやすい。
「いやいや、そんな事できんのかよ」
「わかんない……でも、凄いな」
フォルの奴は相変わらず、魔法に関する事にはすぐに興味を惹かれるな。
瞳がランランに輝いてるよ。……ちょっと怖いから離れよ。
「ならコレならどうじゃ【アクアバレット】」
キキスもそれに気付いたようで、今度は水の魔弾を放つ。
しかし、その魔法が当たる事はなかった。
キキスの水弾は勝手にそれて、上空へと上がっていく。
「宙を見ようと――――――」
「何故じゃっ⁉」
向きになってキキスがアクアバレットとエアショットを連弾で打ち始めた。
マコトはギターを弾く手を止めて、天を指さしてから手拍子を始めた。
ゆっくりと歩きなが、楽しそうに踊る様にキキスに近づいていく。
「さぁ、皆さんも一緒に」
さっきまで弾いていた音楽に合わせる様な手拍子で周りを載せていく。
初めは戸惑いを浮かべていた者達も、徐々に参加し始めていく。
キキスの攻撃は一度として当たらない。
吹き荒れる嵐の中で、堂々と歌い。
向かい風に向かって叫ぶように歌う。
襲い掛かる魔法は踊る様に避けて。
マコトの周りには風が吹き荒れるのに、彼は物ともせずに進む。
その間、彼が反撃に出た事は一度もの無い。
ただ、歌うだけだ。
ただ、曲を奏でるだけだった。
彼の周りはキキスの魔法でまるで曇天の空模様だ。
それが周りが手を打ち鳴らし、繰り返しの音で刻まれる歌を皆で歌う様になる。
そんな瞬間、周りと一つの音を奏でた瞬間とでもいう一瞬に、曇天の空模様が一瞬にして晴れ渡り、虹の輪を掛けていた。
一瞬のこと、でもその瞬間に俺も、そしてキキスも目を奪われた。
俺は、気付けばマコトから一度も目を離していない事に気付いた。
最初から最後まで、彼の歌が終わるまで全く気付いていなかった。
彼一人をただ見ていた。
そして、それは俺だけじゃない。
誰よりも誇らしく笑う彼に、何故か負けたと思ってしまう。
この視線を集めるマコトを、凄く羨ましく、カッコイイと心を奪われたのは間違いない。
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