第4話
彼らに音楽の楽しさを伝えるだけなら、簡単なのかもしれない。
音楽に関する技術なら限界まで詰め込んだ、最後の一瞬まで学んでいた。
自分自身が『くだらない』と、一度捨ててしまった音をもう一度、ここで始める為の一曲。
前世での俺には才能が無かった。
音楽に関わりたくて、あらゆる楽器に音楽、歌やダンスまで並んだのに全てだめだった。全ての周りの者達に言われ、自身も諦めた。
己の死期を知った時に、バカな賭けをしたものだと今も思う。
捨てた癖に、諦めた癖に、くすぶっていた一かけらのゴミと称した癖に、俺の背中に似た名も知らない子供達に賭けを持ちかけた。
自分が言われてきた『才能がないな』と言ってやりたかった。
ただ『お前には向いてない』と嫌味を言うだけのつもりだった。
彼らの、彼女らの音楽を最初に聞いた時は『酷い』の一言で片付くお粗末なものだった。だから奴らの目の前で、侮辱し笑い物にしてやった。
俺の楽器を捨てる様に渡して。
どいつもこいつもヘタックソで俺みたいに周りから才能がないと、言われていた奴らの癖に、最初に馬鹿にしたはずの女は、トップアイドルになってテレビに映ってやがった。
ステージの上で誰よりも上手く歌っていた。その隣には運動音痴のどんくさい奴だった女の子が華麗に踊ってやがった。
才能があったんだ。俺とは違う。それで終われば悔しくもなかった。
また一人、また一人、俺が声を掛けた奴等が何かしらで有名になっていく。
俺が馬鹿にしてやった音楽でだ。
蔑みズタボロに侮辱したはずなのに、どいつもこいつも、俺の渡した楽器や教えた歌やダンスでムカつく程に有名になっていきやがった。
最後には残酷にも奴等は全員で賭けの結果を聞くために、全員から逃げ続けた俺に向けたゲリラライブをおっぱじめる始末だ。
俺が始めた賭けを、アイツら全員が勝ちを攫って行きやがった。
一番見たかったステージの上から、色んな人々を魅了して心を掴む、その景色は俺が見たかったんだ。誰よりも己自身が見たかった景色を、特等席の観客席から見たくはなかった。
祖以後の最後に燃えカスだったもんに、どいつもこいつも燃料投下なんかしてくれたもんだから、死んだってのに死にきれなくてこんな所に来ちまった。
俺は俺が才能が無い事は一番に理解している。
だからこそ、俺にはパートナーが必要だ。どんな形だろうとステージの上に居る為に仲間が必要不可欠。
その第一歩が彼らだ。逃しはしない。
何でも良い、彼らの琴線に触れられれば良いんだ。
ただし、此処で魅せるべきは技術の高さなんかじゃあない。
“楽しさ”だ。
アイツらが教えてくれたモノは技術じゃなかった。
ここ全部を巻き込んで、楽しむ事が大事なんだ。
初めて音楽を聴く者達でも乗りやすいテンポで、楽しく合いの手を入れられる様に考えろ、あっちで出来なかった事も、この世界なら色んな事が出来る。
魔法は魅せる為にはうってつけだ、俺の勝ちは音楽を好きにさせることだけだ。
楽譜は無い、歌う導も無い。
何年ぶりだろうか、歌うのも、曲を奏でるのも、その第一が全て白紙だ。
怖くないわけがない。
ギターを持つ手が震えているのが判る。
アイツらもこの感覚を味わったのだろうか。
「なんじゃ? 怖気づいたなら止めても良いんじゃぞ? 寝とるのか?」
虚勢を張ろうと、怖いモノは怖い。
でも、ここで音楽の楽しさを教えられるのは、この俺一人だ。
さぁ、胸を張って歌おう。
アイツらが教えてくれたみたいに、胸張って高らかに。
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