第3話
★☆★
==ちょっとした天の人達==
「のう、なぜ奴に加護が幾つかついとる?」
「はっ、音神夫妻が転移の途中に割り込み、其々が一の加護をさずけたそうです」
「え? なに、許可したの?」
「わ、私では止められなく」
「いや、責めとらんから良いんじゃが…… そなたのせいではないしのぉ」
「こ、こちらがあの者に授けた加護だそうで」
「ふむ、どれどれ」
「どちらも、その……音楽に関連する事でしか力を使えないので、主様の契約の範疇からは外れていないと……屁理屈、いえ、何でもありません」
「確かに別段問題はないな。本当にこちらの穴を突いたような事をしおって」
『あら良いじゃない、彼の世界の音楽は良いモノよ。その欠片でもあの世界に満ちるのなら、私達は誰に何と言われても手を貸すわね』
『ハニーの言う通り。彼の世界の楽器はどれも素晴らしいモノだ。きっと良いモノを彼は見せてくれるだろう』
「はぁ、勝手な事をした分のペナルティは受けて貰うからの」
『あらあら、言うじゃありませんか。貴方だって独断で決めた事なのでしょう』
『そうそう、お互いに此処は見なかった事にするのが良いんじゃあないかい?』
「ぐぅ、しかしだな」
『じぁあ、賭けをしましょう』
『彼がこれから、どんな行動を起こしても、良い方に転がったなら我々は無罪』
「……よかろう」
★☆★☆
フォルと俺がいつも使っている訓練広場へとキキスが皆を転移してくれた。
「暴れても問題ない場所なら、やっぱりここだね」
何故かマコトが頷いて、広場を見渡している。
「そういや、何で色々と知ってんだよ?」
ある程度の住民は見たという様な態度が、ふと気になった。
「そりゃあ、見ていたからね」
俺の問いに、平然とした態度で答えた。
「どっからです?」
「我でも気付かんほどだと?」
フォルが興味深そうにマコトを見つめて聞く。
魔力関知に長けたフォルもキキスにも関知されない場所で、俺達の事を物見が出来る範囲に入れるとは到底思え得ないのだけど。
マコトは何も言わず、ただ上を指さした。
その背中は何処か悲壮感が漂っている。
「デカいよな世界樹……一番上にな」
やけにカッコよく見える角度に移動し、決め顔で世界樹の頂上を見つめている。
「まさか、ずっと上から見ていたのですか?」
「よう生きて降りてこられたの」
世界樹と言っても、その太い木々には鳥や昆虫など世界樹にとっての益虫と呼ばれるモンスターが数多く生息している。世界種の影響である程度は温厚ではあるのだが、無断で彼等の縄張りに侵入してくるものには容赦はしない。
モンスター達は世界樹の恩恵を受けている事もあって、やけにタフで以上に強くなっている為、此処に住まう者達でも手練れじゃなければ相手に出来ないはずだ。
「自分だって最初はね、助けを呼んだんだよ、下の方に居る君達に必死にね……」
物凄く悲しい表情をしながら、瞳から光が消えうせた目で俺達を見てくる。
「逃げながら、必死に叫んだ差。でもね……、君達には届かないんだよ。なに彼等は? なんなのアイツら? 本当にただのモンスター? すっごい知識豊富よ? 仲間が呼べないように防音結界なんか張ってさ、スピードで追い詰められない知ったら、どっからか共闘し始めて俺一人に対して複数で攻め始めるし。モンスターが違う種族と共闘ってなに? なんか通じ合っちゃってさ、鳥と虫って相いれないでしょう? 可笑しくない? ねぇ」
段々と愚痴を言うたびに無表情になっていき、終いにはゆっくりと俺達に手を伸ばして、ゾンビやスケルトンの様に迫って来るのが恐ろしかった。
「ふははは、なぜ逃げるんだい? さぁ始めようではないか。俺を見てくれよ」
フォルも俺もキキスだって、マコトのあまりの迫力から遠ざかってしまった。
そんな俺達を面白半分で見モノにしていた、周りの連中は異様に離れた位置に何時の間にか逃げ延びている。巻き込まれまいと限界ギリギリまではなれやがった。
戦闘に特化しているだいの男達が、なんて情けない。
まぁ、マコトの異様な気配は確かに普通と違うから戦いたくはないだろうけど。
「我らは何時でも準備で来とる、攻撃してきてえんじゃぞ」
キキスが挑発しながら言うが、マコトは小首を傾げているだけだった。
「ふむ……あった、これだな」
彼は何もない空間から、奇妙なモノを取り出した。
キキスも杖を取り出して、俺達よりも前へ出てマコトと対峙する。
「俺は歌は苦手なんだ、演奏と俺の考えうる魔法だけで申し訳ないが、さぁ堪能してほしい」
武器というには、何の魔力も感じない。人を攻撃するための刃も付いていない。
丸っこい寸胴な部分を抱え、長細い部分まで伸びた持ち手には五本の紐が付いている。ハンマーなら持ち方が逆だし、抱え込まないだろう。
五本の紐の様な部分を、マコトは勢いよくかき鳴らし始めた。
「さぁ聞いてもらうよ、一曲入魂。君達に向けて、今の自分に出来る全力の初ステージ」
対峙しているはずのキキスなど眼中に無い様で、俺達にギラついた視線を向けてくる。
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