スーパーどんでん返しマンVS絶対どんでん返しさせないマン

小嶋ハッタヤ@夏の夕暮れ

スーパーどんでん返しマン最後の戦い

「うおおおおバイトの面接に遅れそうだああああッ!」

 面接開始の五秒前に起床した彼は焦っていたッ! だがしかしッ!

「間に合えええええッ!」

 一喝ッ! するとひとりでにテレビが点いたッ!

『次のニュースです。大手ファーストフード店のボッタクリアが大規模な食品偽装を行っていたことが分かりました。この他にも劣悪な労働環境や賃金未払いなどが明るみとなり……』

「ボッタクリアって俺が面接申し込んだとこじゃねーかッ!? まさかこんな悪徳企業だったとはな。面接行かなくて正解だったぜ」

 男の名はスーパーどんでん返しマンッ! 何の因果か彼の人生にはどんでん返しが付き物だったッ!

 東に病気の子供が居れば、行った翌日には全快しッ!

 北に喧嘩や訴訟があれば、面白そうだから混ぜろと言うッ!

 そんな、ノリと勢いとどんでん返しを愛する男なのだッ!

「さて、今日も楽しい一日になりそうだなッ!」

 家賃二万の住処ボロアパートを出たスーパーどんでん返しマンは、なんとなく近所の河川敷へと向かったッ!

「お〜やってるやってる」

 そこには、平日の真っ昼間にも関わらず草野球に興じる男たちの姿がッ! 今日は「人生ブレイカーズ」と「金満ソサエティーズ」が勝負していたッ!

「なるほど。三回裏の時点で165対0か。これなら余裕で逆転できるなッ!」

 スーパーどんでん返しマンは人生ブレイカーズにパーティインッ!

「やったぜ。お前が居れば逆転間違いなしだ!」

「わしに又、あの『岡山の奇跡』を見せてくれや」

 岡山の奇跡とは、90対53という絶望的な点差を付けられた状況から163点を稼ぎ出した未曾有の出来事のことであるッ! スーパーどんでん返しマンが透明ランナーを駆使すればこの程度造作もなかったッ!

 しかしッ! 金満ソサエティーズのピッチャーから驚きの言葉が発せられた!

「透明ランナーは認められません。必要無いでしょう? 両チームとも九人揃っているのですから」

 常識とは時に無慈悲なものであるッ!

 試合再開ッ! スーパーどんでん返しマンはバントでホームランを打ったものの焼け石に水であったッ! 他の面子が人生の落伍者ゴミカスだからだッ! 点差は一向に縮まらないッ!

「どういうことだよ!」

「お前真面目にやってんのか!」

 ゴミカスたちはスーパーどんでん返しマンを責め立てるッ! 一度もヒットすら打っていない連中だッ!

「絶対負けねええええええッ!」

 スーパーどんでん返しマンは叫んだッ! するとチームメイトの身体に異変がッ!

「な、なんだか身体がアツくなってきやがったッ!?」

「わしも全身がいきり立つようじゃッ!」

 それから先は、まさにどんでん返しッ! 人生ブレイカーズの面々は次々とヒットやホームランを放ち、金満ソサエティーズを圧倒していったッ!

 結果、165対810で人生ブレイカーズの勝利となったッ!

 チームメイトたちは意気揚々と自宅ダンボールハウスへ帰っていくなか、金満ソサエティーズのピッチャーはスーパーどんでん返しマンを睨め付けたッ!

「噂以上ですね、あなたの異常性は」

「今日はいいタマ放ってくれたじゃねえか。ところで誰だ?」

「職業は宇宙刑事。そして私のコードネームは『絶対どんでん返しさせないマン』。つまり貴方の天敵です」

 スーパーどんでん返しマンと絶対どんでん返しさせないマンッ! 矛と盾ッ! まさに氷炭相容れずッ!

「調査の結果、貴方はどんでん返しの名の元にあらゆる事象を解決しています。その成功率は驚異の百パーセント。ただの一度も失敗はありません」

「おうッ!」

「しかし、その出鱈目な性質は宇宙の秩序に反します。よって大銀河連邦法第十四条に則り、この惑星に干渉を行います」

 その口上が終わるや否やッ! 空には数多の怪物たちが出現したッ!

「宇宙警察が保有している獰猛な異形生物クリーチャーどもを放ちました」

「テメー! 何やってんだッ!?」

「貴方の異常性を否定する方法は至極単純。『絶対にどんでん返しができない絶望的な状況』を作り上げれば良い。ただの一度でも『どんでん返しが出来なかった』という事実さえあれば、それだけで宇宙の秩序は保たれる。百パーセント確実に不条理を覆してしまう存在など、あってはならないんです」

「……? もう一回言ってくれ」

「つまり、地球もろとも貴方が消滅すれば宇宙の平和は守られるということですよ!」

 異形生物クリーチャーどもが上空より火球を放つッ! 燃え上がる河川敷ッ! 焼け焦げる家々ダンボールハウスッ!

「さて、この状況でもなお、どんでん返しが出来ますか? スーパーどんでん返しマンさん?」

「俺は絶対負けねええええええッ! 地球は、俺が守るッ!」

 スーパーどんでん返しマンは叫ぶッ! 声の限りに叫ぶッ!

 するとわずかに異形生物クリーチャーの攻撃が止まったッ!

「ほう。で、あれば。こちらも本気を見せましょう」

 対する絶対どんでん返しさせないマンも奥の手を出したッ! 宇宙の狭間に封印されしS級異形生物クリーチャー、通称『百魔獣の王』を呼び出したのだッ!

 百魔獣の王が現出した際の衝撃波によりアメリカ大陸は消滅ッ! 人類の半数が消えてなくなったッ!

「マジかああああッ! 頼むううううううッ! 誰か助けてくれええええええッ!」

「おやおや、ついに他力本願ですか? やはり、貴方の異常性もここまでのようですね」

 しかしッ! スーパーどんでん返しマンの悲痛な叫びは彼方の民に届いたッ! その証拠に、消え去ったはずの陸地が再び現れたのだッ!

「何? まさかアメリカ大陸が復活したのか? だが今更……」

 絶対どんでん返しさせないマンは知らなかったッ! この地球という惑星には、遥か昔に超古代文明期があったということをッ! 復活したのはアメリカ大陸ではないッ! アトランティス大陸だったッ!

『傲慢な宇宙刑事よ。その蒙昧さに気づくがよい』

 古代アトランティス人の文明は、絶対どんでん返しさせないマンのさらに上を行くッ!

 アトランティス製超兵器の起動により、百魔獣の王は鎮圧ッ! 異形生物クリーチャーどもは恐れをなして宇宙の果てへと逃げ帰っていったッ!

 アメリカ大陸も復活ッ! 燃えた建造物は元通りッ! 人生ブレイカーズの面々もワンカップで祝杯をあげ始めたッ!

「どうだッ! これが俺のどんでん返しだあああああッ!」

「なんということだ……おしまいだ……」

 がっくりと崩折くずおれる絶対どんでん返しさせないマンッ! その顔には絶望が刻まれていたッ!

「おいおいそんな顔すんなよ。なんかよく分かんねーけど古代アトランティス人が文明パワーでぜんぶ元通りにしてくれたらしいし、もう水に流そうぜ」

「貴方は知らないのです……。宇宙の秩序が乱れたとき、どんな結末が待っているのかを……!」

 泥酔していた浮浪者の一人が突如、真黒まくろな裂け目に落ちて消えたッ! 人々は驚く間もなく消失していくッ!

「嗚呼……遂に、宇宙が無秩序に耐えられなくなったか……」

「おいテメーッ! またなんかやらかしたのかッ!」

 絶対どんでん返しさせないマンは、吠えるスーパーどんでん返しマンに言い返すッ!

「やらかしたのは貴方の方だ! この宇宙は秩序を尊ぶ。その法則に相反する貴方は、存在するだけで危険なのですよ! その綻びを正すため私はこの惑星にやってきたのに……全てが徒労だった」

 スーパーどんでん返しマンッ! 異常性の塊のような彼は、あらゆる不条理や因果律すらもひっくり返すッ! 秩序を重んずる宇宙にとってそれは、赤子に核兵器のボタンを持たせるようなものッ!

「もしかして……俺が居るせいで、宇宙が滅びるってことか?」

「そうだと何度も言ったでしょう!? 今更責任を感じて切腹セップクなどしても無駄ですよ。この宇宙はもう限界です。ジタバタせずに最期の時を迎えましょう」

「こうなったら、俺はああああああッ!」

「また馬鹿の一つ覚えのように……。叫んだところでこの現状、古代アトランティス人もさじを投げるでしょう」

 しかしッ! 異変が起こったッ!

「わしの身体が又、びんびんにいきり立ってきおったッ!」

 人生ブレイカーズの一人が声をあげたッ!

『この波動はいったい何事ッ!? アトランティス文明にこのような技術は存在しなかったッ! しかし何だかとても気持ちがいいッ!』

 古代アトランティス人はノリノリだッ!

「#*〒≒∇♂♪♬ッ!」

 ちゃっかり生き残っていた百魔獣の王までもが共鳴しているッ!

「なんだこれは!? いやまさか!」

 絶対どんでん返しさせないマンは懐から宇宙計器を取り出したッ!

「古代アトランティス人のDG(どんでん返しの略)値、八千兆だと!?」

 計器のメーターはさらに振れたッ!

「二百京、垓、さらに上昇していく!? うわっ!」

 宇宙計器はあまりのDG値の上昇に耐えきれず爆発四散したッ!

「まさか貴方……!」

「そうだ。俺はスーパーどんでん返しマン。あらゆる状況をどんでん返すのが俺だッ! だが、その専売特許は今日で終わりだな」

 スーパーどんでん返しマンは宇宙の全てに遍くDGパワーを注いだのだッ! 誰かがスーパーどんでん返しマンになれるのなら、誰もがスーパーどんでん返しマンになれるッ! 今や宇宙全土がスーパーどんでん返しマンの理念に沿って動いているッ! それが普通ッ! それこそが秩序ッ! 彼はこの宇宙における「秩序」という言葉の定義を書き換えたのだッ!

「宇宙の秩序ってのが重要なんだろ? だから俺色に染め上げてやったぜッ!」

「はは……なんていう乱暴な……」

 だが絶対どんでん返しさせないマンは安堵していたッ! 方法はどうあれ、宇宙の平和は守られたのだからッ!

 しかし同時に気付いてしまうッ! スーパーどんでん返しマンが宇宙の秩序と化したのならば、それに相反する彼は……ッ!

「なるほど。つまり私は、この宇宙に残った最後の『無秩序』というわけですね?」

「そうなるな。じゃあ始めっかッ!」

 所詮、二人はただの男であったッ! どちらが本当の秩序かを決めるのに必要なのは、拳ただひとつッ!

「いくぞおおおおッ!」

「初手より奥義にて仕るッ!」

 真の秩序を有するのはどちらか一人のみッ!

 スーパーどんでん返しマン最後の戦いが始まったッ!

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