第29話
夜更け、学校から抜け出す影が3つあったという。
近隣の住民が、突然聞こえてきた複数の足音と、話し声を不審に思い見たところ、生徒の姿が確認出来たらしい。
学校側は、直ぐに確認し、4人の夜中の脱走を確認した。
警備を強化しても逃走を許してしまった。教師達は、クロヒに対して少しづつ不満を持つようになった。
◇ ◇ ◇
「あはははっ。凄い、本当に抜け出しちゃったんだね」
「スノウ、静かにしないと迷惑」
「あっごめん」
スノウは慌てて口を噤んだ。
夜中に学校を抜け出して、旅に出る。スノウのテンションが上がるのも無理はない。
他の2人も、静かにはしているものの、内心ではかなり気持ちが昂っていた。
学校からどんどん離れ、3人は走り続けた。
「よし、ここまで来たら大丈夫だろ……っ!?」
王都の外れ。以前、シュウを連れ戻しに向かった森への入口まで向かうと、3人は立ち止まった。
しかし、クロヒは誰かの気配を察知して、すぐさま気を引き締めた。
「――お前らは油断が多いな」
「!?」
暗闇に紛れるようにして、目の前に突然人影が現れた。
どこかで聞いたことのある声。
「オズワルド、来なくてもいい」
ミナが頬を膨らませて答えた。
「そういうわけにもいかない。今回は事が事からな。俺がついて行かないわけにはいかない」
「……過保護」
「なんとでも言え」
夜中に口喧嘩が始まった。このまま続けさせるのは面倒なので、クロヒは止めることにした。
「つまり……オズワルドはどういうことなんだ? 味方か?」
クロヒ達にとってはそれが一番重要だった。教師達の仲間となれば、当然今すぐに逃げなければいけない。
それに、ここで時間を掛けるわけにはいかないのだ。
「俺はあくまでもミナの手助けをするだけだ。敵でも味方でもない」
「んだよ紛らわしいな。要は仲間ってことだろ? よろしくな、オズワルド!」
「…………」
オズワルドは、差し出された手を表情を消えることなく握った。
少なくともクロヒに対して敵対するわけではないのは確かだった。
「よし! 3人とも、準備は出来てるんだよな?」
「うん! 勿論!」
「それ、学校出る時も聞いた」
「準備してないとでも思ってたのか」
クロヒが思い描いていた反応とは全く違い、皆バラバラの反応でズッコケざるを得ないかった。
だが、ある意味それのお陰でクロヒもふっきれた。
「行くか!」
クロヒの掛け声とともに、4人は森の中へ進んで行った。
◇ ◇ ◇
野生の動物は夜に活発になることが多い。それは、魔物でも同じだ。
最近の魔物大量発生は、ヒトキの活躍もあり収まったが、それでもクロヒ達は魔物との交戦を余儀なくされた。
しかし、4人であれば以前窮地に追い込まれたクロヒとスノウでも怖くはない。
クロヒは省エネで後方から援護して、スノウも共に遠距離から狙い撃つ。
そして、ミナとオズワルドは接近戦でバタバタと敵を倒していった。
「流石、新人戦優勝コンビだね。安心して戦えるよ」
「……敵が弱いだけ。この先が問題」
「ああ。森を少し先に行けば、広い草原に出る。それさえ抜けてしまえば荒野は直ぐだが、そこに生息する魔物が厄介だ」
「ドラゴン……か」
ドラゴンは、王国から離れた山脈に住む魔物だ。
草原など見晴らしの良い場所で狩りを行う習性があり、飛行能力も高いので、山脈から離れた草原まで狩りをしに現れる。
強烈な炎を吐き、強靭な肉体と、硬い鱗を使った攻撃が脅威だ。
この旅の中で1番の山場になることは間違いなかった。
「あ、日が昇ってきたよ!」
辺りが薄らと明るくなった。視界も一気に広がり、一気に動きやすくなった。
「……眠い」
ミナは目が薄くなり、小さな欠伸をした。
「地図だと、もうすぐ川が見えるから、そこまで行ったら休憩だな」
今のところは、クロヒ達は順調に進んでいる。早ければ、明後日には草原まで行けるかもしれない。
真っ直ぐ歩いていると、遠くからじわじわとと川が流れる音が聞こえるようになってきた。
川の音が大きくなる度に、クロヒ達の表情も、明るい音に変わっていく。
そして、遂に森が開けて、岩場の中を流れる川を見つけた。
「クロヒと俺は魚を取ってくる。お前らはその間休んでてくれ」
「え、でも」
「オズワルドの言う通り、休んでおけって。休める時に休めないと、後で大変だぜ?」
「……ありがとう。少し休んでくるよ」
スノウとミナの2人は休憩に向かい、そしてオズワルドとクロヒは魚取りに向かった。
「……オズワルド。魚取りなら任せとけ! こういう時もあろうかと、罠を作っておいた!」
そう言って、クロヒは自作の罠を自分のバックから取り出した。
それを見て、オズワルドはニヤリと笑った。
「……ほう? それは、良いな。それで魚が取れる確率は?」
「川に魚が居れば100パーセント取れるぜ!」
クロヒも自信満々に答えた。
「よし、なら採用だ。罠を設置したら、俺たちもここで一旦休もう」
◇ ◇ ◇
スノウとミナは、こんがりと焼けるいい匂いに釣られて目が覚めた。
そして、目の前には美味しそうに焼ける大きな魚が4匹。そして、川エビも何匹か取ってきていたようで、赤く綺麗に色づいている。
「お……美味しそう!!」
「どうだ! オズワルドと2人で取ってきたんだぜ!」
「凄い、天才だね!」
スノウは凄い喜びよう。そして、ミナもじゅるりと思わず涎を啜った。
4人で焚き火を囲い、魚をむしゃむしゃと食べる。脂が乗っていて、味は絶品だ。
「そういえば、オズワルドくんとミナちゃんって仲良いよね。いつから友達なの?」
スノウが魚を食べながら、話を始めた。
「オズワルドとは、幼なじみ。家が隣同士だった」
「へぇー。幼なじみかぁ……。クロヒくんもメイちゃんと幼なじみって言ってたよね。私もミナちゃんと幼なじみだったらなぁ……」
「……友達になれたんだから、それでいい」
ミナが顔を逸らしながら言った。
「うう、優しいなぁ、ミナちゃんは……」
「鬱陶しい……」
ミナの頭を撫でるスノウに愚痴を言いながらも、止めようとはしなかった。
「でもそっか。それならオズワルドくんも幼なじみなら心配になるよね」
「まあな。でも、根本で言うとそれだけじゃない」
オズワルドがそう言うと、ミナの顔が少し陰りを見せた。
「……まだ、何も教えてくれないの?」
「教える訳にはいけないからな」
何かを知りたいミナと、何かを隠し通したいオズワルド。その両者には、何か大きな溝があるように見えた。
「あ、そうだ! ちょっとゲームしようよ。カード持ってきたんだ!」
スノウは旅の途中だが、緊張感もなくバックの中を漁る。
それを見て、さっきの重たい雰囲気が少しだが和んだ気がした。
そして4人は、川から出発するまで、楽しそうに焚き火を囲っていた。
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