第28話

 スノウが復活してからというもの、クロヒは授業中に欠伸ばかりしていた。薄らとクマもできており、疲れているのが遠目からでも分かるほどだった。


「クロヒ、最近夜更かししてる?」


「ん? まあな」


 メイは、明らかにいつもと違うクロヒを見て、心配しているように見えた。


「早く寝ないと体に良くないよ」


「心配すんなよ。別に少しくらい大丈夫だって」


 クロヒは理由が聞かれたくなかったので、適当に流した。

 メイも、クロヒが何かを隠しているのは分かっていたが、それ以上は追求しなかった。

 クロヒのことだし、特訓してるんだろうなー。

 なんて、思っていたりするのだ。

 いつも、真っ直ぐなクロヒは考えていることが分かりやすいのだ。

 特訓しているのだとしたら、誰のためなのか、それを自分の為なんだと思うことは、決して自意識過剰なんかでは無いと、メイは信じている。

 だからこそ、クロヒに心配をかけないように強くなろうとしている。

 まさか、クロヒが秘密裏で乱入しようと思っているとも知らずに。


「あ、そうだ、クロヒ」


 唐突に、メイが言った。


「ん?」


「えっと……その……ううん。やっぱり、なんでもない」


 メイは、何かを言おうとしていたが、声を出そうとすると喉から先へ出ず、結局誤魔化してしまった。


◇ ◇ ◇


 乱入するなんて、クロヒは簡単そうに言っているが、実際そう上手くいくものでは無い。

 バンジェンバーグ荒野は王都から離れていて、それに加えて過酷な道程だ。

 十分な装備が出来る国の組んだチームならともかく、学生達が少人数で行く事になる。少しでも準備を怠れば、死に直結しかねない。

 その為に、クロヒ達は今、図書館で情報集に勤しんでいた。


「サバイバルの極意……」


「ん? ああ、それ使えるよな。俺が師匠と特訓してた時と同じようなことそのまんま書いてあるし」


「え!? クロヒくんサバイバル経験者!?」


「経験者ってよく分からねぇけど。村ではほとんど自給自足で、俺は狩りしてたしな。その辺の知識は元々持ってる知識で何とかやっていけるはずだ」


「へぇ……頼もしい」


「まあな」


 地図などを調べて地形を確認し、周辺の植物や動物などの事前情報を頭に入れていく。

 そして、サバイバルで使える道具等、使えるものはどんどん調べていく。

 そんな中で苦戦しそうなのが……。


「魔物……多そうだね」


「しかも、大型もいる。交戦したら間違いなく疲弊する」


「でも、避けれない道だよな。魔物との戦いは」


 ここ周辺でさえ魔物が現れるのなら、外の世界はもっとだ。

 ヒトキとの特訓でも、出会わない日はなかった。


「連携が取れてないと不味いな」


「戦ってる間、逃走経路は最低限確保」


 3人で、挙げられる意見はどんどん挙げる。それを続けて、情報収集をしながら、必要な情報を整理していく。


「あ、これ懐かしいな」


 クロヒは、本を探している途中に、小さい頃に読んでいた本を見つけた。


「クロヒ、時間の無駄」


「ちょっとくらい息抜きも大事だろ? うわっ、マジで久しぶりだ」


 それは、聖剣使いが魔王を倒す話だ。主人公の聖剣使いの名前はメイ。

 初代は女性の聖剣使いで、そのメイが、かつて存在した巨大な魔法帝国を追い込んだ魔王を倒すのだ。


「聖剣使い。かっけぇよな」


「魔王の生まれ変わってでも聖剣使いを殺してやるっていう言葉に篭もる憎悪が良い」


 ミナの視点は少し特殊だった。


「よし。いい息抜きになったな。さて、続きを始めるかな」


「うん。後半は、どうやって学校を抜け出すか。どっかのマヌケさんの門限破りで、警備が厳しくなってる」


「ご、ごめん」


 クロヒとエドウィンによる門限破りは、この魔法学校で重大視されている。

 それにより、最近は警備の目がより一層厳しくなっており、前のような正面突破は不可能だ。


「でも大丈夫。警備が厳しいとはいえ、穴が埋まることは無い。それについては事前調査済み」


 そう言って、ミナは学校内の地図を広げて、説明をした。


 どうやら、話を聞くに、寮周りが1番警備が厳しいらしい。それもその筈だ。門限を破るのが生徒なら、夜は寮に完全に閉じ込めてしまえばいいのだ。


「夜中と明け方の変わる瞬間に、交代がある。交代を引き継ぐ時は、必ず異常がないかをしっかりと伝えたり、後は雑談をする姿も聞いてる。だから、油断を1番誘いやすい」


「なるほど。でも、それってどうやって時間がわかるんだよ」


「時間は私が聞いてるから、大丈夫。よるは私達は一緒にいて、タイミングになったら皆で外に出る。外に出たら、塀を登っていこうとしたらダメ。柵を飛び越える方が、近くには木々があるし隠れやすい」


「なるほど」


「脱出できたあとは、後ろを振り向かずに走るだけ」


「分かりやすいな」


 ミナのような、情報を持ってる人はこういう時に強い。


「……そういえば、スノウ遅くね?」


「確かに遅い。何してるんだろう」


 何故だか分からないが、さっきからスノウの音沙汰がない。そんなに本を探すのは苦労するものだろうか。

 流石に時間が掛かりすぎなので、クロヒとミナは共にスノウを探した。そして――。


「うへへへ。うーん。やっぱり恋っていいなぁ……」


 何やら、スノウは物語を読んでトリップしているようだった。


「ミナ……?」


「怒ってくる」


 そう言って、スノウに近づくミナ。数分後、スノウの悲鳴が響き渡ることになった。


◇ ◇ ◇


「あー。なんか今日は楽しかったなー」


 クロヒは寮へと戻ると、今日の図書館での出来事を思い返していた。

 3人で議論をして、そして途中息抜きをしたり、スノウがサボっているのを見てしまい、ミナが激怒したりと。

 普段感情の起伏が少ないミナの怒る姿が見れるとは、クロヒは思いもしていなかったので、項垂れるスノウと怒るミナの図を見て、大笑いしていた。


「ただいまー。あれ?」


 いつものように、扉を開ければメイがおかえりと声をかけてくれるのだが、今日は何故か何も言ってこなかった。

 というより、そもそもメイがいなかった。


「え、どこいるんだよ」


 クロヒは考えていると、机の上に一通ノ手紙があるのに気づいた。

 クロヒはメイのだと分かると、直ぐに手紙を開いて読み始めた。


『言い出せなくてごめんね。実は私、荒野へは今日から行くことになってたんだ。言おうとしたけど、何故か、言っちゃうとクロヒがついてきちゃいそうで怖かった。だから、言えなかった。本当に、ごめんなさい』


 その手紙を見て、クロヒは一気に心拍数が上がった。


 ついにこの時が来た。


 


 

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