第26話
そして、クロヒは学校の合間を縫って、シュウ達に魔法を教えた。
魔力を持っていないとはいえ、魔法についてはクロヒは人一倍勉強していた。その知識を活かして、効率的な練習方法をエドウィンと考えて作っていた。
「空気砲!!」
まだ魔法自体は1つしか覚えてはいないが、その威力は前とは比べ物にならないほどだった。
今までは人を驚かす程度しか無かったが、ここまで来ると危険を伴ってくる。
「クロヒ、これ以上やると流石に……」
「分かってる。そろそろ次の段階に進まねぇとな」
このレベルまで来ると、そろそろクロヒの手には負えなくなってくる。自分一人では、子供だけでは何かあったら責任が取れないのだ。
だから今度は――。
「――大人に頼る」
◇ ◇ ◇
「……まさか、お前がこんな早く弟子を作るとはな」
クロヒはヒトキの元へ向かって、何とか3人を弟子に取れないものかと話をしにに行った。
ヒトキは、いつの間にかクロヒが成長していたのだと思うと、少し感慨深いものを感じた。
「そこのルイさんっていう管理人には許可は取ってるんだよな」
「ああ」
「なら、構わないだろ。でも、少しだけ待ってくれ」
「なんでだよ」
「俺が何の用も無しに王都に戻ってくるわけがないだろ」
「……そうか」
よく考えてみれば、そうだった。ヒトキは自由に旅をして生活をしている。そんな人が、用もないのに王都に態々やってくるのがおかしい話だ。
「じゃあ、何をしに来たんだよ」
「それを、お前に伝えろって王にも言われてな」
そこで、クロヒは何となく察しがついたが、クロヒはヒトキの言葉を待った。
「――テロリストが動き出した」
「……やっぱり」
「ま、クロヒも薄々勘づいてたか。テロリストって言うくらいだから、アイツら影でばっか動いてたんだが、今回は堂々と正面から来るみたいだ。それで、俺達はそれを阻止しに行く」
「それは……メイも?」
「ああ、ついて行くことになってる。びっくりしたぜ、まさかメイが王女様だったとはな」
クロヒも、今だ実感が湧いていない。
「勿論、お前はついていけない」
「それくらい分かってるって」
現実的に考えて、クロヒが行くのは得策ではない。そもそも、無駄だ。
「そうか、お前なら行くって言うとおもってたんだがな。……伝えたいことは伝えた。だから、弟子を取るのはまだ少し時間が掛かるとだけ伝えておけ」
「分かった」
しょうがないことではあったが、クロヒはまた悔しがった。
自分が守るはずのメイに、守られることになるとは思いもしなかった。
それにしても、メイの成長が早い。少し前は殆ど魔法が使えなかったのに、この急な出撃に参加できるほど強くなっている。
だが、クロヒはそれに対して何も感じなかった。
もう、クロヒの出来ることは何も無い。
仕事先もあるし、退学なら退学で良いのかもしれない。
今まで考えたことのない恐ろしい感情が湧き起こり、クロヒは首を振ってその考えを散らした。
◇ ◇ ◇
ヒトキにシュウ達を預けるのが後回しになったクロヒは、まだ自分で特訓の面倒を見ることにした。
何度見ていても、シュウ達は魔法が上手い。単純な火力ではなく、魔法を効率よく使えているのがよく分かる。
「クロヒ。どうだ? かなり強くなっただろ」
「……ああ。これなら、順調に行けば魔法学校に通えそうだな」
クロヒの素直な感想に、シュウは照れくさそうに笑った。
「ああ。夢みたいだ。俺、親に捨てられた時の事まだ覚えててさ。もう何していいのか分かんなくて、それで、生きるに必死だった時、エドウィンに誘われて孤児院に行って。それで魔法を教えて貰ったんだ」
「……そうか」
クロヒはエドウィンが接し方を迷っていたのは、この事があったからだと気付いた。
エドウィンも、クロヒと同じく迷っていたのだ。シュウ達が強くなるにつれて、自分でどう責任を取るのか、何を教えたら良いのか。
「その時、俺らって魔法の才能めっちゃあるって思って練習して、強くはなったけど、でも自分の思うようには強くなれなかった」
「全部クロヒのお陰だよ。マジでサンキュな」
生意気な口ばかりなシュウだが、その言葉だったからこそ、クロヒもその言葉に対して思うものがあった。
クロヒは今までメイだけを守ろうと必死に魔法を練習してきた。
それは、村を無くして、自分に残されたのがメイだけだったからだ。だから、せめて最後に残ったメイだけは、無くしたくなかったのだ。
そして、今は仲間が増えて、守りたいものも増えた。
無くしたくないものが増えた。
大切な友達、大切な仲間。今まで持っていなかったものを手に入れて、幸せに近づくにつれて、自分の目標は薄れて忘れてしまおうとまでしていた。
もし退学したとしても、それはそれで良いとも思ってしまっていた。
でも、シュウのお陰で気づくことが出来た。
あの頃メイに誓った約束は、まだ腐ってはいない。
自分が今どれだけ厳しい状態なのかは、クロヒはよく分かっている。魔法を使えば、我を忘れて暴れてしまうことも、よく理解している。
だとしても、自分にはやらなければいけないのとがある。行かなければならない場所がある。そう思った。
「シュウ」
「ん?」
「ありがとな。俺がどれだけ馬鹿なのかよく分かった」
「は? 何言ってんだよ」と、シュウは首を傾げた。分からなくても別に構わないと、クロヒは何も言わずに、シュウの頭をくしゃくしゃと撫でた。
今自分が考えていることは無茶だ。そして、冷静な判断ではなく、ただの無謀だ。
それでも、クロヒの決意は揺るがない。
守るものが増えても、たった一つの大切なものは、変わることは無かった。
――待ってろよ、メイ。直ぐに追いついてみせる。
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