第24話

 クロヒとエドウィンは森の中を走った。事前情報だと森の中では魔獣が普段より多く彷徨いていると聞いていた。

 だからこのまま放っておけば、確実にシュウの命が危ない。

 進み行く時間がじりじりとクロヒの焦りを煽る。そして、それを必死に抑え込む。

 クロヒは狩りをしていた頃の記憶を必死に呼び覚まし、シュウの手掛かりを探した。


 シュウみたいな子供なら、まともな準備は出来ないし、道から逸れることはそこまでないはず。

 あとは、そもそも森の中に子供が入るなんてあるはずがない。

 だから、小さな足跡を見つければ……。


「エドウィン。足跡だ。小さな足跡を辿れば、ほぼ確実にシュウに追いつける」


 クロヒの言葉にエドウィンは強く頷いた。


「……分かった。足跡だな」


 道を辿りながら、2人でシュウの足跡を探した。思った通り、道には大きな足跡が多く、小さな足跡は限られてくる。


「クロヒ! この足跡は?」


「いや……これは2人組だし……多分女だ。男じゃないぜ」


 地面の削れ方や凹み方、背の低い草の倒れ方や脇道の草の掻き分け方。それらを地道に探し、足跡を辿った。


「エドウィン、多分この足跡は間違いない」


「本当か!?」


 何とか見つけた新しい小さな足跡。

 しかし、それが示す先を見て、クロヒは顔を曇らせた。


「エドウィン。この先だ……。急ごう、ここまで来てるって事はもう時間が無い!」


 2人は草木を掻き分けて奥へ進む、尖った枝が頬を切るが、そんなことを気にする暇なんてない。

 そして、少しずつ視界が開けてきて、広い場所に出た。

 その真ん中に、シュウはいた。


「シュウ!!」


「……! クロヒ、エドウィン?」


 しかし、シュウの周りを多数の魔物達が取り囲んでおり、完全に追い詰められていた。

 クロヒとエドウィンは急いでシュウを挟み、魔物から守ろうとした。


「エドウィン。シュウを連れて1度村に戻ってくれ。俺が何とか時間を稼ぐ」


 クロヒの言葉に思わず声を荒らげた。


「クロヒ!? お前、そんなことしたら……」


「でも、安全にシュウを村まで送るなら魔法がいる。俺が暴走してシュウまで巻き込んだら元も子もないだろ。だから、エドウィン。お前がシュウを連れてけ」


 しかし、エドウィンは中々頷こうとしなかった。


「……エドウィン。分かってると思うけど、多分俺は逃げられない。どうにかして耐えるから、お前が最強の助っ人を呼んできてくれよ」


「クロヒ……。分かった。その代わり、絶対ヘタるなよ」


「分かってるって!」


 クロヒが背を向けて親指を立てた。それを見て、エドウィンはシュウを抱えて走り出す。

 それを、1匹の魔物が追う。

 

「お前の相手は俺だぜ」


 クロヒは空気砲を放ち、魔物を吹き飛ばした。魔物は木々を薙ぎ倒し動かなくなった。


 ……良し、予想した通りだ! 手加減さえすれば、何とかやっていける。これなら、時間稼ぎ位なら何とか……。

 

「ってくそっ!」


 魔物は、動物と対して変わらない生物だ。それがなぜ、魔物と呼ばれるのか。

 それは、簡単な話だ。魔力を保有しているからである。

 その魔力を果たしてどう使うか、それとも全く使わないのかは魔物次第になってくるが、この魔物の場合は魔法を躊躇なく撃ってくる。


「ヤモリの時は撃たなかっただろ……!」


 地面を抉り、飛ばしてくる岩を避けて、当たりそうな物は空気砲で吹き飛ばす。

 そして、隙を見て魔物の数を減らしていく。


「ちょっと、不味いな……」


 クロヒはジリジリと追い込まれていく。先程から頭痛も始まり、クロヒの意識もゆっくりと暗闇の底へと引っ張られていく。だが、何とか耐えてクロヒは戦い続けた。


「……! やべっ」


 しかし、遂に精彩を欠き、クロヒは足がもつれて転んでしまった。


「……馬鹿野郎」


 暴走覚悟するしかないか……。そう思い、意識を手放し魔力を使おうとした。

 意識がゆっくりと沈んでいき、恐ろしい形相をした怪物が、深層からゆっくりと浮かんでくる。


「――クロヒくんっ!!」


 しかし、最後に聞こえた叫びが、クロヒの意識を呼び戻した。


 クロヒと魔物の間に、一人の少女が割り込み、魔法を一気に展開した。

 大量の氷魔法が、一気に魔物たちを飲み込む。


「クロヒ、逃げよう!」

 

 スノウは何とかクロヒを背負おうとした。


「馬鹿、逃げろスノウ……!」 


「そんなこと出来な……ああっ!!」


 しかし、魔物もずっと待ってくれる訳では無い。

 スノウを脅威と認識した魔物は、スノウに噛みつき引き摺り、何匹も群がり始めた。


「やめろ!!」


 クロヒが魔法を使おうとしたが、クロヒ魔物に噛み付かれた。


「いっ……。てめぇ、放せよ!!」


 魔力を込めて吹き飛ばすと、途端にさっきよりも激しい頭痛が襲ってきた。

 スノウの周りには未だ魔物が群がっている。クロヒは動けない。このままでは……。


擂鉢アリジゴク!!」


 ――聞きなれた声が響いた。

 その瞬間、スノウを囲っていた魔物は一瞬にして地面へと吸い込まれ葬った。


「さてさて……。少年が最強の助っ人バースを呼んできたぜ」


 クロヒの前に立っている青年と会うのはいつぶりだろうか。とにかくクロヒにとって久しぶりで、会いたかった存在だった。


「……師匠」


 装備は魔石をつけた手袋とブーツ。

 

 ヒトキがそこに立っていた。

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