第23話

「なぁ、クロヒ」


「お、シュウか。どうかしたのか?」


 珍しく、シュウが話しかけてきたのでクロヒは少し驚いて答えた。


「魔法って、どうすれば強くなると思うんだ?」


「魔法か……」


 クロヒは意外だった。正直、シュウが魔法の話を自分にしてくるとは思わなかったからだ。

 しかし、折角質問されたクロヒだが、答えに迷っていた。クロヒは魔法は使えるが、魔力を持っていないからだ。

 魔力のある人と、魔石の魔力を使う人では使う時の感覚が違うかもしれない。そう考えると、少し教えにくかった。

 だが、クロヒはひとつ確かなことがある。


「守りたいものを見つけることじゃないか?」


 求めていた答えと違かったらのか、シュウは親の説教を聞く子供のような顔をした。


「いや、そういう綺麗事じゃなくて……」


「いや、綺麗事じゃない。魔法を覚えて、その先で何をしたいか、目標を決めるんだ。そうじゃないと、自分が何すればいいか分からないだろ?」


 近くでエドウィンも聞いていたが、想像以上に大人な答えだったので、エドウィンも驚いて聞いていた。


「確かにそう……か」


「シュウに目標はあるのか?」


 そういうと、シュウは少し考え込み、そして何かに気が付くように頷いた。


「……。ある。あるよ」


「なら、後はそれに向かって必死に練習。特訓だ。そうすれば、絶対夢が叶うはずだぜ」


「あ……ありがとう」


 恥ずかしそうに頬をかいて、シュウは目を逸らした。


「ああ! じゃあ、俺は仕事に戻るからな。練習頑張れよ」


 そう言って、クロヒは配膳に向かった。


「クロヒ、意外といいこと言うんだな」


 エドウィンが何となく呟いたこの一言は、クロヒにとって、少しくすぐったいものだった。


◇ ◇ ◇


「いっけー!」


 スノウの声が森に響き渡る。無数の氷が猪のような魔獣に突き刺さり、倒していった。

 いつの間にか、クロヒとコンビを組んでいた時よりもずっと強くなっていた。


「うん。上出来」


 ミナが、スノウの攻撃を見て、小さく拍手をしていた。


「これだけ無数に放てれば、効率的。いいかも」


「うん! 本当にありがとう! ミナちゃんのお陰だよ」


「……そうでも無い。スノウが頑張ったお陰」


 ミナは、褒められたのが恥ずかしかったのか、顔をぷいと背けた。


「本当に私は助けられてばっかりだなぁ……」


 その言葉で、スノウはクロヒを思い出した。

 クロヒにはかなり助けられていた。魔法が殆ど使えない自分をコンビにしてくれてそして、練習をして、クロヒのおかげで魔法を使えるようになった。

 クロヒがいなければ、もしかしたらミナとも仲良くなれなかったかもしれない。そうなると今、まだ学校へ通っているかも分からない。

 クロヒには感謝しかない。

 だが、スノウはクロヒを遠ざけてしまった。

 

「……謝らないと」


「大丈夫、スノウはちゃんと謝れる」


 ぎゅっと、ミナはスノウを抱きしめた。小さな身体だだが、親のような安心感があった。


「……うん、ありがとう」


 少しだけ、スノウは気持ちが楽になった。それと同時に、クロヒにちゃんと謝ると心に決めた。

 仲直りして、そしてまたいつものようにクロヒと学校で話して、魔法の練習をする。想像すると、今まで繰り返していた日々が楽しみになってきた。


「……スノウ。今日はまだ終わりじゃない」


「え!? まだやるの?」


「当たり前。もう、スノウは前のスノウとは違う」


 少しムスッとした様子で、ミナは言った。クロヒにスノウを取られてしまうのが気に食わないのだろう。スノウにスパルタを強いてきた。

 

「うう……。頑張ろう」


 項垂れながらも、スノウは1度気合いを入れ直し、森の奥へと進んだ。

 そして、飛びかかってくる魔物達を、ミナとの相性抜群な連携で倒していった。

 そして、更に奥へ進む。

 まだ、ミナとの特訓は長くなりそうだ。


◇ ◇ ◇


「クロヒ! シュウを見なかったか!?」


 クロヒが1人でトイレ掃除をしていると、エドウィンが顔を真っ青にして、クロヒに話しにきた。

 

「……いや、どうしたんだ?」


「シュウが何処にも居ないんだよ! くそ……!! アイツ、マジで馬鹿なことしたのかよ!」


 エドウィンの珍しい焦りよう。動揺を隠そうともせず、焦りのままクロヒに詰め寄り、方を掴んだ。


「トーヴとキョウが言ってるんだよ! アイツが森に行ったって。流石に馬鹿なことはしないと思ってたけど、マジらしい。俺らで探しに行かねぇと!」


 クロヒは、少し前の自分を見ているような気がした。メイが行方不明になり、我を無くして無我夢中になってメイを探した。

 だが、冷静さを欠いたがために、メイを救出できたものの、かなり危険な状態まで追い詰められた。

 だが今回はことが事だけに、大人だけに頼って自分達が何もしない訳にはいかない。自分達も探すべきだ。

 だが、クロヒ冷静になってさらに考えた。


「焦るのは分かる。でも落ち着け。俺が探しに行く。今のエドウィンの状態じゃ、魔物と戦うのはキツい。だから、一旦冷静になってくれ。そうじゃないと、見つかるものも見つからない」


 エドウィンはその言葉に、最初は頷こうとしなかったが、少し考えてから渋々と頷いた。


「まあ、それが当然……だよな。まさか、俺がここまで焦るとは思わなかったよ。ありがとう。助かった」


「おう! こういうのは助け合いだぜ! それじゃ、エドウィン。よろしく頼むぜ!」


 クロヒはエドウィンの肩を叩いて、エドウィンの先を走った。

 エドウィンも、それに遅れてクロヒの後をついて行った。

 

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