第22話

 クロヒとスノウ。素直になれない2人が、お互いに素直になれる方法を探すために、互いに1歩を踏み出した。

 スノウは、ミナに手伝ってもらい、魔法の強化に一心に取り組み、クロヒはバイトの話をエドウィンに通してもらい、早速アルバイトを始めることになった。


「本当に、手伝いに来てくれてありがとうございます。私たちと、エドウィンだけでは、仕事が多く大変だったので……」


 孤児院へ案内してもらったクロヒは、エドウィンに話をしてもらい、仕事をさせて貰えるようになった。

 管理人が、クロヒに頭を下げて感謝した。


「そうなのか! じゃあ、俺は少しでも皆が楽出来るように頑張るぜ!」


「それはありがたい。ここの子供たちは少しばかりやんちゃですが、問題は無さそうですね」


「当たり前だ!」


 仕事を全くしたことがないのに、一体その自信はどこから来るのか。

 エドウィンは苦笑いをしながらクロヒの話を横から聞いていた。


◇ ◇ ◇


「いっけぇー!」


「ぐほっ!」


 早速子供たちのいる庭への扉を開けると、クロヒに突然飛んできた何か。

 それは紛れもなく魔法だった。


「いぇーい! 当ててやったぜ! 魔法学校も大したことねーな!」


 何人かの小さな子供が、高笑いをしながら駆けていった。どうやら、さっきの話を聞いていたみたいで、クロヒが魔法学校の生徒と知っているようだ。


 クロヒは少し油断をしていた。やんちゃといえば、落書きだとか、変な罠に引っ掛けたりだとか、そういう悪賢いことをする子供とばかり思っていたのだ。

 だからまさか、初っ端からいきなり魔法をぶちかまされるとは思いもしていなかった。


「痛った。なんなんだよいきなり……」


「すまん、こういうやつなんだ」


 これはいつもの事らしく、エドウィンは平然としている。

 広い庭を存分に使うかのように行われる魔法の応酬。地面はところどころ抉れて、酷い惨状だ。

 これがいつもの事と考えると、クロヒは頭を抱えた。


「数年前に見つけた孤児が、結構な問題児で、しかも魔法の才能もかなりのものなんだよ。いつも庭を独り占めして、魔法の使える仲間で撃ち合ってるんだ」


 話をしていると、さっきの子供が近付いてきた。


「新しい兄ちゃんも魔法バトルしようぜ!」


「ごめんな。俺今治療中だから」


 本当なら混じってやりたいところみたいだったが、クロヒは魔力依存症だ。余り無理は出来ない。


「なんだよ。それってクズってことじゃん」


「んなっ!」


 ――だが、それは喧嘩を売られなければの話だ。


「おい、クロヒ。お前我慢しとけよ」


「何言ってんだよ。売られた喧嘩を買ってやるのが年上の役目だろ! それに、ちょっとくらいなら大丈夫だ。調整してれば発症しないって聞いたし、あいつらの魔法なら俺の魔法使わず避けれるからな!」


 そういう問題じゃねぇだろ! と、エドウィンは心の中でツッコミを入れた。


「お、やるってんのか?」


「当たり前だ! やってやるぜ」


 クロヒは手のひらを構えて、子供達が攻撃してくるのを待った。


「よっしゃ。いけぇ!」


 3人の子供が一斉に風魔法の空気砲を放った。

 目に見にくい風魔法。だが、クロヒは難なく避けた。

 子供の放つ程度なら、避けることは造作もなかった。


「くそっ、なんだこいつ。当たらねぇ!」


 クロヒは一切魔法は使わず、ひょいひょいと魔法を避ける。

 子供達は焦りと苛立ちが募っていき、魔法が段々と雑になっていった。

 そうなってしまったらクロヒの勝ちだ。

 連携も殆ど取れなくなってきた頃、遂に子供達の魔力が切れてしまった。


「どうだ?」


 大人気のないクロヒは、表情を必死に抑えながらも、勝ち誇る笑みは隠しきれていない。


「……なんだよこいつ。化け物かよ」


 肩で息をしている子供達に、クロヒは近づいた。


「お前らの魔法。凄かったぜ! 良くこんな小さいのにあんな魔法使えるよな」


「……子供扱いすんなよ」


 3人のうち、真ん中の子が答えた。さっきの戦いの中で、1番魔法が強かった子だ。


「おっと、ごめんな! 俺はクロヒ。エドウィンから聞いて、ここで働くことになった。お前らは?」


「俺はシュウ。こっちはキョウとトーヴ」


「そっか、宜しくな!」


 クロヒが手を差し出すが、子供達に手を叩かれた。


「お前なんかには負けねぇから」


 そう言って、3人は室内へ戻っていった。

 エドウィンが、それを見ながら面白そうだと笑いながらクロヒを追ってきた。


「成程な。ただ優しくするだけじゃなくて、こういうのも手のひとつか。俺、ちょっと気を使いすぎてたのかもしれないな」


「? なんの事だよ」


「いや、こっちの話だ」


「2人とも! こっちの仕事手伝ってくれ!」


 孤児院の管理人が、窓を開けて2人を呼んだ。


「了解! クロヒ、行くぞ」


「おう!」


 クロヒ達は、呼ばれた場所へ向かい、そこでクロヒは仕事がどれだけ大変なのか、知ることになる。

 

「ほい。これを頼む」


 クロヒ達に渡されたのは、バケツと雑巾。

 そう、部屋の清掃である。ここはスタッフが足りないのもあり大体の人が様々な仕事をこなすことになる。役割分担は殆どない。

 

「よし、クロヒ、いくぞ」


「あ、あと庭の整備も頼む。さっき派手にやってたみたいだからな」


「はーい」


 清掃はかなりの重労働だ。ホコリを掃いて、雑巾をかけるだけだが、普通の家とは広さが違う。

 こんな重労働があっても、腰が砕けない辺り、ここの管理人の身体はかなり丈夫らしい。

 そして、雑巾がけをした後は昼食の配膳の準備、そして午後は庭を整備して、また3人組が庭を荒らしに荒らして、それをまた整備して平らにする。

 

「……二度手間じゃねぇか」


「それでも、これは大切な仕事だよ。あいつら暴れるから、こういうの見逃すと怪我するしな」


 ドロドロになりながらも、エドウィンはひたすら土を弄っている。

 クロヒも、その姿を見て、一緒になって整備を始めた。

 

◇ ◇ ◇


「なあ、トーヴ」


「ん?」


「俺ら、そろそろ外で魔法使うべきじゃね?」


 夜、孤児院の寝室で、シュウ達3人がこそこそと話をしていた。


「なんで?」


「だって、仕事してるヤツら、俺らの魔法が強くなるにつれて、あいつら大変そうにしてる。多分、もっと邪魔にならない場所でやるべきなんだ」


 なりふり構わず魔法を放っていた3人だが、それを気にしていないわけでは無かった。

 何度も何度も同じことをして、そしてすぐに庭は元通りになる。その負担は、想像しなくても大きいことくらいは分かっていた。


「それでだ、俺らってやっぱり実践が足りないと思うんだ。魔法使いになるなら、もっと厳しい練習を積まないとなれない。外に出るべきなんだよ」


「いや……流石にそれはキツくね?」


 シュウは外に出ることを熱弁するが他の2人はあまり乗り気でないみたいだ。

 外の世界は魔物が存在する。命のやり取りに慣れていないので、戸惑ってしまっていた。


「……別に、お前らが行かないならいいよ。俺一人で行ってやるから」


「シュウ、流石に危ねーよ」


「文句あんのかよ」


「……いや」


 文句が無い……とは言い切らず、口を濁してしまった。


「そうだよな。俺は勝手に行く。来るかどうかはお前らが決めろ」


 シュウはそう言って、布団に潜り込んだ。

 成長の1歩を、今シュウは踏み出そうとしている。

 だが、それと同時にシュウは自身を命の危険に晒そうとしていた。

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