第21話
メイはクラスメイトに引っ張りだこだった。皆、王女だからと贔屓せずに楽しそうに話していた。魔法は何が使えるのかとか、聖剣を持っているのかだとか、王女であることに興味を持っているようだった。
それに、使用人として働いていた頃から知り合っていた人もいるのか、親しげに話している人が多い。
初めからメイが馴染めたのは、クロヒとしても嬉しい出来事だ。
授業も、魔力の操作があまり上手くないメイに対して、皆が丁寧に教えていた。
だがそれでも、メイはクロヒのことばかりだった。
「ねぇ、クロヒ。この魔法ってどうやってるの……?」
「そうだな……この魔法はイメージが大事だな。自分がどこにどれだけ打つのか考えて、そして感じた魔力を放出するって感じだ」
「なるほど……ありがとう。やってみる」
メイはたったったっとクロヒから離れ、魔法を打ち始めた。
「……ふんっ!」
そして、それを気に入らなそうにスノウは遠くから見ている。
クロヒもさっきからスノウのことが気になっており、授業に余り集中が出来なかった。
「おい、元気ないな。しょうがないとは思うけど」
エドウィンが、クロヒのことを気にかけて声をかけてくれた。
「ああ……ごめん」
「ったく、落ち込みすぎだよ。どんだけ暗くなってれば気が済むんだよ」
「それは……」
クロヒは、ケンカをするのが初めてだった。村に住んでいた時の唯一の友達だったメイは、大人しく、根が優しく、お互いに干渉しすぎることは殆どなかったので、喧嘩をすることが無かった。
しかし、クロヒとスノウはお互いに自分の過去を語り、目標を共にしていた。
それだけに、一つのすれ違いが大きな軋轢を生んでしまった。
そして、クロヒは心に大きな穴が空いてしまった。
「まあ、謝りにくいのは分かるけどな」
「……ごめん。心配かけて」
「いや、別に構わないよ。あ、そういえばいいバイトがあるんだ。多分、治療中は暇だろ? 俺と一緒にやらないか?」
「……バイト?」
確かに、仕事をしてお金を稼ぐというのはクロヒにとって憧れでもあることだった。
自分で稼いだお金で、物を買う。それが楽しそうなのだ。そのお金で、心置き無く肉を食べるというのが、クロヒの夢の一つだ。
「ああ。給料は若干少ないけど、結構いい経験になると思う。それに、クロヒが謝る覚悟に必要な物を、そこなら多分手に入れられる」
「ああ、別に仕事するのは良いんだけど……」
必要なものってなんなんだ?
それが分からないから探しに行くのだろうが、バイトとそれは全くもって繋がりを考えられない。
「ま、物は試しだ。因みに、教会にある孤児院のお守りなんだけど、子供が苦手とかはないよな?」
「いや、大丈夫だぜ!」
「なら、決まりだな。直ぐに行こう。俺が話をつけてやるから」
クロヒが行き詰まった時に、こうしてタイミングよくエドウィンが手を差し伸べてくる。クロヒは本当に、エドウィンが凄いやつなのだと実感した。
◇ ◇ ◇
もう、クロヒはなんなの? 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!
スノウは心の中でクロヒのことを罵倒した。何度も何度も。それだけ、決勝トーナメントに行きたかったし、クロヒが急に辞退した時はショックを受けていた。
それでも、クロヒのことが嫌いとはっきりと言うことは無かった。
「あんなやつ、無視でいい」
ミナはクロヒに対して冷たく当たる。スノウが落ち込む様を間近で見てしまったのもあり、クロヒを敵視しているのだ。
しかし、そう言われるとスノウはクロヒを嫌うのは違う気がした。
「……ううん。でも、謝らないとダメなんだよね。本当は、あんな酷いこと言うつもり無かったし」
「そうだったの?」
「うん。だって、私があそこまで強くなったのはクロヒくんのお陰だから。もし、クロヒくんとコンビを組まなかったら、それこそあの時、予選の1回戦で私が足を引っ張って負けてたと思う。だから、本当ならあんなこと言う資格はなかった」
そうは言っても、スノウは簡単に謝れない。謝ろうとしても、最後の最後でクロヒに謝ってもらいたいとプライドが邪魔をするのだ。
「……別に、直ぐに謝る必要はない」
ミナのトゲのある声が、少しだけ優しくなった気がした。
「なんで?」
「多分、謝れないのは。自分が弱くて自信が無いから」
「うっ……」
ダイレクトに図星を突かれてしまい、スノウは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「だから、心も体も強くなる。まずは特訓。それが一番」
ミナは自信満々に言い切り、新聞の紙切れを取り出し、広げた。
見た目に反して、ミナは思ったよりスポ根だ。
「何? これ」
新聞記事の中身は、畑荒らし。どうやら、最近近くの森で魔物が急激に増えだして、人里近くに現れて畑などを良く荒らしてしまうのだそうだ。
特訓という話と、この魔物大量発生の記事……つまりは。
「もしかして……ミナちゃん。魔物を倒しに行くの?」
「そういうこと」
ミナは、魔物討伐をするなんて大きいことを言ったが、飄々としていた。
「私が居るから大丈夫。先ずは魔法を1度練習。それから、魔物を討伐。そして、強くなったスノウの姿を、クロヒに見せる」
どう? と、ミナはスノウに答えを促した。
勿論、スノウは即決した。
「うん。私、強くなりたい。胸を張れるくらい強くなって、クロヒくんと同じくらい強くなって、ちゃんとクロヒくんに謝る」
「うん。いいと思う」
「よし! 私、頑張るよ! ミナちゃん、手伝ってくれてありがとう」
スノウは胸の辺りでぐっと拳を握った。
「……別に。どういたしまして」
褒めると急に顔を赤くする。ミナは、やっぱり恥ずかしがり屋だ。
スノウは、ミナとハイタッチをして。気持ちを高めた。
よし、ちゃんと謝ろう!
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