第19話

「……ん?」


 クロヒ目覚めると、知らない部屋にいた。白いベットがカーテンで仕切られており、点滴を打っていた。


「なん、なんだ?」


 体を起こし、カーテンを開けると、白衣を着たおじいさんが書類ばかりで片付いていないデスクに向かって座っていた。


「起きたかね」


 おじいさんはクロヒに気付き、話しかけてきた。


「あ、はい」


「なら校長を呼んでくるよ。なんでも、君に用があるらしいからね」


 そう言って、白衣のおじいさんは外へ出ていった。

 

「ここって学校か。てことは、医務室か」


 つまり、先程のおじいさんは医務室の先生ということだ。

 数分すると、医務室の先生は校長を連れて部屋に入ってきた。


「ほっほっほっ。久しぶりじゃのう、少年」


「……こんにちは、校長……先生」


「別に畏まらなくても良い。それで、今日なんじゃが、少年の今の状態について、話しておこうと思ってのう。これは、この先の学校生活にも大きく関わる事じゃ。忘れぬように、記憶に刻み付けておきなさい」


「……おう」


 クロヒは珍しく緊張をしていた。一体、自分に何が起きたのか、昨日の出来事も記憶は鮮明には覚えておらず、分からないからだ。


「まず1つ目じゃ。まずは少年の門限破り。これは、少女を助けようとしたとはいえ、本当なら大人に任せること。手を出したのは素直には褒められん」


 クロヒも、それは分かっていたことだった。

 それでも、クロヒはメイを探すことを選んだ。だから、後悔はしていない。でも、少しだけクロヒは胸の突っかかりがあった。


「てことは、決勝トーナメントは……」


「ああ、そうじゃな。辞退という扱いにはなるのじゃが、それはどちらかと言うともう一つの理由になる。今のはただ、次からは門限を守れと忠告するだけじゃ」


「じゃあ、もうひとつはなんなんだよ」


「もう一つは、魔力依存症による暴走じゃな」


 聞き慣れない言葉が聞こえてきたので、クロヒは思わず首を傾げた。


「これは、その場にいた使用人な少女に話を聞いたのじゃが……どうやら少年の魔力が暴走していたというのを聞いた」


「暴走……?」


「心当たりはあるかね」


「……あの時か……?」


 クロヒは、先頭の時に急に魔法が使えなくなったことを思い出し、それを校長に話した。


「なるほど、それならほぼ間違いはないじゃろう。儂も、ヒトキに聞いただけで詳しい訳では無いが、どうやらそれに近い症状の前兆が見られている。また魔法を使えば、恐らくまた暴走する。じゃから、魔法はまともに使えないじゃろう」


「……そんなわけないだろ!」


「気持ちは分からないでもない。じゃがこれは本当の事じゃ。今ここで使ってみたらいい。また、暴走して収集がつかなくなるのがオチじゃ」


「……そう、すか」


 本当なら、そんなことは絶対ないとやけを起こして魔法を使うところだが、クロヒは自分でも暴走してしまうと分かっていた。

 だから、何も出来ない。


「ああ。だから、もし改善が見られない場合は――退学処分とする。それだけは、知っていて欲しい」


「……」


 魔法が使えるようにならなければ退学処分。当たり前の事だが、直接言われると、頭が真っ白になった。

 自分がどうすればいいのか分からないのに……。


「まあ、そういうことじゃ。支援は出来るだけするつもりじゃからな。さて、そろそろ失礼……あ、そうじゃった忘れてた」


 医務室から出ようとした校長は、突然思い出したかのようにクロヒに向き直り、言った。


「王城からの招集が少年に掛かっておる。いつでも構わないと達しは来ておるが、出来るだけ早めに行きなさい。出来れば今日中、じゃな」


 そう言って、校長はドアを閉めようとした。その瞬間、校長は呟いた。


「――少年も、同じ道を辿るとはな」


 ドアが閉まる音がした。


「はぁ、校長も無理を言う。難しければ、明日でも構わないよ」


「……いや、今日行きます」


「そうかい。なら、早めに準備しなさい。もう昼だからね」


 クロヒは、医務室の先生にそう言われると、起き上がり、寮に戻った。


「あ、クロヒ……」


「おう、戻ってきたぜ!」


 メイは今日仕事が無いのか、日が登ってきたこの時間でも、クロヒの部屋にいた。


「その、大丈夫なの?」


 メイはクロヒの容態を心配しているようで、顔には不安が浮かんでいた。

 あんなことがあってすぐだし、仕方がないのかもしれない。


「ああ! あ、そうだ。なんか、城から招集が掛かったって言われてさ、今から行くことになったから」


「あ、今日行くんだ。じゃあ、私もついてくよ」


 メイのしてっているような口ぶりに、クロヒは驚いた。


「来てもいいのか?」


「うん、私にも関係することだから」


 そう言って、メイは支度を始めた。まあ、それならいいか。と、クロヒも共に支度を始めた。


◇ ◇ ◇


 王城は、王都の中心に構えている。外壁は高く、たくさんの兵士たちが見回りをしている。

 中に入る際、厳重な持ち物の検査と身分の検査を行い、時間を掛けてようやく王城へ入れる。

 

「……やっべ」


 王城の雰囲気に飲まれそうになっているのか、今日ばかりはクロヒは静かになっている。

 対してメイは、そんなに緊張をしてない様子で、案内役の兵士について行き、ずんずんと奥へ進んでいく。まるで、性格が入れ替わってしまったみたいだった。


 そして、クロヒとメイは、一際大きな扉の目の前へ辿り着いた。


「どうぞ、王の間です」


「すげ……」


 クロヒは巨大な扉がゆっくりと開かれるのを、唖然として見ていた。

 幅の広いレッドカーペットが真っ直ぐ続き、奥には大きく派手な椅子が3つ置いてあった。そして、その内2つに男性と女性が座っていた。恐らく王と王妃だろう。


「奥へどうぞ」


 兵士に言われた通り、奥へ進んでいく。キョロキョロと、クロヒは挙動不審になっていた。


 そして、2人は、玉座の前まで辿り着いた。


「……んだよここ、やべぇな」


 緊張しているとはいえ、クロヒはクロヒだった。


「ちょっと、変なこと言わないで」


「よいよい。ヴェリテンシアの友達なら、それくらい目を瞑ろう」


「ヴェリ……なんだよそれ、メイにはメイって名前がちゃんとあるんだよ」


 全く常識の知らないクロヒは、考え無しにズバズバと言葉を投げつけた。


「ちょっ……」


「ああ、それについても話をする予定だ。さて、その前に自己紹介といこう、クロヒ。私はエイブラハム・ルーブル。この国の王だ。そして、隣にいるのがフランシア。どうか肩の力を抜いて、話をしようじゃないか」


 クロヒはようやく静かになり、メイも一安心した。

 しかし、静かになった理由は、メイの想像していた斜め上をいっていた。


「……マジの王様かよ」


「え、なんだと思ってたの!?」

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