第18話

「チッ、邪魔が入ったか。おい、お前ら早く動けよ! ボサっとしてないでさっさと殺せよ!」


 エイフランクは頭に血が上った様子で、黒服に命令を出した。

 そして、黒服達は身構え、一斉に掛かってきた。

 

 敵は5人……。恐らく実力は俺の方が上。でも油断はできないな……。

 

「空気砲!!」


 クロヒは掛かってきた前の3人を空気砲で吹き飛ばした。そして、後ろで動揺した2人へ一気に近づく。


「チッ貴様……!!」


 ナイフと拳の応酬。2対1で、相手は武器も持っているが、クロヒは全く引けを取らない。

 しっかりと攻撃を見切って、避けていく。

 最初は拮抗していたが、じわじわと黒服達は押されていった。


「クソがぁ!!」


 黒服達はクロヒが鬱陶しくなったのか、一人が力んで攻撃が大雑把になった。

 その隙を、クロヒは見逃さなかった。

 懐に潜って黒服の1人を蹴り飛ばした。ただの蹴りではない。ヒトキとの血のにじむ特訓を経験した人の蹴りだ。それは重く突き刺り、黒服を壁に叩きつけた。

 

「あと一人ぃ!」


 その勢いのまま、クロヒはもう1人に空中で回し蹴りをかました。

 そしてまた壁にぶつかり倒れ、動かなくなる。


「……あとはお前だけだな」


 エイフランクだけを見据え、クロヒはギロリと睨みつけた。

 ――まるで目の前にいる敵を狩ろうとする獰猛な目付きだった。

 

「クロヒ……?」


 メイは、見たことの無いクロヒの目付きに、思わず声が震えてしまった。


「ちょ、ちょっと待て! お前……! なんでそんなに強いんだ! こんな奴が近くにいたなんて聞いてないぞ!!」


 エイフランクは逃げ腰で、少しづつ後退りをしている。

 恐らく、エイフランクもクロヒと戦った生徒らと同じく、情報を見誤ったのだろう。


「……ぶっ飛ばす」


 クロヒは話を聞くつもりは毛頭ない。風の魔力を使い、エイフランクに殴りかかった。


「……あれ?」


 しかし、予想と外れて魔法は発動しなかった。


「――は? なんだお前」


「ぐあっ!!」


 エイフランクは殴りかかって来たクロヒを振り払った。


「魔力切れか。それでも来るってことは、手下が弱かったから、俺も弱いと思ったのか? 舐めてもらっちゃ困るよ。こっちだって、聖剣を奪う立場なんだ。生半可な身体じゃ、そんなのは無理だからね」


「くそっ……。ぐはっ」


 クロヒをサッカーボールのように蹴り飛ばし、勢いよくタンスに当たった。

 そして、倒れたクロヒに追い討ちをかけるようにして、何度も蹴り飛ばした。


「やめて!!」


 その悲惨な光景に、思わずメイは悲鳴を上げた。


「なんで止めるんだよ。こいつ、俺を殴ったんだけど。それに、殺そうとしてたお前を取り返しに来た。んなもん、許されるわけ無いだろ? 子供には分からないと思うけど、これは正論だよ、正論」


 そう言って、また3度ほど蹴り飛ばすと、今度はナイフを取り出した。


「はぁ……。疲れた。ちょっとダルくなってきたし、もう殺っちゃうか」


 エイフランクはナイフを振り下ろした。


「だめぇ!!」


 その時突然メイの身体が眩く光った。そして、不思議とメイを縛っていた縄はあっさり縄を解け、一瞬でクロヒ前まで飛び出し、クロヒを抱えてその場を離れ、ゴロゴロと転がった。


「クロヒ、起きてクロヒ!!」


 メイは必死にクロヒの肩を揺すった。

 しかし、クロヒは全く返事がない。薄目を開けているが、その目は虚空を見つめていた。


「……やっぱり、憎いなぁお前」


 ギロリと睨んできたエイフランク。強い憎悪を込めて、フラフラとメイの元へ歩みを進めた。


「クロヒ! お願い起きて! ぅ……!」


 何とかクロヒを起こそうとした所に、突然メイに頭痛が襲いかかり、焦点もまともに定まらなくなった。

 突然目覚めた力に、まだ慣れていないのだろう。

 それでも、メイはクロヒに覆い被さるようにして守ろうとした。


「クロヒ……っ!」


 メイから流れた一筋の涙。それがクロヒの頬に落ちた時、クロヒの中で何かが目覚めた。

 途端、黒い霧がクロヒをの周りを漂い始め、赤くどす黒い稲妻がクロヒの周りを走り始めた。


「……なんだなんだぁ? まだやる気なのかコイツは」


 余裕そうに振る舞うエイフランクだが、その額からは汗が浮き出ている。

 メイも、クロヒの異変に気付き、困惑した様子で見つめていた。

 そのくらい、今のクロヒは異様な空気を纏っていた。

 そして、クロヒはメイを優しく押しのけて、ゆっくりと立ち上がった。


「……」


「な、なんだよお前……っ!?」


 エイフランクは1度退散しようと足を1歩引いた。

 ――その瞬間、クロヒはその霧を纏った稲妻をエイフランクに向けて放った。


「やめ、やめろ……!! あっ」


 エイフランクの悲鳴をかき消し、一瞬で消し飛ばした。

 突然の轟音と爆風。

 煙が晴れると、倒れた黒服とメイ、そしてクロヒしか存在しなかった。

 エイフランクは、どこにもいない。

 そして、クロヒは力を使い果たしたのか、霧は散って、バタッと倒れた。


「クロ……ヒ」


 メイは何か恐ろしいものを見たような目で、クロヒを見つめた。

 一体、さっきのは……?

 魔力の無いクロヒが、一体何を……?

 呟いたメイの一言は、埃臭い部屋にかき消された。


 


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