第17話

「待て! お前ら!!」


「ヤバい、普通に追っかけてきてる」


 クロヒとエドウィンは、正直大人を舐めてかかっていた節があった。

 いくら足が速いとしても、大人と俺らじゃそんなに変わることは無い。だから、ある程度は逃げれると踏んでいたのだ。

 しかし、現実は違う。大人は子供よりも知識が多い。近道だなんだとあらゆる知識を総動員し、あっという間にクロヒ達に追いついてきた。


「くっそ。クロヒ、このままじゃ2人纏めて捕まるかもしれない。だから、少し早いけど、俺はリタイアする。何とか教師を止めるから、メイを探してこいよ」


「ああ、分かってるぜ!」

 

「健闘を祈る」


 そう言って、エドウィンは大きくすっ転ぶ振りをした。そして、呆気なく教師に拘束される。


「おい! 君もとまれ!!」


 後ろから投げつけてくる怒声を振り切り、クロヒは走った。

 目指すは街のパン屋だ。

 この周辺はパン屋は3つ。しかし、メイはおばさんと言っていた。

 そうなれば、絞るのは簡単だ。


 パン屋に辿り着くと、ドアに着いたベルをカラカラと大きな音を立てて入店した。


「どうしたの坊や。そんなに慌てて」


「あ、あの。メイは知ってますか」


 おばさんはすぐに思い当たり言った。


「あ、メイちゃんね。あの子の友達ね。メイちゃんは、少し前にそこを出ていったわよ」


「くそっ遅かったか!」


 クロヒは踵を返し、すぐさま外へ出ようとする。しかし、そのクロヒの肩を誰かが掴んだ。


「っ! なんだよおっさん。今急いでんだよ」


「いや、ちょっとだけでいい。話を聞いてくれ。お前さん。女の子を探してるんだって?」


 パン屋の中にいた客に話しかけられ、最初は苛立っていたが、何かを知っているような素振りに、少しだけ話を聞くことにした。


「ああ。そうだけど、なんだよ」


「その子の容姿だよ。その女の子は、金髪じゃないか」


 その言葉に思わず心臓が跳ねた。


「……!? そうだ! メイは何処に!?」


 必死になって聞くクロヒに、その客は深刻そうに言った。


「……なら、急いだ方がいい。この道沿いで女の子の誘拐事件が起きたらしい。知りたいづてで聞いたんだが、どうやら金髪で……メイド姿だったとか……」


「それだ! メイだ! メイは今どこへ!?」


「この道を真っ直ぐ行って、裏道に消えたらしい。気をつけた方がいい、裏道にそれた瞬間、ここは別世界だから」


「ありがとなとおっさん! 待ってろメイ!!」


 忠告は聞いても、進むことをやめることはない。メイが誘拐されたと決まった以上、もう1分も無駄には出来ない。

 メイ、生きててくれ。絶対に、俺が助けてやる。

 クロヒは何度も心の中で唱え、街の中を走り回った。


◇ ◇ ◇


 薄暗く、ホコリの舞う建物。汚いが、内装はやけに広く、スペースがある。

 その真ん中に、一人の少女――メイが、椅子に縛り付けられていた。


「……!! ……!」


 何かを叫んでいるが、口を布で塞がれており、声が上手く出せない。目隠しもされていて、今何処にいるかさえも分からない。

 中にいる真っ黒な服を着た男が数人おり、その中の一人が、目と口の布を取った。

 そして、ようやくメイはここがどこか知り、そして、同時に恐怖が膨れ上がった。


「久しぶりだねぇ。何年ぶりかい? ――ヴェリテンシア」


 聞き覚えのない名前を言われ、メイは何が何だか分からなかった。


「誰? その名前。私はメイ。そんな長い名前なんて知らない」


「はっ! 減らず口を。お前はそんな短いちゃちな前なんかではない! ヴェリテンシア・ムーブル。俺、エイフランク・ムーブルの妹だ」


 メガネを不敵に光らせる男が、兄。

 全く意味がわからなかった。


「なるほど、記憶喪失か。まあ、それならそれでも構わない。どうせ、お前はここで死ぬんだからな」


 エイフランクは懐からギラギラと光る、刃渡りの長いナイフをチラつかせた。

 その恐ろしいナイフを見て、メイは思わず震え上がった。


「ハッハッハッハッ! 無様だなぁ……。ああ無様だ。俺の妹だなんて思えないほどに!! そんなお前には特別に、俺が直々に殺してやる指を、腕を、1本ずつ切り離してなぁ!!」


「やだっ。やめて……お願い。やめて……」


 メイは恐怖で涙が止まらなくなった。

 誰か助けて、誰か。必死にそう訴えるが、それは虚しく宙に響くだけ、それを、エイフランクはオーケストラでも楽しむかのように聞いていた。


「さて、じゃあそろそろ始めるか。お前ら、邪魔したらお前らも同罪だからな」


「分かっております」


「さぁーて、じゃあまずは右手かな?」


「いやっ!!」


 エイフランクが思い切り腕を振り上げた。

 ――その時だった。


「やぁめろぉぉぉぉぉぉ!!」


 耳をつんざくような音と共に、ドアが粉々に砕け散った。

 

「チッ。邪魔が入ったか」


 エイフランクの機嫌が見るからに悪くなった。

 そして、メイは現れたその姿を見て、涙が止まらなくなってしまっまた。


「クロヒ……、クロヒ……!!」


「ごめん、メイ。こんなに待たせちまって。でも、大丈夫だ」


 そう言ってから、クロヒは思いっきり息を吸い込んだ。


「――俺が、メイを守ってやる!!」

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