第15話

 実況がクロヒ立ちを持ち上げ、観客それに盛り上がっていく。

 大歓声を背に受けて退場する中、スノウはクロヒに呟いた。


「私の出番が欲しかったなぁ」


 勝ったとはいえ、スノウは何も出来なかった。クロヒが無理やり捩じ伏せにいったので、少し根に持っていたのだろう。


「あ……。そういえば、忘れてたな。よし、次は連携を重視して動いてみよう。でも、多重展開は……」


「うん、分かってる。ピンチになるまでは切り札に取っておくね。……次も勝とうね」


「当たり前だ! 次も、その次も勝って、それで決勝トーナメントだ!」


 クロヒは拳を振り上げて叫んだ。

 そして、クロヒが宣言した通り、勢いに乗った2人は2回戦も順調に勝ち進んだ。

 やはり、生徒達はクロヒ達を軽視していたのか、余りいい対策もできずにあっという間にボロボロになった。

 もちろん、クロヒはスノウに言われた通り、ちゃんとスノウの出番を作りながらの勝利だ。

 そして――。


「くらえぇぇ!!」


 火魔法の爆風が会場全体に吹き荒れる。その攻撃に相手は耐えられるはずもなく、場外へ吹っ飛んでいった。


『なんとぉぉぉ!! 他クラスのエリートさえもうち崩し、クロヒ&スノウコンビは決勝トーナメント進出だぁぁぁぁ!!!』


 思わぬダークホースの出現に、生徒はざわつき、会場のボルテージは最高潮に達した。

 試合前は不満もあったクロヒだが、この時ばかりは全く悪い気はしなかった。

 寧ろ、クロヒも実況のテンションに思わず乗せられてしまいそうになっていた。

 それに決勝トーナメントに勝ったら、メイにお菓子を作ってくれると約束をしていた。メイ自身もすぐ勝敗結果を知りたいだろうし、何処かで試合を見ていたはずだ。

 自分の活躍する姿を見せることが出来たと思うと、途端に嬉しくなった。


「クロヒくん。せっかくだし打ち上げしようよ!」


 控え室で興奮が収まりきらないスノウは、いつにも増して人懐っこい笑顔でクロヒに話しかけていた。


「いいな、それ! 確か、エドウィンも決勝トーナメント決定してたし、アイツも呼んで皆で打ち上げしようぜ!」


 クロヒもノリノリなようだ。


「あ、いいね! 私、ミナちゃん呼んでくる!」


 スノウは、ミナのことを深く気に入っているようだ。この間も、ミナと楽しそうに話していた。ミナは、その度に嫌がるような顔をするが、なんだかんだ自分からも話しにいく時もあるし、ミナもスノウのことを気に入っているのだろう。


 クロヒ達は控え室を出た後もその喜びは収まらず、終始クロヒと決勝トーナメントの話ばかりをしていた。

 そして、心が少し落ち着くと、一旦クロヒとスノウは別れた。クロヒはエドウィン、スノウはミナを打ち上げに呼びに行くためだ。

 クロヒは、コロシアムの入口で恐らくまだ試合を見ているであろうエドウィンを出待ちして、見つけるなり話しかけた。


「エドウィン!」


 エドウィンに話しかけると、隣にいたコロコロとした少年が、クロヒに近づきがんを飛ばしてきた。


「なんだぁ? お前は。エドウィンになんの用だよ」


「え、ええ? なんだよお前」


「ああ!? お前ってなんだよ!」


「おいおいやめろ話が面倒くさくなる。すまない。クロヒ、コイツは俺とコンビを組んだジンだ」


 ジンと呼ばれた少年を、腕を組んで胸を張った。

 態度がでけーやつだな……とクロヒは思った。


「ふん! なんだ。エドウィンのダチか。なら、よろしくしないでもないな」


「はぁ……ジン、やめろって。あ、そうだ。それで、クロヒ。今日はなんのようなんだ?」


「あ、そうだ。今日俺たち打ち上げしようぜって言っててな。良かったら2人もどうかと思って」


 すると、エドウィンは静かに手を顎に当てて、ジンは跳ねながら大喜びした。


「よっしゃ! パーティってことは、美味いもんめっちゃ食えるってことだよな!」


「……ま、いいか。楽しそうだし、俺達も行くことにするよ」


「よし! そうと決まれば行こうぜ!」


 早速打ち上げのメンバーを揃え、3人はすぐに食堂へ向かった。


「……ってあれ?」


 だが食堂へ行く途中、3人は妙なことが起きているのに気が付いた。

 使用人達が食堂の前で集まり、何やら話をしているようだった。

 

「クロヒ、あれ様子が変じゃないか?」


「……確かに」


 集まっているだけなら、ただ妙なだけで済むのだが、どの使用人達も焦りを隠しきれておらず、明らかに動揺していた。

 その使用人たちに割ってはいるようにして、エドウィンが声をかけた。


「なぁ、どうしたんだ?」


「流石エドウィン! 困ってるやつは見捨てない!」


 ジンは空気を読まず、大声でエドウィンを称えた。


「あ、その……。もしかして、そちらにいるのはクロヒさん……ですよね」


 エドウィンが声をかけたのに関わらず、後ろにいるクロヒを見た瞬間、使用人の一人が顔色を変えた。少し、ほっとした表情だ。

 突然名指しで呼ばれたクロヒは少し驚いてしまった。


「ああ。どうかしたのか?」


「あの、クロヒはんはメイさんと会っていませんか?」


「え……? 会ってないけど」


 なんでそんなことをいうのだろうと疑問に思ったが、その次に続く一言で、思わず立ち尽くしてしまった。

 

「実は……。メイが、見つからないのです」

 

「――え?」


 クロヒは、その言葉に呆然と、使用人たちを見つめた。

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