第14話

『ついに始まりましたあぁぁぁ!! 新入生達による最強魔法使い決定戦! 一体、勝利の女神は誰に微笑むのかあぁぁぁ!!』


「あれ……? スノウ、なんか思ってたのと違うんだけど」


 いや、マジでなんんだよこれ。

 クロヒはかなり戸惑っていた。

 コロシアムが学校内にあると聞いただけで驚いたのに、それに加えてコロシアムに集まる観衆。そして、大きな声で観衆を煽っていく実況。それに呼応するように湧き上がる歓声。

 実技試験のようなものだと思っていたクロヒは、一体何事かと戸惑ってしまった。


「え? クロヒくん知らなかったの? 学校1番のイベントなのに」


 状況を呑み込めないクロヒに対して、スノウは特に驚く様子は無かった。

 新入生によるバトルトーナメント。いわゆる新人戦だ。

 これは、一種の国のイベントのようになっており、保護者だけにとどまらず、他の学校の生徒や、一般人まで見物に来る。

 それに加えて、運が良ければ魔法騎士や宮廷魔術師への就職の確約を貰える可能性もある。

 それだけ、重要なイベントだ。


『ルールは簡単だ! 予選と決勝トーナメントがあり、それぞれステージが異なる……』


「クロヒ! 緊張してんだな」


 実況がルールの説明を始めた中、エドウィンがクロヒに声をかけ、背中を叩いた。

 エドウィンらしからぬ行動だ。恐らく、エドウィン自身気持ちを抑えきれないのだろう。


 生徒は開会式でコロシアムに入場をして、今まで聞いたことの無い大歓声を浴びる。そんなこと、魔法使いになったとしても殆ど経験することは無い。

 それだけに、生徒達にとっても一生に残る思い出になる。


「……なんか、釈然としねぇな。でも、やるからには全力だな」


 俺は人に力を見せつけるために強くなったんじゃない。

 クロヒはそう意地を張りそうになったが、1度冷静さを取り戻して考えた。

 これだって、メイを守れるくらい強くなるには必要な事なんだ。

 クロヒはいつも以上に気を引き締め、開会式へ望んだ。


◇ ◇ ◇


「どう? 決勝トーナメントには行けそう?」


 クロヒは開会式が終わるなり、すぐにメイの元へ向かった。

 そこで、メイがいつも通り花壇の花に水をやりながら、クロヒに話してきた。


「当たり前だろ! 絶対行ってやるぜ」


「頼もしいね。私、応援してるよ。あ、そうだ。もし決勝トーナメントに行けたら、私がお菓子を作ってあげるよ。実は、街のパン屋のおばさんと仲良くなって、材料をお裾分けしてもらう事になったの」


「お! 久しぶりだなーって……メイ、お菓子作れるようになったのか」


 お菓子を作る。メイが発したこの言葉は、最近はめっきり聞かなくなった言葉だった。


「うん。他の使用人さんに教えてもらったんだ。難しかったけど、すごく楽しいね。美味しいお菓子作れた時が、本当に嬉しい」


「へぇ……。やっぱ、メイはいつだってメイなんだな」


 クロヒは、いつもより上機嫌だった。それもそうだろう、昔から花とお菓子作りが大好きだったメイ。それが、今になっても変わっていないんだと気付けた。

 やっぱり、記憶が失ったとしても、そこにいるのは紛れもなくあの日のメイなんだと自覚できた。

 花と、お菓子。そのふたつの言葉の響きに、思わず目頭から涙が溢れそうになった。


「……どうかしたの?」


「ああ、ごめん。こっちの話だ。じゃあ、頑張ってくるぜ。絶対優勝してくるぜ!」


 そう言って、コロシアムの方へ走り去っていくクロヒを、羨ましそうに見つめていた。


 そして、クロヒは急いでコロシアムに戻り、控え室へと直行した。

 本来なら、そんな時間は無いはずだった。でも、無理をしてメイに会いに行った。それくらい、クロヒはメイにと話したかったのだ。

 もうすぐ、クロヒとスノウの1回戦が始まる。

 控え室へ滑り込むと、既にスノウは控え室のベンチで座っていた。


「もう。クロヒくん遅いよ」


「ごめん。ちょっと話が長くなった」


「しっかりしてね。遅刻は棄権扱いになっちゃうから」


「ああ。分かってる」


「……1回戦、絶対勝とうね」


 スノウの真剣な瞳。それに、応えるようにして、クロヒは拳を真っ直ぐスノウに伸ばし、大きな声で言った。


「当たり前だ!」


 そして、1回戦が始まった。

 1回戦の相手は、他クラスの生徒だ。情報によれば、水属性使い2人。

 クロヒが攻撃に使う火だと大分相性が悪い。相手も事前情報をある程度掴んできているはず。

 そう考えると、なおのことクロヒ達は不利になる。


 実況が選手紹介を熱く語っている間、クロヒ相手は「魔力無しと低級しか使えない女。これなら楽勝だ」と話していた。

 確かに、情報だけを聞けば、この2人に一切脅威はない。

 だが、目の前にいるのはただの魔力無しと低級魔法しか使えない女なんかでは無い。

 両者ステージに立ち、そして――ゴングが鳴らされた。


 相手は先手必勝と言わんばかりに、水球ウォーターボールを放った。


「クロヒくん!」


「よっしゃあ!!」


 クロヒは思い切り火球を飛ばし、相殺。辺りは水蒸気が広がり、真っ白の煙に包まれた。


「くそ、目くらましかよ」


 敵がクロヒ達の気配を探る。だが、その間もクロヒは次の魔法を準備している。


空気砲ウインドブラスト!!」


 クロヒは相手の場所を察知して、足を思いっ切り突き出し、広範囲へ攻撃出来る風魔法。空気砲ウインドブラストを放った。


「なっ!!」


 水蒸気を消し飛ばし、風は2人の生徒を巻き込み吹き飛ばす。

 そして、生徒ふたりはあっさりとステージ場外へ飛ばされ、そのまま倒れ込んだ。


『おおっとぉ!! 一瞬で勝負が決まったぁぁ!! 勝者、クロヒ&スノウコンビ!!』

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