第12話
「ずるい。魔法使えるなら、先に言ってくれればよかったのに」
力の差があったとはいえ、予想外の攻撃を受けて、スノウは悔しそうにしていた。
「それにしても、なんで魔法使えるの?」
「ああ、それは師匠のお陰なんだ。俺の師匠、魔力のない俺がどうしたら魔法を使えるのか、勉強のとか、特訓とか、色んなことを教えてもらったからな」
「へぇ……。良いなぁ。私、さっき見せた魔法しか使えなくてさ。クロヒみたいに、私も強い魔法使えるようになりたいなぁ」
「大丈夫だ! 頑張れば絶対出来るぜ。俺も、めっちゃ厳しいトレーニングとか積んで、やっとここまで出来るようになったし」
クロヒがヒトキから教えてもらったトレーニングは、基本二種類だった。
1つは地味だが集中力をとにかく高めないと出来ないトレーニング。そして、もうひとつが気力体力を限界まで削るトレーニングだ。
ただ魔法の練習をするよりも、遥かに厳しい練習で、そうまでしないと、魔力無しの身体では魔法は操れないし体が耐えられない。
「俺も手伝うぜ。やっぱ、優勝したいしな」
スノウにとって、クロヒが手伝ってくれるのは何よりも頼もしかった。先生が教えてくれる時とは違う。安心感のある頼もしさだ。
それに加えて、スノウの為だけに手伝ってくれる。それが何より嬉しかった。
「……ありがとう」
「おう! そうと決まれば、まずは魔法を使ってみることだな。さっきより強い魔法をどうやって出すか、取り敢えず工夫してみようぜ」
そうして、クロヒとスノウの特訓は始まった。
スノウの最大の弱点は、言わずもがな魔法の火力不足。それを克服するための方法を、クロヒは2つ思い付いていた。
まずは、今覚えている魔法より強い魔法をひたすら練習すること。
しかし、クロヒもそれは上手くいくとは思っていない。試しにやってみようという程度だ。
「うーん。こう、なんか詰まってるみたいに出てこないんだよね……」
「なるほど……」
案の定、魔法はうんともすんとも言わず、特訓の進展はまったく無かった。
しかし、クロヒは一つ確信に近いものは得られた。
恐らく、次の方法は上手くいく。
「どうしようかな……。このまま同じこと練習してても、多分何も出来ないよ」
「まあ、そうだな」
「うう。クロヒくんが冷たい……」
地面にへたり込みながら、スノウは項垂れた。
「でも大丈夫だぜ! 根本的な解決にはならないかもしれないが、一つ方法はある!」
「え? 本当?」
「ああ!」
クロヒは、スノウは魔法ひとつでは威力に限度がある事が分かった。
限度以内に収まっていれば、威力も速度も自由に操れるのだ。でも、それを超えるとぱったりと魔法が使えなくなる。
そう、魔法ひとつでは。
「魔法の同時展開ってできないか?」
「ど、同時……? そんなことできるかなぁ」
自信なさげに答えたスノウ。まあでも試しに、と目を閉じて集中した。
同時、同時、同時。
いつもの何倍も集中し、魔法を制御する。
そして、ゆっくりと氷の矢が2つ形成されてきた。
「おお! いい調子だ! あとは放つだけだ!」
「放つ……だけ!」
力を込めて、氷の矢を放った。ふたつの矢は地面に突き刺さり、砕け散り、欠片がキラキラと輝き、舞い落ちた。
「よし! これなら威力の限度をある程度カバー出来そうだな!」
「でも……これ、すっごい集中しないとダメ。疲れた……」
放てたとは良いものの、1発だけでスノウはかなり疲弊している。このままでは、実践ではまともに使うことは出来ない。
「魔法を打つ時の集中力と、体力も課題のひとつか……。そうなればランニングとか、あとは的当ても良いかもな」
「げっ。私走るの苦手なんだけど……」
何とか避けられないかと、スノウは目で訴えたが、クロヒには何も伝わらなかった。
「なら、尚更やらなきゃな! 今日から始めよう。時間は待ってくれないぜ!」
「す、すぱるた……」
クロウのやる気は一体どこから出てくるんだろう……。
練習そうそう、弱音を吐きそうなスノウ。でも、スノウはこのバトルトーナメントに勝ちたい理由があった。
だからだろうか、涙目のスノウの瞳には、微かに闘志が宿っている気がした。
そして、スノウとクロヒの特訓は始まった。
ヒトキの特訓を受けていたクロヒは、常人とは少しばかり常識を外れており、クロヒもその自覚はある。
それで練習メニューの負担を減らして練習はしているのだが、それでもスノウはついていくのが精一杯なメニューだった。
それくらい、スノウは運動が苦手だった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。もう、ヤバい。こんなの、死んじゃう……」
「頑張れ! もう少しで休憩だから!」
「あぁ。クロヒ……くんの、応援が暑、苦しくて……。余計疲れる」
なんとかスノウは練習を終え、その場に倒れ込んだ。
そして、クロヒは倒れ込んだスノウに水を渡した。
「ありがとう」
「ああ」
こくこくと水を飲み、一息つくと、スノウは一息ついた。
「はぁ……。生き返った。ねぇ、クロヒくん。私、強くなってきたと思う?」
「ああ! 少し前とはだいぶ変わってきたぜ! 相変わらず、魔法は2つが限界までみたいだけど、かなり楽に打てるようになってたしな」
というと、スノウは少し頬を赤らめて照れるように笑った。
「えへへ、そうかなぁ。これで、お母さんとお父さんも認めてくれるかな……」
「何の話だ? あ、ごめん」
不意にこぼしたスノウの言葉に、クロヒは反応してしまった。
クロヒは、出身についてスノウに話さなかった。だから、家族の事情に口を出すのは少し気が引けた。
「……私、両親が魔法使いなんだ。2人とも、そんなに有名じゃないから、収入は不安定だけど。でも、私のことを大事に育ててくれた」
「そっか」
「それで、私もお母さんとお父さんみたいになりたいと思ったんだけど、なんでか、私を魔法と遠ざけようとしてたんだよね。ことある事に、もっと安定した道を進みなさいって。世の中はそんなに甘くないからって。確かに、言ってることは分かるんだけど、でも、私は魔法使いになりたかった」
親の背中を見て育って、親に憧れてたのに、その親に夢を否定される。
それが、どのくらい悲しいことなのか、クロヒには想像できなかった。
「でも、私は私の気持ちを押し通した。でも魔法学校に受かった時も、私のこと心配してて。嬉しいんだけど、ちょっとショックだった。本当は、頑張ってって言って欲しかったのに」
なんでもないように紡ぐ言葉が一つ一つが、クロヒに重くのしかかってきた。
それだけ、彼女の悩みの種は大きかったのだ。
「だから、私は絶対に勝ちたい。強くなって、お母さんとお父さんに褒めてもらって、今度こそ頑張ってって言ってもらう!」
そこまで話を聞いて、クロヒは思った。
ここまで言って、隠し事するのは男じゃねぇ。
クロヒは、スノウを真っ直ぐ見つめて言った。
「スノウって、確か前に俺の出身聞いてたよな」
「? そうだっけ? 言われてみれば聞いてたような」
「――ミランダ村って知ってるか?」
「あ、そういえば少し前に一夜にして無くなった……。え、それって……」
「そこ、俺の故郷なんだ。村が襲われて、俺とメイの2人だけになっちゃって。俺、メイに約束したんだ。絶対にメイを守ってみせるって。だから、俺もスノウと一緒に強くなる。それで、勝とう」
「クロヒくん……。うん! 絶対に勝とう!」
「うわっ!」
スノウは、勢いよくクロヒに抱きついた。
クロヒは思った。スノウとコンビを組んで良かったと。
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