第11話

 クラスの皆は素直な性格のようで、クロヒが魔力を持っていないと分かった途端、全く見向きもしなくなった。

 教室でも、着々とコンビの話が上がるようになり、様々な人と話す人がいる。

 でも、クロヒは別だった。


「クロヒくん、私はクロヒくんの味方だよ!」


「んあ? ああ、ありがとな!」


 クロヒはこの孤立した状況も、特に気にはしなかった。

 コンビも組めたし一安心としか思っていない。村に住んでいた頃に、最強の狩人を目標に毎日1人で特訓していたのもあり、友達を作ろうという考えは浮かばなかったのだ。


「そうだ。学校終わったら2人で特訓しない? 私達、このままだと予選トーナメントで終わちゃうから……」


「そうだな! じゃあ、俺いい所見つけたんだ。見に行こうぜ!」


 と言って、放課後は広場に行くことにした。

 授業が終わればすぐ校舎を出て、広場へ向かう。自分の教室からだと、少し離れているので時間がかかった。

 花壇に差し掛かったところで、お花に水をあげるメイの姿を見つけて立ち止まった。

 メイも、それに気付いて振り返る。


「クロヒ」

 

「メイ! 今は仕事中か?」

 

「うん。あ、あなたはスノウ……さんでしたっけ?」


「うん! そうだよ」


「確か、私は自己紹介がまだでしたね。メイです。この学校で働くことになりました」


「凄い。私と同じくらいなのに、もうお仕事するんだ……」


 と言うと、メイは少し恥ずかしそうにした。


「い、いえ。そんな大層なものじゃないですけど……。それで、2人はどちらへ?」


「私達、コンビを組むことになって、それで特訓に行くんだ」


「へぇ、特訓ですか……」


 クロヒと、2人で……。

 少しだけ、クロヒは寒気を感じた。


「にしてもメイ。お前は変わらねぇな。やっぱり、メイは花が大好きなんだな」


「私ってそうだったの?」


「あ、そうだった……。メイはさ、村にいた時は良く家で花を育ててたんだよ。毎日大切に育ててたから、メイの育てる花は、みんな綺麗だった」


「へぇ、そうだったんだ……」


 スノウは、その会話に違和感を覚えた。メイは、自分のことのはずなのに、初めて聞いた時のような反応。そして、クロヒはスノウに言っている訳では無いのに、態々丁寧に説明した。

 一体、2人はどんな関係なんだろう。

 スノウは気になったが、恐らく複雑な事情があるはずと考えて、追求するのはやめておいた。


「それじゃあ、俺入ってくるぜ。メイもサボるなよー」


「サボらないよ! もう……」


 だが、スノウは分かったことがあった。2人は、切っても切れない関係で、絶対に一緒でなくてはならない存在なのだと。

 メイの笑顔は何よりも純粋で、綺麗なのだと。

 スノウは、自分達が見えなくなるまで見送ってくれるメイに、精一杯手を振り返した。


◇ ◇ ◇


 学生寮を過ぎた場所。クロヒがジョーダンと出会った広場に、2人はたどり着いた。


「へぇ……。こんな所があったんだ」


「良いだろ! 人もほとんど来ないから、秘密の練習所にもってこいだぜ」


「……うん、いいね。それで、これから何をしようか」


 スノウは、特訓をしようとは言い出したものの、何をするかまでは考えてはいなかった。そもそも、特訓とは言っても、何をすればいいのか分からない。

 勉強とかしてみようかとか、新しい魔法挑戦とか、そのくらいにしか思っていない。

 対してクロヒの考えは違った。


「うーん。まだどっちも力量が分からないし……ここは1度手合わせしてみるか」


「え、ええ!?」


 スノウは、全く考えてなかった発言に、思わず叫んでしまった。


「そ、そんなことしてクロヒは大丈夫なの?」


「ああ。問題は無いけど」


 ぜ、絶対あるよね。と、スノウは疑うことしか出来なかった。何せクロヒには魔力が無いのだ。考えていることが全くもって分からなかった。


「準備体操したら、すぐやろうぜ! 全力で来いよ」


「幾ら私の火力が弱いからって、流石に当たったらタダじゃ済まないよ?」


「いいぜ! つべこべ言わず、そういうのは実際に見せてみるもんだ!」


 ほ、本当に大丈夫かな?

 スノウの心配は晴れないまま、準備体操が終わり、2人は位置についた。


「初撃が当たったら終わり。もしくは寸止めだ。それでいいな?」


「うん。じゃあ、私も全力で行くよ」


 スノウは、コインを一つ取り出し、上に放り投げた。

 そして、コインはクルクルと回転をしながら落ちてくる。


 コトン。

 土の上で鈍い音を立てたコイン。それと同時に、スノウは魔法を展開した。


「いっけー!」


 下級氷属性魔法氷の矢フローズンアローがクロヒを襲う。

 すぐさまクロヒ横っ飛びをして、ブーツを起動させ、スノウに急接近した。


「わっ。ちょっと待って聞いてないよっ」


 予想外の動きに慌てたスノウはもう一度氷の矢フローズンアローを放ち、クロヒの進行方向を逸らした。


「な……。魔法使えるの!? 嘘つき!」


 スノウは涙目で騒いだ。


「魔力が無いとしか言ってないぜ」


「それありなの……?」


 クロヒはもう一度スノウへ急接近し、またもスノウは氷の矢フローズンアローを放つ。

 しかし、クロヒに2度目は無かった。


「喰らえ!!」


 火球ファイアーボールで相殺し、そのまま突撃してきた。


「わわっ」


 スノウは何も出来ず倒れ込み、クロヒはそこで手のひらをスノウへ突き出した。

 そして、ニカッと笑った。


「俺の勝ちだ!」

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