第10話

「おーっす!」


 クロヒは朝早くから準備をして、教室へ真っ先に駆け込んだ。

 

「……あ、クロヒくん! おはよ」


 それを見たスノウは手を挙げて、クロヒに明るく声をかけた。

 一瞬クラスからの注目を浴びたクロヒだったが、スノウを見つけると、気にする様子もなく教室を歩いた。


「席、私の隣だよ」


「そうなのか。教えてくれてありがとな」


「うん。そういえば、クロヒくんってここら辺じゃ見ないけど、出身はどこなの?」


「あ……えーとだな。村の方にいたぜ」


 村がひとつ無くなった話は、もう既に王都でも広がっている。

 なので、ミランダ村、と答えてしまうと、気を使わせてしまうかもしれない。そう思ったクロヒは少し口を濁らせた。


「へぇ、そうなんだ。私は王都出身だから、この街のこととか、分からないことがあれば色々聞いてね」


「おう! 頼もしいな」


「全員、席に着くように」


 和やかな空気をピシャリと変えるようにして、先生が入って来た。

 そして、皆先生の方を向いた。


「おはよう。入学式でも言ったが、私が担任のジョーダンだ。よろしく頼む。緊張してるだろうが、まあ、気楽にいけや」


 細身な体型だが、がっちりとしている先生だ。

 ジョーダンは、生徒の出席を取り、それが終わると事務連絡に入った。


「恐らく分かっているとは思うが、一ヶ月後には新入生による2対2のバトルトーナメントがある。そこで、君たちにはコンビを組んでもらう。クラス外の生徒でも構わない、1週間、交流も兼ねて話してみろ。連絡は以上だ。授業の準備をしたまえ」


 そして、教室はまたざわつき始めた。

 スノウは、何故かプルプルと震えて涙目になりながらクロヒを見た。


「クロヒ……!」


「どうしたんだよ」


「私……誰にもコンビ組まれないかも!」


「なんでだよ」


「私、魔力は人一倍あるんだけど、魔法がちょっとしか出せなくて……」


 魔力があるのにちょっと? 変なやつだなー。

 スノウは恐らく、クロヒがそういうことを考えているのかと思っているのだろう。

 涙目で、不安げな表情だった。

 スノウは、夢を叶えるためにここへ来たのだが、自分に余り自信が無い。魔力を豊富に持っているお陰で、伸び代を買ってくれただけ。だから、この先は自分で強くならないと。他の人は手を貸してくれない。

 そう思っていた。


 だが、クロヒは簡単に人のことを見捨てるやつではない。


「なら、俺と組むか?」


「え? いやいや、でもそんなことしとら私足でまといになっちゃうし」


「別に構わねぇよ。それに、スノウは足でまといになんかにならない。俺はそう確信してるからな」


「え? あ、そ、そう……かな」


 予想外且つ、初めて言われた言葉に思わずスノウは照れてしまった。


「ああ、それに、いざとなったら全力で俺が助けてやる。だから、俺と組もうぜ」


 そのやり取りを、ジョーダンはじっと見ていた。

 あの少年は、面白いかもしれない。ジョーダンにはそんな確信を抱いた。


「交流しろって言ったんだが……まあ、それもありか」


 教室を出ていく寸前、ジョーダンはそうつぶやき出ていった。少しだけ、口角が上がっていた気がした。


 そして、スノウは不安げな表情からかわり、今度は晴れやかな笑みで答えた。


「うん!」


 そして、クロヒ達の1週間が始まった。

 授業中も、一日目は皆情報収集に必死だった。誰と組めば強くなれるか、誰となら馬が合いそうか真剣に探していた。

 性格を取るか、実力を取るか、生徒達は皆かなり迷っているようだ。


「それじゃあ、テスト返すぞ。因みに、満点が二人いた」


 新入生テストの結果を出す。これが、生徒たちに取って1つの重要な情報となる。

 先生は、満点がいたとは言うが、満点が誰かは言わない。そういうのは、知りたければ自分で知れというスタイルのようだ。


「うん! 上出来! 良かったー。入試の時、ここ間違えてなかったんだー」


 スノウは新入生テストと入試の時を比較して、答え合わせをしているようだった。


「クロヒはどうだった?」


「ああ。満点だったぜ」


「へぇー満点か……。え? 満点?」


 スノウはそんなまさか……と思いながら、クロヒの、答案用紙を覗いた。

 確かに、バツは一つも着いていない。そして、点数は100。紛れもない満点だ。


「凄いね。本当に満点だ」


 スノウはまじまじと見つめた。

 それを聞いた生徒たちもざわつき始め、クロヒは注目を浴びた。


『マジで?』『実はめっちゃ強いんじゃね?』『俺あいつと組んでみてぇな』と、生徒たちはクロヒに興味津々だ。


「これじゃ……私と組まなかったら……」


 もっと、強い人と組めるんじゃ……。

 スノウは重々と罪悪感を感じた。

 なんだ、クロヒって凄い人だったんだ。

 スノウは深くため息を吐いて、下を向いた。

 だがクロヒは、スノウの表情を見て、何となくスノウの気持ちを読み取っていた。


「多分、スノウが居なかったら、俺もスノウと同じで誰とも組めなかったと思うよ」


「え……。そんなはずないよ、これだけの成績なら……」


「まあ、次の授業でわかるとおもうぜ」

 

 クロヒの、もう全部わかってると言わんばかりの苦笑いをスノウは不思議そうに見つめた。


 





◇ ◇ ◇

 

 ついに、魔法の実践授業の時が来た。とはいえ、今回は既に使える魔法の復習のようなものだ。

 火、水、氷、木、雷、土、闇、光、無。

 この9つの属性が、この世界に存在する魔法の属性とされている。

 その中でも無魔法が今日の授業のメインだ。

 無魔法は、所謂便利魔法だ。様々な属性が混じっていたりしても、日常的に使われる便利魔法は無とされる。

 例えば水を広範囲に撒くような魔法や、幾らでも物が入る収納魔法、回復魔法も、この無魔法の分類になる。

 実践授業は、基本外での授業になるので、広場に集まることになった。


「今回は、これらの魔法を試してもらう。なにか質問はあるか?」


「はい!」


 誰もが手を上げるのを萎縮する中、クロヒは元気よく手を挙げた。


「どうした? クロヒ」


「俺! 魔力ないんで無魔法は使えません!」


 クロヒは大きな声で堂々と宣言し、先生もはっと気がついたように顔を上げた。

 そして、エドウィンは遂に来たかと、ニヤけた。

 スノウは唖然と、クロヒを見た。


「そういえば、今回はそういえばそんなのがいたのを忘れてたな。申し訳ない。その場合は、他の生徒の手伝いをしててくれ」


「了解です!」


 タッタッタッと、クロヒはスノウの元に駆けていく。

 そして、何事も無いように授業が始まるが生徒達は心の中でこう突っ込んだ。


 あれ? ここ魔法学校だよね……?

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