第9話

 入学式を終わると、担任の紹介を少しして、解散となった。

 クロヒはそこで学校の全体地図を貰い、学校の寮へと戻った。

 寮は一人一部屋。しかも魔力を使い使用するキッチンもあったりと、中は広々としており、設備も非常に充実している。


 クロヒは自分の部屋を見つけて、鍵を開けようとした。


「あれ? 開いてるな」


 何故だろうと疑問を持ちながらも、躊躇うことなくドアを開けた。


「あ、おかえり」


 そこにはメイの姿があった。


「あれ、この階って男子寮じゃなかったか?」


「うん。でも、校長先生に許可を貰って、クロヒと一緒の部屋にして貰ったの」


「そんなのいいのかよ」


 いくら融通を効かせてくれるとは言っても、流石に男女で別れている部屋をを合同にしてしまうのはどうなのだろうと、幾ら幼なじみだったとしても、少し考えてしまう。


「しかも、お前その格好ってなんだよ」


 今のメイの格好は黒と白のメイド服。さっきとは全く違う服装だったので、クロヒはかなり驚いていた。


「あ、これね。私、この学校で働くことになったんだ」


 成程。だからこの格好か。

 何となくクロヒは納得するも、動揺は隠せない。


「スゲーな。もう働くのかー。じゃあ、メイは仕事、俺は勉強だな! お互い頑張ろうぜ!」


 クロヒは拳をぐっと、メイに近付けた。

 それを、メイはクロヒを見つめて、そして――。


「――うん!」


 クロヒと拳をこつんとぶつけた。

 メイは、記憶を失ったとしても、こうして親しく接してくれるのが嬉しかった。

 ちゃんと、クロヒと心は繋がってる。それを、お互いの手が触れて感じることが出来た。


「あ、じゃあ私はお仕事に行ってくるね」


「おう! 頑張れよ!」


 入口のドアが閉まり、小さくタッタッタッと跳ねるようにして駆ける音が聞こえてきた。

 これからのことを想像して、心踊ってるようだ。


「うっし! じゃあ俺も頑張るかな!」


 早速クロヒは気合いを入れ直し、外へ飛び出した。

 入学して初日。クロヒには1度休んで疲れを取ろうなんて選択肢は存在しない。


 よっしゃー!! 早速特訓だぜ!!


 クロヒは今からやる気満々だ。

 寮から出て、比較的人の少ない広場を探した。

 足には緑色に光る魔石をつけたブーツ。まだ使い方には余り慣れていないので、少し練習したかったというのがクロヒの考えだ。


「よし……一気に風吹いたら俺がやべぇからな。慎重にいかねぇと……」


 クロヒは精神を集中させて、魔石の魔力を感じた。

 魔力の貯蓄は、殆ど使ってないだけあって十分にある。

 魔石は輝き出した。

 それと同時に、足元の草がゆらゆらと揺れる。それの強弱で、クロヒは力を確かめた。

 

「よし! よっと」


 そして、クロヒは魔力を使って跳躍をした。地上3階ほどの高さまで飛び、そして、着地をした。


「これ、上手い具合に着地調整しないときっついな」


 跳ぶ時は問題ないが、着地する時はタイミングを誤ると衝撃が足に響くので、慎重に使う必要がありそうだった。

 

「でも、高速移動にはかなり使えそうだな。練習はまだ必要だけど」


「お、中々面白いことしてるね」


「ん?」


 突然声をかけられたので、声のした方を見てみた。

 すると、そこに緑髪の少年が、クロヒのことを見ていた。


「誰だ?」


「俺はエドウィンだ。勝手に見てすまないな」


「いや、別にそのうち見せるものだし気にしねぇよ。俺はクロヒだ。よろしくな」


 2人は握手を交わした。


「今のは魔法……とは少し違うよな」


 1発で見抜いたエドウィン。魔石から発する魔法と、通常の魔法では異なる点はあるものの、普通なら気付かない程度の差異だ。

 それを気づくということは、かなりの実力者かもしれない。


「ああ、これは魔石を使ってるからな」


「魔石? なんでんなことするんだ? まさか魔石使いの真似事か?」


「真似っていうか、それは俺の師匠だ」


 それに俺も魔力ねぇしな。と、クロヒは言った。

 それを聞いて、思わずエドウィンは固まってしまった。


「……なるほど、結構凄いのが来たんだね」


 エドウィンの闘争心が掻き立てられた。

 数年前に突然姿をくらました、魔力無しの魔法使い。知る人ぞ知る実力派だけに、それを知っていたエドウィンは思わず握りこぶしを強く握った。


「今回は、オズワルドのやつだけかと思ってたけど、思わぬダークホースだ。俺も負けられないな」


「オズワルドって誰だ?」


「ああ、お前もクラス同じだし、明日会えばわかるよ。それじゃあな。俺は用があるから、ここで失礼するよ」


「お、そうか。じゃあな! 明日また会おうぜ!」


 明日から学校が始まる。そう考えるだけで、クロヒは、ワクワクが止まらなかった。本当だったら、学校に来ようなんて夢のまた夢だったからだ。


「よっしゃ! もう一丁行くかぁ!」


 クロヒは両足に力を込めて、大きく跳躍した。






――――――――――


「うまっ! 食堂のご飯こんな美味いのかよ!」


「凄いよね。私も、こんな料理作れるようになりたいな」


 メイとクロヒは、日が落ちると学校の食堂へご飯を食べに向かった。

 今までは村の庶民的料理や、ヒトキとの特訓の時に食べた焼き魚や焼肉のみだったので、本格的な料理は初めてだった。

 この学校は、貴族やエリート魔術師の子供も通うので、料理の質はかなり高い。

 平民の出でムーブル魔法学院を受験する人は、数ある志望理由のひとつに食堂の料理を上げるほどだ。


「クロヒじゃないか。広場で会ったぶりだな」


「お、エドウィン!」


「クロヒ、知り合いなの?」


「ああ。今日会ったんだよ」


「そうなんだ。私はメイと言います。ムーブル魔法学院の使用人として働いていて、クロヒとは小さい頃からの幼なじみです」


「俺はエドウィンだ。なんだ、こんな可愛い子と幼なじみとか、羨ましいな……。俺も数年間仲良いやつは居るんだけど、それは野郎だからな……。まあ、あいつも良い奴だし、嫌ではないけどな」


「そうなのか! 改めてよろしくな」


「ああ、明日が楽しみだ」


 エドウィンは、奥の席へ向かい、男子と何やらワイワイ騒いでいた。恐らく、先程言っていた幼なじみなのだろう。


「クロヒ」


「何?」


「友達できたんだね。良かった」


 メイは安心したように笑った。


「まあな。いやー楽しみだぜ。あ、おかわりしてくる!」


 クロヒはばっと立ち上がり、ご飯をもらいに行った。

 その後ろ姿を、メイはじっと見つめていた。

 旅をしていた間はずっと独り占めをしていただけに、少し残念な気持ちがあるが、それでもメイは友達が出来ていて嬉しかった。

 あ、私も何か食べよっかな。

 メイは、デザートを食べようとクロヒの後をついて行った。

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