第8話
「王都ってすんげぇな」
ヒトキとの特訓を終えて、メイとクロヒの2人は馬車で王都へと向かった。
ヒトキとの別れ際、クロヒは号泣しながら『 師匠、マジでありがとう』と感謝の言葉を述べていたのが、非常に印象的な出来事だった。
その時、メイとヒトキは2人して笑い。暖かい雰囲気で、ヒトキと別れることになった。
しかし、一変して馬車の中でははしゃぎまくり、メイに何度か怒られていた。
「クロヒ。学校は何処にあるの?」
「ああ、地図見れば分かるぜ。えっと……。なんかいい匂いするな」
地図を探すはずが、食べ物の匂いにつられてフラフラと歩いていく。露店に捕まってしまったようだ。
「鶏のもも肉、丸焼きだぜ。1本どうだい?」
「うまそう!! 買いだ!」
「ちょっと、クロヒ」
「なんだ、メイも欲しいのか?」
「そうじゃなくて……」
「お! あそこにも肉!」
「もう……」
今まではヒトキがいた分、クロヒの暴走を押えられたのだが、メイと2人になった瞬間、クロヒの歯止めが効かなくなった。
肉好きのクロヒは、肉を見つければすぐに買い、また見つけては買い、食べるを続けて、時間を浪費していた。
入学式まで、王都へ到着した時は余裕があったのが、今じゃギリギリだ。
「誰か……クロヒを止めて……」
「あれ? どうしたの?」
ガックリと肩を落としていたメイが気になったのか、1人の少女が話しかけてきた。
「あ、えっと。あそこにいるクロヒっていう、私の友達なんですけど、ノーブル魔法学院に行くんですけど」
「――えっ、そうなの!? それじゃあ私と同じだね。……って言ってる場合じゃなかった。てことは、あのクロヒって子を止めたらいいんだよね」
「そう、ですけど」
「よーし!」
早速、その少女はクロヒに近づいていった。
「おっす!」
少女は手を挙げて、クロヒに元気に挨拶をした。
「おっす! ……ってだれだ?」
「私、スノウっていうの。君は?」
「俺はクロヒだ!」
「へぇ。あの子から聞いたんだけど、ノーブル魔法学院なんでしょ? 入学生だよね。私もなんだ」
「マジか! 友達になろうぜ!」
「うん! よろしくね!」
すっかり、クロヒとスノウは打ち解け仲良くなったようだ。得意魔法の話や、好きな食べ物のなど、色んな話をして盛り上がっていた。
しかし、メイは思った。
……なんか、忘れてない?
「2人とも、遅刻……しちゃうよ?」
「あ、ほんとだっ。クロヒくん、急ごう!」
「やっべ。もうそんな時間かよ」
ようやく焦りだしたようで、3人は急いで走り、学校へ向かった。
主に王都には二種類の学校がある。
通常の一般的な知識を得る学校と、魔法学校だ。
一般的な学校は、基本魔法は生活に使うような魔法しか勉強せず、基礎学力から始まり、経理や事務、土地開発についての基礎知識を得る場所だ。対して魔法学校は、将来魔法騎士や、宮廷魔術師になるエリート達を生み出すための魔法に特化した学校だ。
魔法学校はどれも難関なのだが、中でもクロヒ達が通う王立ムーブル魔法学院は、随一の学力を誇る、いわば天才魔法使いの卵が集まる学校だ。
「でっけぇ!」
「凄いよね。私も、まさか本当にこの学校に来れるとは思わなかったよ!」
赤レンガをふんだんに使った建物の外壁と、校門。そして、中は広場がいくつもあったり、食堂の建物が別になっていたり、寮も一人一部屋。お城を除けば王都一の面積を誇る建物だ。
「入学式の会場は、あの看板に沿っていけばいいんだな。メイはどうする?」
「あ、ごめん。私は校長先生に書類を渡さないといけなくて……」
「そっか。じゃあ、用が済んだらまた会おうぜ!」
「うん。じゃあね」
「おう!」
メイと別れて、クロヒとスノウは入学式の会場へ向かった。
入り口では先輩たちがサークルや部活の勧誘をしていて賑やかだった。
そして中の広さに驚愕する。
椅子がずらりと並んで、椅子の向く先には大きなステージがある。そこでは教師たちが何やら準備をしているようだった。
「クラスごとに座るのか。スノウのクラスは?」
「私は1組だよ」
クロヒはそれを聞いて、驚いた。
「マジか! 俺も1組なんだよ。じゃあ、さっさと行こうぜ!」
「あ、ちょっと」
クロヒはスノウの手を引っ張り、1組の椅子へ走っていった。
――――――――――
そしてその頃、メイは校長室へ到着していた。
後者が広く、途中先生に道を尋ねて、何とか辿り着くことが出来た。
校長室では、大きな椅子に校長が腰掛け、その隣では眼鏡をかけた細身の男が立っていた。いかにも仕事が出来そうな雰囲気をしていた。
そして、校長にヒトキから預かった手紙を渡した。
「ほっほっほ。あの魔石使いが子供二人を寄越してくることになるとは思いもしなかったよ」
真っ白な髭と、髪をした校長が楽しそうな笑みで迎えてくれた。
「あ、えっと」
「ふむふむ、なるほど」
手紙を読みながら、面白いものを見たような表情をした。
「お前さんを使用人として雇って欲しいとの事だ。恐らくじゃが、あんたの確認は取ってなさそうじゃのう」
「はい。確かに何も聞いてないですけど」
「まあ、それでも構わん。取り敢えずは今言った通りじゃ。お前さんを、王立ムーブル魔法学院の使用人として雇用しよう。ようこそ、王立ムーブル魔法学院へ。歓迎する」
校長は笑顔で言った。
「こちらこそ。ありがとうございます……?」
それに対して、メイは首をこてんと倒し言った。
「おっほっほ。まあ、戸惑うのも仕方なかろう。質問はあるかね」
「あ、じゃあ……」
「ふむ……まあ、いいじゃろう。ルイ、彼女を案内してやってくれんか」
「はい。分かりました」
校長の隣にいた男が、メイを連れて校長室から外へ出た。そして、1人になった校長は独り言を漏らした。
「あの少女……どこか見覚えがある。はて、どこだったかのう……。まあよい。思い出せんのなら、いくら考えても無駄じゃからな。わしもそろそろボケが始まったかのう?」
と、自虐をしながら、ほっほっほと校長は笑った。
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