第6話

 午前中は体を動かし、午後は頭を動かす。何度もそれを続けて、クロヒはみるみるうちに力をつけていった。

 魔石を使いこなすための特訓。魔石の知識を溜め込むための勉強。それは、普通の特訓とはわけが違った。

 それだけ、魔法が使えない人間が魔法を使うのは大変なのだ。

 ――だが。


「ラストの本、終わった……」


 そんな厳しい特訓を、クロヒはやり切った。


「すごい、本当に全部読んじゃったんだ」


 メイは、目を見開いて驚いた。


「思ったより早く終わったな。流石、頭が回るだけある」


 ヒトキも、クロヒのストイックさに感心しているみたいだ。


「でも、まだ師匠にはたどり着けないぜ。それで、次は何すればいいんだ?」


「ああ、ラストは簡単だ。最後は、お前が魔道具を作れ。材料は、今行く洞窟に全てが揃ってある。それを全て集めて、自分で魔道具を作れ。いいな?」


「さ、最後になって鬼畜だぜ」


 少しだけ、クロヒはヒトキから感じる圧に、一瞬引き腰になった


「当たり前だろ。ったく、さっさと行くぞ」


 3人は、森の奥に存在する洞窟へと向かった。前もってヒトキがクロヒに教えた情報では、中には凶暴な魔物が住んでおり、一筋縄ではいかない場所になっている。

 そこへ、クロヒが1人で潜り込む。

 目的地へたどり着くと、いかにもヤバそうな雰囲気を放つ洞窟が、大穴を開けて待ち構えていた。


「怖気付いたか?」


 ヒトキは唖然としていたクロヒを茶化すようにして、肘でつついた。


「んなわけねぇ! やってやるぜ!」


 不安はゼロではない。でも、そんな不安は気合と声で吹き飛ばす。いかにもクロヒらしかった。

 ヒトキはそれを見て、少し安心したようで、表情はいつもと比べて少し柔らかかった。


「よし、その意気だ。それと、これを渡しておこう」


 ヒトキは急に思い出したように言って、小さな小袋を渡した。


「……なんだ? これ」


「お守りだ。行き詰まったら開けてみろ。恐らくだが、お前はここで行き詰まるからな。因みに、魔石を何に付けるかは決めたのか?」


「おう! 手袋とブーツだ」


 クロヒは胸を張って言った。


「俺のパクリじゃねぇか。ま、構わねぇけどな。準備出来たならさっさと行け」


「おう! 直ぐに終わらせて戻ってきてやるぜ」


 頼もしいもんだ。

 ヒトキはクロヒの背中を、暗闇に消えたあともずっと見つめていた。


「あの、ヒトキさん?」


「なんだ?」


「なんで、クロヒが行き詰まるのが分かったんですか」


「ああ。あいつにしか教えてないのをすっかり忘れてたからな。メモしておいたんだ」


「……なる、ほど?」



――――――――――



「なんだ、真っ暗かと思ったら案外明るいな」


 壁に存在する鉱物が淡く光り、洞窟を薄ぼんやりと照らしていた。

 それは別世界に迷い込んだような錯覚で、自分という存在を、思わず忘れそうになるような感覚を覚えた。


「さて、まず探すのは魔石か」


 クロヒは頭の放り込んだ読書の記憶と、ヒトキの言葉を必死に掘り起こした。

 手袋とブーツを作るための丈夫な皮。でも、絶対に破れないレベルで丈夫でかつ手と魔石の間で起こる魔力の動きを阻害しないようにしなければいけないらしい。

 まあ、単純に魔物から取れる皮が妥当だろうとクロヒは判断した。


 そして、魔力を手に流せるようにするための魔力を流す回路、そしてそもそもの話魔石も必要だ。

 魔石も、石によって属性があるし、それも自分で判断し選別しないといけない、

 やることは多い。

 

 クロヒは取り敢えず、魔石は最後にはめ込むだけにして、皮と魔力を通す回路を先に作ることにした。

 

 ――だが。


「だー!! 見つかんねぇ。どうすればいいんだよ」


 3日経って、回路の素材はすぐ集めたものの、魔石が全く見つからない。

 すぐ見つかるとは思ってはいなかったが、材料だけなら初日で殆どなんとかなると思っていた。

 それなのに、3日まともに食事が出来ず、体力も日に日に削られていく。そろそろ限界が近づいてきていた。


「今日もそろそろ終わりか……」


 洞窟の中では時間感覚が狂うが、眠気的にはそろそろ夜中になるだろう。クロヒはそう判断し、早めに寝床を作った。作ったとは言っても、布1枚敷いただけだが。


「メイ……」


 自然と、幼なじみの名前が零れた。

 メイは今、何してんだろ。

 1人になることが、こんなに寂しいことだとは思わなかった。

 恐怖心は収まらないし、油断は出来ない。眠る時でも、安心ができない。 

 ――でも。


「だからこそ、頑張らねぇとな」


 全ては、メイを守り抜くために。

 改めて決意を固くしたクロヒは、1度深呼吸をしてから、ゆっくりと微睡みへ沈んでいった。

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