少年は辿り着いた

その女の人達は唐突に現れた。いつ現れたかは……分からない。


泣きじゃくっていて、気付いたらこちらを見つめていた。


緑髪で落ち着いたお姉さんがフウカと言って、赤髪でソワソワしてるお姉さんがライラと言うらしい。2人共少し大きめのカバンを背負っている。


名前や家族の事を聞かれたが、どれも何も分からない。


そうしていると、フウカと名乗った女の方が毛布とお茶を渡してくれた。不思議と、心があったかくなる感覚があった。


飲み物を飲み終わるとライラと名乗って女の方が声をかけてきた。


「じゃあ今から移動するわ。道中の魔物は私が対処するからフウカはその子をおぶってあげて。取り敢えずギルドまで戻りましょう」


「分かったわ……それでいいかしら?」


フウカが僕の顔を覗き込んでくる。


魔物……? ギルド……? 分からない……。でも、何となくこの2人にはついて行っていい気がした。


こくり、と頷く。と、フウカに抱き上げられた。


「ちょっと早いからしっかり掴まっててね」


よく、分からないけど言われた通りに捕まると、それを確認したのか2人は走り出した。


想像以上に早くて、思わず目を瞑ってしまう。


「ふふ、こんな速度は初めてかしら?」


まず、こんなに移動するのが初めてです……。ちょっと怖いけど、慣れると目を開ける余裕くらいは出てきた。


さっき言ってた魔物とかいうのはいないみたい。ちょっとホッとした。


30分くらい走り続けると、森の出口のような所へ出た。さっきまでの森の様な木はなく、開けている平原の様な感じだ。さっきと違うのは、舗装された道がある事。


「一切魔物に出会う事なく森を出られたな……」


ライラが一度止まって考えるように呟く。


「まぁ、今気にしても仕方ないわ。ラッキーだったと思いましょう。それよりも、走りっぱなしで疲れたし、一度休憩しましょう」


そう言うとフウカは僕をおろした。そのまま僕の顔を覗き込んで、微笑みかける。


「大丈夫だった? あんまり君のことを気にかけられなかったけど」


素直にコクリと頷いておく。するとフウカは満足そうに頷いて、カバンからシートと木でできたあみあみの箱を取り出した。


他にもお茶やコップをフウカが出している間にライラがシートを敷いて行く。かなり手際がいいみたい。


そうこうしてボーッと見ている内にシートは敷き終わったみたいで、2人共座ってさっきの箱を開ける。


……これ、座っていいのかな? 僕はどうすればいいんだろう。と思っているとフウカが微笑みかけてくれた。


「どうしたの? こっちおいで。ご飯食べるよ」


行っていいのかな? まだ迷っていると、ライラがこっちに来て僕をひょいっと抱き上げた。


「フウカの作るサンドイッチは格別なのよ。食べれる事に感謝して食べなさい」


そう言いながら僕を開いていた所に座らせてくれる。サンドイッチの美味しそうなにおいが漂ってきておなかが鳴ってしまう。


ライラとフウカがほほ笑む。こっち見ないでください……。


そういえばご飯は食べてなかったのかな? あんまりお腹はすいてないけど……。


「ご飯を食べる前はね、両手を合わせていただきますって言うのよ」


と、フウカが両手を合わせながら言うので、真似して両手を合わせると、ライラも両手を合わせた。


「それじゃあ……」


「「「いただきます」」」


フウカに渡されたサンドイッチを頬張る。美味しい……!


……? ライラに見つめられている。何だろう。なんかまずかったかな……?


「あんた美味しそうに食べるわね。100点」


ドユコト……? と思っていると、フウカが微笑みかけてくれた。


「作った側としては美味しそうに食べてくれるのは嬉しいと言う事ですよ」


あれ……? フウカが作ったんじゃ……? と思っているとライラがぶっきらぼうに呟いた。


「食材調達は私がしているからな」


そう言う事! お礼言った方がいいのかな?


「ありがとう!」


「別にお前のために狩ってきたわけじゃ……」


機嫌、損ねちゃったかな……? と思っているとフウカが再度微笑みかけてくれる。


「最初よりはだいぶ心を開いてくれるようになりましたね」


確かに……。なんでだろう。2人といると安心するような気がする。


フウカが僕の頭を撫でて満面の笑みで言ってくれる。


「君はまだ子供なんだし、頼ってくれていいんだよ。その方が嬉しいし」


「……うん」


それからサンドイッチを食べ終わった僕たちはまたフウカに僕がだっこされる形でギルド? とやらに向かった。


といっても、さっきみたいに走っての移動ではない。なんでも森を抜けると魔物はいないから、急ぐ必要はないらしい。


それでも僕からしたら十分早いスピードで、20分ほど歩いたら、レンガ造りの城壁のようなものが見えてきた。大きな門もあり、端に金属でがちがちに固めた人が立っている。


「あそこが私たちの住む国、ヴァルキアラ王国ですよ。どうですか? 大きいでしょう?」


というフウカの説明にびっくりする。あれで一つの国……。


でっけーーーー!!!


と見入っているとライラが呟いた。


「こいつは市民証を持っていないんじゃないか? どうやって中にいれるんだ」


「銀貨5枚で仮発行できるわ。それでとりあえずギルマスに見てもらうのがいいと思うの」


とフウカが答える。しかしライラはまだ懸念点があるらしい。


「仮発行にも名前が必要だろう?」


その言葉にフウカも、忘れていた……。と言わんばかりの表情になる。


「確かに……。どうしましょう」


「私たちでとりあえず決めるしかないのではないか?」


なんか、僕が名前を忘れてるせいで迷惑かけてるみたいですみません……。


フウカが僕の顔を心配そうに覗き込んでくる。


「ごめんね……。中に入るには市民証が必要なんだけど、名前を書かなきゃいけないの。でも、君は名前を思い出せないみたいだし……私たちがとりあえず決めようと思うんだけど、大丈夫かしら?」


コクリ、と頷く。と、フウカの顔が明るくなった。


「よかった……。じゃあ、何がいいかしら」


と、僕をおろして2人で何やら話し合いを始めたようだ。


3、4分ぐらいしたところでフウカとライラがこっちを振り返って言う。


「アスカ……なんてどうかな」


アスカ……アスカ……。


「うんっ」


僕は満面の笑みでうなずいた。2人も心配だったのかどこかほっとした表情になる。


「じゃあこれで街には入れるな」


と、ライラが言う。そうだね、とフウカも返すと、また僕を抱えて歩き出した。


門にはすぐ着いた。


門番? のような人がライラとフウカにお疲れ様です! と声をかけている。そのうちの一人が近寄ってくる。


「お疲れ様です! ライラ様とフウカ様。失礼ですがそちらのお子さんは……?」


「森にいたんだ。記憶喪失らしい。仮市民証を発行してくれ」


とライラが言うと、


「分かりました。では着いてきてください」


と門番が歩き始め、門の横にある小さい小屋みたいなところに入っていった。


2人もそれに続く。もちろん抱っこされてる僕もね。


「こちらに名前と保証人を記入してください」


と門番が紙を渡し、ライラが記入していく。


「ありがとうございます。大丈夫ですね。発行まで2分ほどお待ちください。あと、一応規則なので銀貨も払っていただけると……」


と門番が申し訳なさそうに言う。これもライラがかばんから袋を取り出して払ってくれたらしい。


「ありがとうございます」


門番が言う。僕もお礼を言っておいた方がいいのかな……?


「ライラさん。ありがとう……」


と言うと、ライラは気にするなといってそっぽを向いてしまった。


それからすぐに市民証というのは発行できたらしく。どうぞ、と門番の人に渡された。


「じゃあこれで街に入れるわね。街は初めてでしょう? びっくりすると思うわよ」


とフウカが話しかけてくれる。とてもわくわくする。



こうして僕たちは街に入ったのだ。

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