少年はおどろいた
フウカに抱っこされたまま街に入ると、門からそのまま続いて大きい通りがあってその道沿いにはたくさんのお店が並んでいる。
とても賑わっていて人通りも多い。
毛布にくるまって抱っこされている僕に何人かの人が視線を向けるが、すぐに別のものに興味を示す。こういうことには慣れているような感じだ。
道のずっと向こうにはひときわ目立つ大きな建物がある。豪華絢爛といった感じでこの国のシンボルになっているようなイメージを受ける。
その建物に見入っていると、フウカが説明してくれた。
「ふふ……見えていますか? あの大きい建物はこの国の王宮ですよ。普通は一般人は入れませんが、年に一度あるヴァルキアラ王国祭では王宮も開放されるんですよ」
へぇー……。一度くらいは入ってみたいなぁ。と顔をキラキラさせているとライラが補足してくる。
「まぁ次の王国祭までは半年あるけどな」
そっかぁ……。
「まぁとりあえずギルドに行きましょうか!」
と、フウカが移動を始める。もちろんライラもついてくる。
街にはいろんな店があるらしく、移動中フウカが色々と説明してくれた。
カフェに洋服屋や薬屋、百貨店などもあるらしい。まぁ僕お金持ってないけどね……!
7分ぐらい歩いたところにある大きな木造の建物の前で2人共立ち止まった。
「ここがギルドよ! いかつい人が多いけど優しい人が多いから安心してね」
とフウカ。いかつい人って……。
フウカが木製のドアを開けると、ドアに付いていたベルがチリンチリンと鳴る。
中に入ると驚いた。確かに筋骨隆々でたくましい男の人だらけだ。
酒場? と一緒になっているのか、左側にカウンターがあり、受付嬢のような人が何人かカウンターの後ろに並んでいて、奥の壁には掲示板と、乱雑に張られた何枚ものポスター、右側には木製のテーブルとイスが並んでいて食事をしている人が結構たくさんいる。左奥の壁際には階段があって2階に続いているようだ。
食事をしている人たちが一瞬だけこちらを見てすぐに知り合いとの会話に戻る。が、さっきと違ってじっとこっちを見ている人もいる。
……けど、どっちかというと、ライラやフウカの方を見ているみたいだ。
フウカやライラはそんな反応が当たり前のようらしく、そのまま受付のところに行くと、受付嬢に
「ちょっと話したい事があるから、ギルマスを呼んでくれない?」
といった。ギルマスって……? と思っていると、ライラが説明してくれた。
「ギルマスとはギルドマスターのことだ。ラスターと言ってな、このギルドで一番偉い人だ」
ほへぇー。――――って一番偉い人!? そんな簡単に呼んじゃえるもんなの!?
と驚いているとフウカが優しく教えてくれる。
「普通はこんなにポンポンとギルマスは呼べないんだけどね。私たちはもともとラスターと知り合いで、パーティーを組んでたこともあったから」
なるほど。知り合いだったのか。それなら納得……納得?
とあれこれ考えていると、当のギルマスとやらが来たみたいだ。上の階からドタバタと足音がして、これまたガタイのいい男が降りてきた。その男は万人に好かれそうな笑顔で話しかけてくる。
「よぉ! どうしたライラ、フウカ」
順番に2人を見て、その視線がそのまま僕に向かう。と、真剣な顔つきになった。
「場所は……上にした方がいいか?」
「そうね」
とライラが端的に答える。
よし、と言ったギルマスに付いていく。ギシギシいう木製の階段を上るときには窓から外の風景が見える。
そのまま2階の奥にある部屋にギルマスが入り、2人も続いて入った。
部屋は応接室みたいになっていて、ソファと机があり、逆にそれ以外は壁にある装飾以外は特に何もない。
ギルマスが窓側に座り、ライラとフウカが廊下側に座る。
「よぉ、俺はここのギルドマスターのラスターだ。初めましてだな」
と、ラスターが声をかけてくれる。
「……初めまして」
「ガッハッハッ。挨拶が出来るなんていいガキじゃねぇか」
声が大きいけど、良い人のようだ。
挨拶が終わるとすぐ、ラスターが真剣な面持ちで口を開いた。
「……で、何があったんだ」
これにライラが詳しく説明する。
「私たちは半年に1度の調査依頼で禁忌の森に行っていたわ。知ってると思うけど、新しい魔物がいないか、とか崩れた生態系がないかとかの国からの依頼の調査よ。いつも通り奥まで一通り見て戻ってくる予定だったのだけれど、半分ぐらいまで行ったところでこの子を見つけたわ。危険な様子はなかったし、ただの子供だと判断したから連れ帰ってきたわ。調査依頼は各自の判断で帰れるし、すぐ報告すべきと思った事もあるし……」
ライラが声のトーンを落とす。
「その報告したい事と言うのは?」
ラスターも真剣に聞いている。
「まず、この子が一緒にいると魔物が近寄ってこなかったわ。理由はパッと見ただけじゃよくわからなかったわ。あと、禁忌の森にいた魔物がなんか少しざわついてる感じがして……。今までと違って不穏な感じがしたわ」
ライラがそう言うと、ラスターは少し考えこんでから口を開いた。
「ふむ……。魔力の関係で魔物と仲良くなれたり魔物が嫌ったりする魔力を放つ者もいる……。そう言う者がテイマーやタンクになったりするわけだが、そういう性質がその子にあるのかもしれないな。その子が何らかの理由で禁忌の森に飛ばされ、その結果魔物がざわついていたというのはどうだ?」
「もちろん私たちも考えたわ。でも足跡は奥から続いていただけで、足跡が初めて付いていた所には転移系の魔法の使用痕跡はなかったわ。探知魔法でしか確認してないけど、転移系の魔法は痕跡を残さないで発動することは不可能だと思うから、多分間違いないと思うの。だからよくわからないのよ」
全員が全員真剣な面持ちで会話してるけどまったく分かりません……。
僕のことで悩んでくれてるのは伝わってくるからありがたいけど……。
それにしても魔法。魔法か……。魔法ねぇ……。
「魔法に興味があるの?」
今話に参加していなかったフウカが聞いてくる。
なんで分かったの!? と驚いていると、
「ふふ……。声に出てたわよ」
あ、あれ……? 声に出てました……?
それにしても魔法には興味があるなぁ。かっこよさそう、使ってみたい。
「……うん」
と答えると、フウカがラスターとライラを見て言う。
「アスカが退屈しちゃうし、服とかも買わないといけないわ。それに魔法にも興味があるみたいだから、一回抜けてもいいかしら? 私から報告できることはほとんどライラもわかってる事だし」
「ふむ。もちろんいいぞ。その子の精神衛生も考えてやらんといかんからな。一番混乱しているのは本人だろう」
「私ももちろんいいわよ」
と、ラスターとライラが口々に言う。ありがとうございます……!
こうしてフウカと一緒に街を探検できることになりました。まだ毛布にくるまってるから抱っこされたままだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます