8. 冒険者になる決心をするソフィア
(カラシン視点)
「カラシン、隊長が呼んでるわよ。」
とケイトが声を掛けてくる。隊長が?何の用だ?
「何だろう?」
「多分、オーガを倒した魔法について聞きたいんじゃないかな。オーガが出現した事についての報告をしないといけないだろうからね。オーガを2匹も倒したんだから依頼遂行の報酬とは別に報奨金が出るかもよ。もっとも、いくら貰えるのか知らないけれど、50人で分けたら知れたものでしょうけどね。ねえ、それよりその子を紹介しなさいよ。カラシンのいい人なんでしょう? 全く、いつのまにこんな美人に手を出していたのかしら、全く気付かなかったわよ。」
ちょっと待て!と言うことは、オーガを倒したのは俺だと報告済みと言うことか!まずい、どう誤魔化そう...。 ケイトめ、全く人騒がせなやつだ。ソフィアのことも勘違いしているし、そんな風に思われていると知られたら機嫌を損ねるかもしれない。俺なんか一瞬で消されるかも。背中に冷や汗が流れる。
「ソフィアはそんなんじゃない。」
「あら、早速呼び捨てなんだ。見せつけてくれるわねえ。そんなにべったりくっついておいて誤魔化そうなんて無駄よ。ねえ貴方ソフィアって言うのね、私はケイトよ。よろしくね。」
ケイトに話しかけられると、ソフィアは答えずに俺の背中に隠れる。
「あら、失礼、恥ずかしがり屋さんなのね。邪魔者は退散するわ。」
と捨て台詞を残してケイトが去って行く。やれやれとため息をついた途端、
「うごかないで」
とソフィアに言われた。ダラダラと冷や汗が流れる。やはりケイトが言ったことで腹を立てたのか。こんなおじさんの恋人だと勘違いされたからなあ。何をする気だ? さっきのオーガみたいに吹き飛ばす気じゃ無いよな...。
だが、意外なことにソフィアが俺がさっき痛めた脇腹に手をかざすと痛みが少しマシになった。そのまま、ソフィアは手をかざし続ける。数分すると患部が温かくなり、10分ほどで完全に痛みが引いた。治療魔法を使ってくれたようだ。治療が終わるとソフィアは、ため息を吐きながら座り込んだ。顔にはじっとりと汗をかいている。俺を治療するのに無理をしたのだろうか。さっき俺の代わりにオーガと戦ってくれたことといい、優しいところもあるのか? あくまで主人がペットを可愛がるのと同じなのかもしれないが。
(ケイト視点)
行方不明になっていたカラシンが突然現れたと思ったら、私達が寄ってたかって戦っても倒せなかったオーガを一撃でやっつけた。すごいよ! カラシンは新しく使い魔としたフクロウの手柄だと言うが、そんな強力な魔物を使い魔に出来たことがすごいじゃない。本人は隠しているつもりだが、孤児院時代にカラシンに軍から誘いが掛かっていたのは知っている、それだけの才能があったと言う事だ。軍所属の魔法使いになった方が待遇が良いに決まっているのに、カラシンは私と一緒に冒険者になる道を選んでくれた。冒険者は誰かに戦い方を教えてもらえるわけじゃない。自己流でやるしかないから今まで芽が出なかったけど、遂に埋もれていた才能が開花したんだ。お姉さんは嬉しいぞ!
それに、いつの間にか彼女まで出来たようだ。しかも超が付くほどの美人で、スタイルも抜群! 特に胸が....羨ましくなんかないぞ....。とにかく、あんな美人を連れていたら注目を浴びること間違いなしだ。ちょっと恥ずかしがり屋の様だけど、カラシンに好意を持っているのは間違いない。今までカラシンが女にもてているところを見たことが無かったから新鮮だね。あの子も冒険者なのかな。ここに来た時にはいなかったと思うのだけど。この村の娘でもなさそうだしね。冒険者だったら私たちのチームに入れてあげても良いかもしれない。
隊長にはカラシンの手柄を思いっきり宣伝しといたから、きっといい具合に報告してくれると思う。ひょっとしたら冒険者ランクの2段階アップなんていうのもあったりして。
(ソフィア視点)
赤毛の人間に話しかけられた。胸が膨れていないから、たぶん男だろう。話の内容は良く分からなかったけれど、名前がケイトと言うことだけは聞き取れた。カラシンさんと親しげに話していたから、知り合いなのかもしれない。私はどう反応して良いか分からず、例によってカラシンさんの背中に隠れてしまった。やはり、言葉の習得は急務だ。森に帰れるならその必要も無いが、それは無理そうだ。お母さんがフクロウの姿になってまで私を監視している。こうなったら覚悟を決めるしかないのだろうか?
それにしてもカラシンさんのヒビの入った肋骨が気になる。やったのは私だけど....いや、だからこそ私が何とかしないと。回復薬はもうないけれど、回復魔法という手がある。もっとも私は得意ではない。治療を成功させるには、ものすごく精神を集中する必要があるんだ。失敗したらかえって傷が悪化することもある...。
「うごかないで」
とカラシンさんに頼むと、カラシンさんは素直に動きを止めてくれた。やるしかない、女は度胸だ! 私は患部に手をかざし、治療を始めた。回復魔法は一瞬の気のゆるみが失敗に繋がりかねない。私は治療に集中する。今だけは、森のことも、お母さんのことも、周りにいる人間達のこともすべて頭から追い出す。考えるのはカラシンさんの治療のことだけ。そして、なんとか肋骨のひびを修復したときには汗びっしょりになっていた。でもよかった、何とかなったよ。
さて、森には帰れないとするとどうすれば良いのだろう。お母さんの話では、人間の社会で暮らすにはお金と言うものが必要で。お金を得るためには働く必要があるらしい。でも、「働く」って何? 見当もつかない。仕方がない。迷惑を掛けるばかりで申し訳ないが、人間の中で唯一信頼できるカラシンさんに頼るのが一番かもしれない。
「カラシン、わたし、はたらく」
とカラシンさんの目を見つめて言ってみた。私の言葉を聞いたカラシンさんは、しばらくして口を開いた。
「働くって、何がしたいんだ。」
それが分からないから教えて欲しいと言いたいが、どういえば良いのか分からない。そうだ、カラシンさんも働いているんだよね。
「カラシン、はたらく、なにする?」
「俺か? 俺は冒険者だ。」
「ソフィア、おなじ」
冒険者って何か分からないけれど、カラシンさんと同じことをするのなら心強い。アドバイスももらえるかもしれないしね。
私の言葉を聞いたカラシンさんは、なぜか頭を抱えた。なぜだろう?
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