リーマン父と息子の入れ替わり!

工藤 流優空

父と子の入れ替わり。

 ある日の朝、良太郎とその父、良一に異変が起きた。なんと、二人が入れ替わってしまったのだ。


「親父、どうするんだよ!」


 毎日見ていた自分の顔が、こちらに向かって聞いてくるのだから、落ち着かない。夢でも見ているのかと良一は目をこすったり頬をつねったりしてみるが、何も起こらない。


「慌てても仕方がない。それより仕事のことが気がかりだ」


 良一はベッドから起き上がると、ノートにさらさらと仕事のやることリスト、マニュアルを書きつけていく。自分の顔をした息子がのぞきこんでくる。


「え、親父、まさかこのままで仕事行く気?」

「仕方がないだろ。入れ替わった状態で行ったら、職場でなんといわれるか……」

「それもそうか……」


 良太郎は納得して、自分も別のノートに自分の仕事内容を書いていく。父親は、普通のサラリーマン、息子は教育業界の仕事についている。


「これを見て、なんとか乗り切るんだ」

「こっちもできた」


 父と息子は互いにノートを交換し、分かりにくい内容について内容理解を図ったうえで、それぞれの仕事場に出社した。母親はすでにパートの仕事に出かけており不在だった。また、良太郎の妹の良子も大学に行ったようで既にいなかった。


 良一の姿をした良太郎は、父のオフィスへとやってきた。ノートを見ながら自分の席へと急ぐ。周りの人間に挨拶をしながら席へと向かう途中、挨拶をするたび、周りの人間が驚いた顔をしているのに気づく。


 良一の席に着くと、良太郎はびっくりする。デスクの上には、パソコンしかない。書類などは引き出しの中に整理され、パソコンの側面に今日やることのリストが貼られている。自分とは大違いだ。

 

 とにかく仕事を始めないと。そう思い、良太郎はパソコンを開いた。


――


 一方良太郎の仕事場にやってきた良一は、口をあんぐり開けていた。息子のデスクは、これでもかというくらい散らかっていて、どこに何があるのか、さっぱり分からない。これでは仕事ができないではないか。


 父親は、仕事を始めるより先にデスクの整理から始めることにした。幸い、出勤時間のきっかり三十分前に到着しているので、時間に余裕はある。


 良一は腕まくりをすると、ゴミ箱を手近なところに引き寄せた。


――


 次の日も、二人は入れ替わったままだった。同じように二人は互いの職場へと出社した。次の日も、その次の日も、彼らが元の姿に戻ることはなかった。


 しかし、二人はもう元の姿に戻らなくてもいいと感じ始めていた。


 良一は、もともと愛想がいい方ではなかった。仕事には熱心に取り組んでいたが部下にも厳しすぎて、あまり慕われていなかった。しかし良太郎は違った。


 彼は誰にでも優しく、自分の仕事は時間はかかるがしっかりとこなすタイプだった。そんなわけで、彼は周りからの信頼を集め、仕事が今まで以上に順調に回る運びとなっていた。


 また、良太郎の姿で出社していた良一は、その生真面目さが今までにいない人材だったため、子どもたちにも、そして上司にも好かれるようになった。また、整理整頓ができないことが欠点だった彼のデスクがきれいになったことで、職場の女子陣からも好印象を抱かれることとなる。


「オレ、このまま父さんのまんまでもいいかも」

「それ、俺も思ってた」


 父と息子が部屋で語り合っていたとき。急に一人の場違いな格好をした男が現れた。とんがり帽子に黒いマントを羽織った男は、自分は魔法使いだと名乗った。


 彼は、二人に平謝りして言った。


「本当は、娘さんとお母さんを入れ替える予定だったんです。娘さんがお母さんの苦労を何もわかってらっしゃらないようだったので……。お弁当に文句はつけるわ、塾に迎えに行けないくらいでけんかになったりと、それはもう見るに堪えない状況で。しかし、なぜか魔法が間違って発動して、あなた方にかかってしまった。申し訳ございません」


 お詫びになんでも一つ、魔法で願いを叶えますと提案してきた魔法使いを見て父と息子は顔を見合わせた。そして、互いに頷きあうと、一つのお願いを魔法使いに申し出た。


――


「なんであたしが毎日家事をこなさなきゃいけないのよ!」


 良子が文句を言っているのを尻目に、良一と良太郎は家を出る。二人は、かつて相手の職場だった場所へ、自分の体で向かう。


 彼らが魔法使いに願った願いは、こうだ。


「自分たちの魂は元の体に戻して、仕事だけを入れ替えてくれ。周りの人間が不思議がらないよう記憶を書き換えてもらって。……あと、良子は本人が反省するまで、当分お母さんの家事を全て代行する魔法をかけてくれ」


 お母さんは今、友達と全国の温泉巡りを始めたようで、毎日写真を送ってくれる。その楽しそうな表情には、父と息子もうれしくなる。


 二人の親子は、今日も仕事へと向かうのだった。

 

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