第1話 All You Need Is Death

 不快な音で目が覚める。あぁ、今日も憂鬱な一日が始まるのか。感情のないロボットのように朝の身支度を済ませる。重い足取りで職場へ向かう。家から駅までは電車で30分もかからない。

 「”~もかからない”ってかかる奴が言う台詞だよな。」

遠い昔友達が言ったことをふと思い出した。確かに的を得てる気もしなくもない。

「語尾に”知らんけど”を付けるのと同じパターンなんだって。結局人は保険をかけたがるんだよ。特に日本人は、、、」

その後もだらだら喋る友人を横に何気なく、特に興味もなく聞いていた学生時代の1ページに懐かしみを覚えたのと同時に、あの感情が成長したのを感じた。

 駅のホームに立つ。あいにく下りの列車なので混むといった様子もない。何百回もこのホームに立ち、何百回も同じことを考えた。

「ここから飛び込んだら死ねるのかな。」

誰かの歌に”青い空 白い雲 勇気をもって飛び出そう”なんてフレーズがあった気がする。世間にとっては恋を後押しする曲だ。僕にとってはもっともそれは死を後押しする曲だが。

ーーー結局僕は死ねずにいた。


 憂鬱な気分を余所目に会社に着いた。自慢ではないが僕はいわゆる一流企業に勤めており、同世代よりかはお金を貰っている。優しい上司なんかにも囲まれ、就職における勝ち組と言っても過言ではないだろう。端から見ればうらやましいと思う道を歩んでいるのかもしれない。なんで死のうと思うんだと言われるかもしれない。

 ただつまらないのだ。生きる目的もなく、生き甲斐ってのもない。何のために生を授かっているのか不思議でたまらない。生んでなんか頼んでないのに母が勝手に生んだのだから仕方がないのだ。とにかく今の生活をリセットしたい、そう考えてもう3年が経った。

ーーーまだ僕は死ねずにいた。


「生田 律」朝礼で名前を呼ばれ僕の一日は始まる。たいして面白くもなく、やりがいのない仕事に従事する。お昼になったら会社の人とご飯に行き、また仕事に勤しむ、そして時間になったら帰る。こんな毎日同じ行動を僕は3年も繰り返している。仕事がつまらないなら違う職に就けばいい、友人に言われたことがある。その通りだとは思う。だが結局は一歩を踏み出せないのだ。そう人は保険をかけたがる生き物なのだから。

 結局のところこんな自分を救い出してくれるのは死しかないと思っている。飛躍しすぎた考えかもしれない。自分でもそうは思うが死ぬことでしか自分は変わらないと客観的に見て判断したのだ。死は何もかも解放してくれるに違いない、そんな空想を抱きながら結局死ねずにこんなところまで来てしまった。中途半端って言葉が自分にはよく似合う。

ーーー死にたいと思いながらも死ねない自分がそこにいた。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桃源郷のその先へ kûkí @udonhakushaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る