第3話

 外に出てきた颯太たち。

 貴一は、よくもまぁ浮いた金魚と一緒に堂々と歩けるものだと、颯太を感心した目で見ていた。しかし、道行く人も、何かのおもちゃだと思って全く気にしていない。

 そもそも金魚なんかに目線を送る人がいなかった。

 赤金は、優雅に外を歩き、何者にも囚われずに、ただ黙々と宙を泳いでいた。

「反応しないね。お腹空いてないのかも」

「そうかもな」

 そもそも、さっきも餌を食べていたのかは疑問だけどな、と貴一は思ったが、面倒くさいので話を合わせた。


「何か美味しいのない? 赤金ー」

 一向に変化のない赤金に、颯太も退屈しているようだった。

「そもそも何食ってるのかわからないのに、餌なんて──お?」

 颯太と貴一がぼやいていると、急に赤金がブルッと反応して、魚特有のロケットダッシュを決めた。

「赤金!」

 颯太たちが追いかけると、赤金は道の角を曲がって進んで行った。

 その先には──


「だから、すみませんじゃ済まねぇって言ってんだろ!!」

 

 電話でぶち切れてるサラリーマンがいた。

「まずい、隠れろ貴一」

 サラリーマンはかなり怒ってるようで、道端の空き缶を蹴り飛ばして、辺りに近寄るな、という雰囲気を出していた。

「赤金……」「しっ、静かに!」

 貴一たちが警戒して息を呑んでいるのに、赤金は全く気にせず、むしろ吸い付くようにスイーーッとサラリーマンに近づいた。

「赤金!」「ダメだって」

 颯太が出ていこうとしたとこで、サラリーマンが電柱を蹴飛ばしたので、貴一は颯太を壁の影に連れ戻した。

「お前のせいでいくら損したと思ってんだよ! お前の道連れで俺をクビにするつもりか!? お前にどれだけ目をかけてやったと思ってんだよ!」

 電話越しの相手に相変わらずぶち切れてるサラリーマン。

 しかし、赤金はそんなサラリーマンの頭に近づくと、コケをついばむようにツンツンつついて、何かを食べる仕草をした。

「ちっ、今日のところはしょうがねぇ。もうへますんなよ」

 すると、さっきまで烈火の如く怒っていたサラリーマンが急に大人しくなり、そのまま電話を切って去って行った。

「赤金!」

 心配した颯太が、赤金のもとへ走る。

「危ないよ赤金、見つかったら殴られてたかもよ?」

 魚だから触ることもできない颯太は、エアーで赤金のことを撫でていた。

「なぁ、さっきより赤くなってねぇか?」

「え? あ、本当だ」

 さっきまでは、ちょっと発色がよくなった、程度だったが、今は完全にレベルが違う。

 一つの品種として認められそうなほど、鮮やかな赤い発色をしていた。

「もしかして、こいつは、人の“怒り”を食べてるのかもしれない」

「怒り?」

「ああ、さっきの近所のおばさんもそうだし、今のサラリーマンだってそうだ。人が怒ってるとこに寄っていって、ついばんでる。そして、赤金がついばんだあとは、怒ってた人の怒りが無くなってる。多分、赤金が怒りを食べたから、怒りが無くなったんだ」

「けど、そんなことってあるの?」

「宙に浮く金魚だから、それくらいあり得る」

「すごーーい、赤金は平和主義なんだね」

 また、赤金をエアーで撫でる颯太。

「でもまだ決まったわけじゃない。赤金の生体をよく知るためにも、もう一人くらい検証が必要だ」

「けんしょう? ためしてみるってこと?」

「そうだ。颯太、どっかに怒ってる人がいないか探してみよう。これも赤金のためだ」

「うん、わかったよきーちゃん」

 なんだかゲームみたいに思ったのか、颯太はワクワクしてはしゃぎだした。

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