パッシブスキル「弱そうに見える」で楽々ファンタジー生活
かれん工房
パッシブスキル「弱そうに見える」で楽々ファンタジー生活
グルル。
目の前にそびえ立つドラゴン。その口からは、涎と共に、ほんのりと火の粉が漏れている。
「ひいぃぃぃ」
ボクは、恐怖のあまり、しりもちをついて後ずさってしまう。
「なんだ、だらしないね」
さわやかを絵に描いたような青年剣士が、振り返って笑った。白い歯がきらりと光る。クリア○リーンかっ! だがその背中が今は頼もしい。
「コイツが
いかにもスポーツが得意そうな筋肉だるまが、野性味あふれる笑いを見せた。二人とも、見た目はイケメンなんだけどなぁ……。
歯磨き粉の方が、魔法剣士の「† 闘神バルドル †」、野生筋肉戦士が「クヴェーラ」という。本名では絶対なさそうだが、さっき組んだばかりの野良パーティだ。そのくらい警戒されても仕方ない。
「マコトは、後ろで見ててくれればいいから」
† 闘神バルドル †が、シールドを張りながら言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらう。壁際に隠れるようにへばりつくと、一応回復魔法の準備だけはしておいた。
「いくぞ、† 闘神バルドル †!!」
クヴェーラが、両手剣を振り上げて走り出す。ドラゴンが大きく息を吸う。
「そのままつっこめ!」
野良パーティなのに、二人の息のあい方は抜群だった。ドラゴンが吐いた炎は、クヴェーラの前の見えない壁に遮られるように、周りに散らされる。
「わわっ」
ボクは、跳んできた火の粉を避けるように、さらに後ろに下がった。
「いっぺん死んでこいや」
飛び上がったクヴェーラは、ドラゴンの腹に大剣を突き立てた。
「肩借りるぜ」
† 闘神バルドル †は相手の返事を待たずに、クヴェーラの体を踏みつけ、さらに高く飛び上がる。そして、魔法剣らしき武器であっさりとドラゴンの首を落とした。
だがドラゴンはすぐには絶命しないのか、首を落とされてなお、びくびくと動いている。
「マコトー。とどめ刺していいよ」
† 闘神バルドル †が、ボクを呼んだ。ボクはおっかなびっくりドラゴンの頭に近づくと、杖で思いっきり殴りつける。ドラゴンの動きが止まる。
「おつかれー」
「おつー」
「お疲れさま。あ、傷治すね」
ボクは、クヴェーラの肌のかすり傷を魔法で治療した。
「サンキュー。結構ひりひりするんだよな、こんなんでも」
クヴェーラは、笑顔で礼を言ってくれた。そのまま、ドラゴンの首を抱え上げる。
「さて、かえって、コイツを報酬に変えようぜ」
……ウィンクされた。正直キモいが、とびきりの笑顔でうなずいておいた。
「また縁があったときはよろしくな、マコト」
† 闘神バルドル †が言う。
「手伝ってほしいときはいつでも、声かけろや」
こっちはクヴェーラ。
街に戻って、ドラゴンの首を売ってかなりの大金を手にしたボク達は、三等分にお金を分けると、野良パーティを解散した。
「助かりましたぁ。またお願いします」
ぴょんと跳ねるように頭を下げる。
「あ、連絡先交換してもらってもいいですか?」
すかさず声をかけると、二人とも快諾してくれた。よしよし。ボクは二人の姿が見えなくなるまで、手を大きく振って、別れを惜しんだ。
……チョロいなぁ。何にもしてないのに、クエストはクリア出来るし、お金も手にはいるし。この世界での容姿は本当に役に立つ。
二人と別れると、ボクは装備品を売っている店に向かった。
「こんにちはー。ナニか珍しいもの入ってますー?」
「なんだマコトか。相変わらず、性能より見た目なんだろ?」
顔見知りの店主は、すぐにボクの言いたいことを察してくれた。
「それもできる限りレアなヤツね。お金なら腐るほどあるし」
「相変わらず阿漕な稼ぎ方してるのかよ」
「別に、ボクは何もしてないよ」
肩をすくめた。
「文字通り、何もしてないけどな。ケケケ」
店主は下品に笑うと、
「ちょっと待ってろ」
と、言って店の奥へ消えた。適当に店内の装備品を眺めて待つ。見るからに強そうな、魔法がかかっている武器や防具が所狭しと並べてあった。
「コイツ、レア装備のついでに処分してくれと、もらったんだけどな。お前が好きそうだと思って、とっておいてやったぜ」
店主は、布でできた防具? をカウンターに広げて見せた。なんというか……、羽の生えたハイレグレオタード? 的な。
「……いいデザインだね。でもちょっと布が少なすぎないかい?」
「防御力はほぼないだろうな。魔法も特にかかってないし。ただ、かなり遠くの妖精の国の王女の服なんだと。お前さんくらい小さければサイズがぴったりだろ」
「うーん。ボクの路線とはちょっと違うんだが……。でも王女の服かぁ……。悪くないな……」
手を出そうとすると、店主に思いっきりはたかれた。
「防御力ないって言っただろ。繊細な布で出来てるんだから、触ったら買い取りだぜ」
「はー、わかったよ。いくらだ?」
店主は法外な値段を告げた。最高級の魔法のかかったフルアーマーが買えそうな値段だ。
「ぼったくり過ぎじゃない?」
「なら、二束三文でその辺の子にくれてやるがいいのかい?」
「またまた足下見てー。わかった。買おう」
「まいど」
店主は、小瓶に入った粉を、服に振りかけた。きらきらと、服が輝く。
「これで多少雑に扱っても、大丈夫だぜ。この魔法の粉はおまけにつけておくわ」
全く抜け目がない。だからこの店は信用できる。
「ここで着替えていくかい?」
「あんたに見せてやる義理はないだろ?」
ボクはにっこりと笑って、商品を受け取ると、店をあとにした。
さて、今日はこんなもんにしとこうかな。一人で使っているギルドハウスに戻ると、買ったばかりの装備を、丁寧に魔法の棚にしまった。
「誠!、さっさと夕御飯食べなさい!」
階下から、怒鳴り声が聞こえてきた。
「うっせーな、
ボクは、ゲームからログオフすると、PCの電源を切り、部屋を出てリビングに向かった。夜中はさっきの装備を使ってもう一稼ぎしようと考えながら……。
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