第27話 第一回 釣り大会開始!
舞台上の出場者たちに、会場から口々に声援が飛ぶ。
今回ゴブリンとコボルトをコンビにしたのには理由がある。
その一番の理由が『池の主』の存在だ。
実は俺たちが村を作る拠点としたこの池だが、村の建設を始めてからわかったことがある。
それはこの池には、主と呼ばれる巨大魚が住んでいるというのだ。
実は俺も村作りを手伝っている間に一度だけ見かけたことがある。
ゴブリンの一人が池の水を汲んでいた最中だった。
突然水の中から巨大な化け物魚が飛び出してきたのだ。
慌てた俺がそのゴブリンをひっつかんで、共に池から離れるように飛び退ると、巨大魚はそのまま池の中に消えた。
大きさは俺の背丈の数倍はあったと思う。
それほど大きくはないこの池に住んでいるにしてはあまりに巨大ではあるが、なんせここは魔族や魔物がうごめく元魔王領である。
他の地ではありえないような生き物がいてもおかしくはない。
「あんなのがかかったらゴブたちじゃひとたまりもないゴブよ」
釣り大会の話をしたとき、ゴブローが体を震わせながらそう口にした。
たしかに力の弱いゴブリンたちでは、あの主がかかったとしても、逆に池に引きずり込まれてしまうだろう。
なので俺は、エルモに「ルギーが珍しく頭を使ってる」と言われるくらい考えた結果。
「ゴブリンとコボルトのコンビで出場して貰おう」
ということになったのである。
エルモの計算で、コボルトの力ならあの化け物魚に負けることはないと告げると、ゴブローをはじめとしたゴブリンたちは一様にほっとした表情を浮かべた。
一方コボルトの方だが、彼らは彼らで肉球付きの手のひら……というか前足では餌を付けたり、竿を扱ったりするのは大変だということで、こちらも俺の提案に喜びの声を上げていた。
「それじゃあ大会開始前にそれぞれ僕の作ったこの『一蓮托生バンド』を付けて貰うから並んで」
相変わらず酷いネーミングセンスだが、それを言うとまたふくれられてしまう。
なのでレートにも「絶対に名前にツッコミを入れるんじゃないぞ」と口酸っぱく言い聞かせておいてある。
「それではわたくしレートとエルモが『一蓮托生バンド』を装着している間にルキシオス村長からルール説明がありますので聞いてくださいね」
「頑張ってねルギー」
ルールと言っても簡単だ。
竿や餌など、道具類は全てこちらで用意した。
主を釣るためにはなるべく頑丈な竿と糸と針が必要になってくるからだ。
それほどの強度を誇るものをゴブリンたちでは作れない。
「制限時間は日の光が森に隠れるまで。もしくは主を誰かが釣り上げたら終わりだ」
俺は天を指さして告げる。
「もし主がつれなかった場合は、その時点で釣った魚で一番大きなものを持って来て貰って競って貰う」
この池の中には、そんな化け物魚がいるにもかかわらず、普通の魚も結構豊富である。
エルモが言うには、まだ憶測だが主は普通の魚は餌にしていないのではないかということだった。
じゃあ何を餌にしているのか。
ゴブリンが喰われかけた所を見ると、池に近寄ってくる動物や魔物を餌にしているのではないか。
そう口にしたエルモだったが、珍しく自信なさげだった。
「優勝者とその家族には、一ヶ月間俺たちの家でレートの作るご飯が食べられる権利を授ける!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!
会場中に、今日一番に近い雄叫びにも似た歓声がとどろく。
開拓作業の間、ずっと料理をしていたレート。
だが彼女自身は前世の記憶を頼りに料理をしていただけで、お嬢様育ちでこちらの世界の調味料などには慣れていなかった。
なので最初の頃は普通に美味い程度だったのだが、徐々にこちらの世界の香辛料になれてくると、一気に腕前が上がっていったのである。
最終的にはエルモ曰く「王都の少し高めの料理店で食べた料理より遙かに美味しいよこれ!」と言うくらいまでレベルアップしたのだ。
レートのスキルは土いじりのはずだが、もしかして本当は料理スキル持ちなのではなかろうか。
後から発現する場合もあると聞くし、今度もう一度調べ直すべきだろうとエルモと二人で話している昨今。
会場の声が収まるのを待って俺は更に説明を続ける。
「あとこの釣り大会は定期的に行うつもりだから……」
俺はそう言いながら舞台の横に向けて歩き出す。
その先には俺の身長ほどもある平たい岩が突き刺されていて。
「この石版に歴代の優勝者の名前を記していくつもりだ。ずっと優勝したってことが残るんだぜ。すげーだろ」
おぉぉぉぉぉ。
今度は少し微妙な感じの歓声が上がる。
こっちはレートの料理よりみんな興味が無いようで少し寂しい。
ずっとこの村がここに存在する限り讃えられ続けるというのに、こいつらはそれがわかっていないようだ。
「ルギー終わったよ」
「こちらも準備は終わりましたわ」
少し憮然としていると、後ろから二人のそんな声が聞こえた。
俺は軽い足取りで舞台中央に戻ると、その左右にエルモとレートが並ぶ。
そして後ろには二人一組で『一蓮托生バンド』によって繋がれた参加者が緊張した面持ちで立っている。
俺はそんな彼ら、彼女らの様子を見てから前に向き直り、左右の二人を手をつなぎ――
「それじゃあ、第一回 釣り大会ぃ! スタートだぁっ!!」
大きく両手を挙げると同時に俺たち三人はそう叫んだのだった。
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