第28話 釣り大会の湖畔デート
「かかったゴブ!!」
「任せるだワン!!」
池の各所から時々そんなコンビの声が聞こえる。
この池はエルモのサーチ魔法で調べたところ、かなり魚が生息していることがわかっている。
通常の池でこれだけ魚が住んでいるところはそんなにないのでないかとレートもエルモも不思議がっていた。
あと、この池は直径が長い方で五十メルほど、短い部分で三十メルほどの楕円形に近い形なのだが、実は水深はかなり深い。
エルモによれば百メルはあるのだそうで、この池が一体どうやって出来たのか興味があるから、村の開拓が一段落した段階で時間を見つけて調べたいらしい。
ただ、賢者のダンジョンで得た知識に寄れば世界中には同じように縦に深い池や湖というのは珍しいものではないらしい。
自然とは俺たちが思う以上にとんでもないものなのだ。
実はそれ以外にももう一つ不思議なことがある。
例の池の主だが、エルモのサーチ魔法ではその魚影が一切見つからなかった。
湖底と思われる範囲までサーチしたのにもかかわらずだ。
「あんなでかいのが見つからないなんて事があるのか?
「でもサーチ魔法に引っかからないのは事実なんだよ……不思議だなぁ」
一応今もエルモは水深五十メルまで全域にサーチ魔法を張り巡らせている。
これは突然主が現れて、ゴブリンたちが襲われるのを防ぐためでもあるのだが、今のところその姿はまだ現れてはいない。
ただもし、あの主がエルモのサーチを掻い潜る力があるのだとしたら、サーチ魔法も意味をなさないが。
「そのために俺もこうやって巡回してるわけだが」
「ご苦労様。お茶飲む?」
今俺は、池の周りをエルモと二人巡りながら参加者の釣果をチェック。
そしてその内容を通信魔法を使ってレートに常に送信している。
「おおっと。ここでナンバー7のゴブ三郎さん、コボ次郎さんコンビが大物を釣り上げたようですわぁ!」
対岸からレートのそんな声が聞こえる。
俺たちが巡回している間、レートが舞台に簡易的に作り上げた実況席にて、俺たちが送る情報を元に現状を広場に集まった民衆に伝える役目をになって貰っている。
その話を切り出した時、最初は渋られるだろうなと思っていたのだが。
「レートさん、ノリノリだねぇ」
「ああ、前世からああいうのを密かにやってみたかったって言ってたしな」
「たしかにお嬢様生活じゃあんな大声を張り上げて実況するなんて出来ないもんね」
それでも結構な長丁場だ。
ずっとレートだけに任せておく訳にもいくまい。
「池を一周したら今度はエルモがやるんだろ? できるのか?」
「うーん。さすがに僕にはあそこまでは無理かなぁ」
顎に指を当てて応えるエルモ。
まぁ、こいつが大声を張り上げて周りを盛り上げる姿なんてあまり想像できない。
村長挨拶の時にやったことくらいが関の山だろう。
「俺がやれれば良いんだけどな」
「ルギーはいつでも動けるように池をチェックしておいて貰わないといけないからね」
「別に主が出てきたらお前が動いても良いんだぞ」
俺の言葉にエルモが首を傾げながら答える。
「うーん、サーチ魔法に引っかからなかったのがちょっと気になるんだよね」
「もしかして主に魔法が効かないかもって思ってるのか?」
「効かないことはないんじゃないかな。ドラゴンにも効くやつならさすがに倒せると思うし」
賢者のダンジョン下層にはドラゴンが数体彷徨いていたフロアがあった。
初めてたどり着いたときは瞬殺されたっけ。
そんなことを思い出す。
だが、数度目の挑戦でそのフロアも無事突破する事が出来たのだが……その先はもっと地獄だった。
思い出すだけで身震いしそうなので、俺は思い出す作業を打ち切って話を続ける。
「じゃあ何が心配なんだよ」
「変に強い魔法が必要になったらさ、魔法だと村に被害をだしちゃうかもしれないから」
「結界を張っとけば良いんじゃないか?」
俺が勇者と決闘したときに使って貰った奴だ。
あれならかなり強い攻撃魔法でも防げるはずで。
「今村に外敵を入れないようにしてる結界と、池のチェックに必要なサーチ魔法と同時に使ってるからね。その上結界張っての戦闘ともなるとちょっと手加減とか難しいんだよね」
「なるほどな。んじゃ、やっぱり俺が捕まえるしかないか」
俺は魚を捕まえるために新調した手袋をはめた手をにぎにぎしながら答える。
この手袋は、見た目普通のゴム手袋に見えるが、ヌルヌルの魚ですら滑らず捕まえられるように補助魔法が掛かっている。
漁師町にでも売り込めばかなりの儲けが期待できる代物だ。
「っと、そんなこと言ってる内にもう着いちまったな」
「ルギーとのデートも終わりだね」
「な、何言ってんだお前。ただ池の周りをぐるっと歩いてきただけだぞ」
突然エルモがそんなことを口にしたせいで俺は思わずきょどってしまう。
確かに世の中のカップルは綺麗な池の周りを歩くだけのデートもするとは聞いている。
だが、ここはそんな雰囲気など全くない魔の森の中だ。
村として開拓したと言っても、少し周りを見れば薄暗く、謎の生き物の鳴き声が響きわたるような場所である。
エルモの結界魔法がなければ普通の人なら安心して眠る事も出来ないそんな所なのだ。
「僕にはそれでも良いんだよ。だって、最近はずっとレートと三人でいたから、二人っきりになれなかったし」
「賢者のダンジョンで何十年も何百年も二人っきりだったろうが」
「それとこれとは違うんだよ。わかんないかなぁ」
そう言ってずいっと俺に近寄るエルモ。
俺はそんな彼女の行動に押され気味で。
後ろにレートがやって来ていたことにも気がつかなかった。
「お二人さーん。そろそろ交代の時間ですよー」
「うわっ、びっくりした」
「むうっ、レートも少しは空気読んでほしいな」
驚く俺とほっぺを膨らませて何やらご立腹のエルモ。
そんなエルモに拡声魔法の掛かった拡声器を差し出しながら「次は私の番ですよね」とにっこりとレートが告げる。
「おう、そうだな。それじゃあエルモ、後は任せた」
「一周だけだからね」
「えーっ、そんなのずるくないですか? エルモさんは三周もルキシオスと回ってらっしゃったのに」
「ずるくないです。そもそもレートは主が出てきても何も出来ない足手まといなのに一緒に行く意味はあるのかな? かな?」
「意味は……ないかもですけど、そういう約束で実況を引き受けたんですからっ」
俺は騒がしい二人からそっと離れると、池の側に歩み寄る。
あの二人、いつもは仲よさげなのに時々変に喧嘩するんだよなぁ。
でもすぐに仲直りしてたりするから女はわからん。
俺はそんなことを考えながら池に目を向ける。
その時だった。
「ルギーッ! 来たよ!!」
レートと揉めていたエルモが突然大きな声を上げたのである。
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