第23話 村づくりの始まり
目覚めて、昨日と同じように皆で飯を食い終わった頃。
俺とエルモはゴブリンとコボルトの代表者を集め、これからの予定を話し合った。
ゴブリンからはゴブローとその幼なじみのゴブ子。
コボルトからはコボちゃんと、コボ吉という雄のコボルトが参加している。
「君達にはこれからこの池を中心に村を作ってもらいたいんだ」
「村ゴブか?」
「我らの住処は我らで作れということワン?」
不思議な顔で首を傾げる二種族に俺……というより主にエルモが計画した村の設計図を見せる。
それによると、池を中心として一辺五百メルほどの四角い村を作ることになっている。
かなりの森の木々を切り倒すことになるが、どうせ村の家屋を建てるために必要となる。
半分ほどは俺が一人で根っこから引っこ抜く予定だ。
残りの半分はゴブリンとコボルトたちの中から力の強い者を集って行って貰う。
「大工仕事が出来る者や工作が出来る者は、各種建物を作って貰いたいんだ」
「それならゴブたちに任せてほしいゴブ」
ゴブリンたちは体は小柄なので力は無いが、結構細かい作業が得意な種族らしく、建築に詳しい者も多いのだとか。
逆にコボルトたちは力は人より強いものの、細かい作業は苦手なのだそうで。
「それじゃあ役割分担はこうしようか。森の木を切り倒して資材にするのはコボルトたちにおねがいして」
エルモがそれぞれの代表者たちから話を聞き取りつつ役割を与えていく。
賢者の知恵を手に入れたエルモにとって、一つの村を作り上げることなど造作も無いことだ。
それに比べて俺は、今のところ力仕事しか出来ない。
「それも役割分担だよ」
そう言って笑うエルモの笑顔は眩しかった。
◆ ◆ ◆
「行きますわよ」
俺が木を伐採した後、ゴブリンとコボルトが協力して残った木の根や石などを片付け終えた場所。
その中心に一人、金髪縦ロールに農作業服というアンバランスこの上ない格好の少女、レートが両手を広げ立っていた。
「おう、お願いするぜ」
少し離れた場所で俺は他の奴らとともに彼女が『土いじり』を発動する所を見学していた。
俺の返答に彼女は小さく頷くと、その広げた手を胸の前で一度合掌させた後、ゆっくりと地面に手をつく。
「えいっ!!」
そして、そんな可愛らしい掛け声が彼女の口から発せられたかと思うと。
「おおっ」
「姉さん凄いゴブ」
レートを中心として、ただの荒れ地状態になっていた土地が、どんどんきれいに整えられていくではないか。
そうして、しばらくの間地面が勝手に畑へと作り変えられていった後、レートがゆっくりと地面から手を離し立ち上がる
「これでよろしいでしょうか? 一応頂いている計画書の通り数種類の畑に分けておきましたけれど」
「ああ、上等だ。いやしかし凄いスキルじゃないか」
「そう言っていただけると嬉しいですわ。貴族の家では使いみちのないハズレスキルだと散々言われて、もうずっと使っていませんでしたので」
「これがハズレだって? いったいお貴族様ってのは他にどんな凄いスキルを持ってるんだよ」
俺は呆れたような声を上げながら畑の中を
俺と一緒に見学していたゴブリンたちが、準備して置いた苗や種を蒔くために畑の中へ散っていくのが見える。
「人の嘘がわかるとか、美術品の価値が鑑定出来るとか、そういったものがアタリだと言われてましたわね」
「ふーん。そんなもんじゃ腹は膨れねぇってのにな」
今俺たちに必要なのはそんな貴族様御用達のスキルじゃない。
必要なのはこれからこの森を開拓して、ゴブリンやコボルトと暮らしていくための場所と食料だ。
特に食料は生き物にとって一番重要だと俺は思っている。
大体生き物ってのは衣食住のうち、食い物さえ不自由してなければ生きていける。
衣と住は最悪無くてもなんとかなるもんだ。
「とにかくレートがいてくれて助かったぜ」
「私こそ。今まで色々助けていただくだけで何の恩返しもできてませんでしたし。これでやっと肩の荷が下りた気がしますわ」
「いやいや。美味い飯作ってくれたじゃねーか」
俺の言葉にレートは「あっ」と声を上げる。
「どうした?」
「いえ、そろそろお昼ご飯の準備を始めないといけないと思いだしまして」
「もうそんな時間か。じゃあテントの所まで俺が連れてってやるよ」
そう言いながら俺はひょいっとレートの体を両手で持ち上げる。
「きゃっ」
断りもなく突然持ち上げたせいか、レートの口から小さな悲鳴が漏れた。
「ああ、すまねぇ。驚かしちまったな」
「い、いえ……」
何故か口元に手を当て俺から顔を背けるレート。
悲鳴を上げてしまったことが恥ずかしいのか、その顔は少し赤らんで見える。
「とりあえずテントにもどるぜ」
「は、はい。お願いします」
今俺たちがいるこの畑はテントから池を挟んで対岸側にある。
なので、普通にテントまで戻ろうとすれば大きく池を迂回していかなければならない。
それほど大きくない池とはいえ、それはそれで面倒だ。
「じゃあしっかり捕まってろよ」
俺は腕の中のレートにそう告げると、少し膝を曲げてから一気に池を越えるため飛び上がる。
「きゃあああああっ」
予想外だったのか、腕の中でレートが叫び声を上げて俺の腕にしがみつく力を強めた。
「っと」
なるべく衝撃がレートに伝わらないように柔らかく膝をクッションにするように対岸に降り立つ。
するとテントの方からエルモが駆け足でやってくるのが見えた。
たぶんレートの悲鳴を聞きつけてきたのだろう。
「ルギー。なにしてんのさ」
何故だろう。
エルモが俺を見る目がおかしい。
これはあれだ。いわゆるジト目というやつだ。
「なにって、畑が出来上がったから次は料理だってレートが言うもんで連れてきただけだが」
「ふーん。それでお姫様抱っこして池を飛び越えてきたって訳だね」
「そうだけど? エルモ、お前なに怒ってるんだ?」
そう。
エルモの目やその言葉の端々に感じるのは怒気だ。
俺の知る限りエルモが怒ることはめったに無い。
あのクソ勇者相手でさえ彼女はあまり怒ってはいなかった。
「べ、別に怒ってなんか無いよ」
「いや、怒ってるだろ」
「怒ってないってば!! それよりも早くレートを降ろしてあげなよ!!」
そういえば俺はまだレートを抱き上げたままだったことを思い出し、ゆっくりとその体を地面に下ろし――
「きゃっ」
「あっ」
足下をふらつかせたレートが倒れ込んでくきたのを抱き留める。
「なっ……ルギーなにしてんのさっ」
「なにって。こいつが転けそうになったから支えただけだぞ。だからなにを怒ってるんだよ」
「お、怒ってなんかないってば……ただ、僕でさえ一度もお姫様抱っこなんてされたこと……」
「は?」
途中でそっぽを向いたエルモのそんな言葉は殆ど聞き取れない。
俺は意味もわからず、頭を掻くしか出来なかったのだった。
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