第24話 sideキュレナ あの人を探して

「チクショウ!!」


 ガシャーン!!


 部屋の中から悔しそうな声と、何かを壊す音が聞こえる。


 ルギーとの決闘に負けてから既に一ヶ月。

 王都に帰還した勇者一行のうち、大剣使いゴルゴスは聖騎士団に戻り、日々訓練に明け暮れている。

 魔法使いのエルシーは、エルモに手も足も出なかったことが相当ショックだったのか、彼女を上回る魔法を手に入れるため、自らの研究室に籠もりっきり。

 補助魔法使いのロギエは国王からの報酬を受け取ると、そのままふらりとどこかに行ってしまった。


 そして勇者タイガは時折あの日を思い出し癇癪を起すようになっていた。


「今度会ったらぶっ殺してやる」


 私は部屋の外でタイガが落ち着くのを待ってから中に入った。


「タイガ」

「ああ、キュレナか。あいつは見つかったか?」


 あの日以来、タイガはルギーのことを探し続けていた。

 なんとしてでももう一度闘って、ルギーを叩き伏せてやると息巻いて。


 確かにあの日かれはルギーに負けた。

 だけどそれは彼が本気を出していなかったから。


 私もタイガも、そして勇者パーティの仲間たちもみなそう思っている。

 たしかに聖鎧を着ていたが、タイガの本来の力は聖剣と召喚の時に彼が身につけたというスキルが揃った時に発揮される。

 あの日の決闘ではそのどちらもタイガは使わなかった。

 使う暇がなかったとも言えるけれど、それはルギーがあそこまで強くなっていると知らなかったせいだ。


「あの決闘の後、町の宿屋で騒ぎを起して、廃棄された砦に巣くっていた賊を壊滅させたまでは伝えたわね」

「そこまでは聞いている。ということは何か続報でもあるのか?」


 タイガは身を乗り出して話の続きを急かす。

 だが、私はそんな彼の期待には殆ど添えそうにない。


「賊を退治した後、そこで手に入れたお金と財宝を持って、ルギーたちは何カ所かの町と村で買い物をしているわ。それもかなりの量を」

「あいつら収納魔法でも使えるのか?」

「ルギーは無理でしょうけど、エルモなら……エルシーの魔法すら上回る力を持っていた彼女なら可能でしょうね」

「しかしやっぱり信じられないな。王国最強の魔法使いを超える力を、あんな奴が持ってるなんて」


 それには私も同意だ。

 二年前、あの村で再会した時のエルモにはそんな力はなかった。

 パーティの皆の話を聞いても、簡単な治癒魔法が使えるだけだったはずで。

 聖女の力を持つ私に比べればその力は微々たるものでしかなかった。


 いったい私のいない二年間でエルモに何があったのだろう。

 いや、エルモだけではなくあのルギーにもだ。

 たった二年。

 その間に一生懸命修行をしたとしても、あれほどの力が手に入るわけはない。


「それで、大量の買い出しをした後の足取りは?」

「王都から追放されたマクダーナ家の令嬢が同行しているという情報以外はぷっつりと足取りがつかめなくなったらしいの」

「どうしてその令嬢が一緒にいるんだ?」

「その彼女。王都で問題を起して追放されて、辺境へ送られる途中に賊に捕まって例の砦にいたらしいのよ」


 そしてルギーたちに助けられた。

 だけど何故彼女がルギーたちと行動を共にしているのかはわからない。


「ごめんなさい。私があんなことを頼んだばっかりに」

「まったくだ。お前があんなことを頼まなければ無駄に恥をかくこともなかったんだからな」


 タイガはそう言うと、椅子から立ち上がって窓の方へ歩いて行く。

 ここは王城の中にある貴賓室。

 窓からは城下町が一望できる様になっている。


「この国の平和を守ったのは俺だというのに。たった一度村人との決闘に負けたというだけで馬鹿にしやがって」


 村での決闘。

 その結果については、見学していた村人や騎士たち、凱旋パレードについてきた者たち全てに箝口令が敷かれていた。

 どこからも漏れるはずはない。

 そのはずだったのだが、やはり人の口には戸は立てられない。


 このひと月の間にどこからか話は漏れ、そして広がっていった。

 結果、口さがない人々の中には「勇者タイガが魔王を撃つ事が出来たのは、他国の勇者のおかげだ」と口にする者も出てくる始末。

 更に非道い場合は「村人などに負けた勇者タイガ一行は、本当は魔王領になど攻め入ってすらいないのではないか」とも。


 馬鹿馬鹿しい話である。

 別に魔王領に攻め入ったのはタイガたち勇者パーティだけではない。

 王国の精鋭兵たちも共に向かい、すくなからずの被害も出した。


 確かに協力関係にあった他国の勇者や兵士たちの活躍も魔王軍を打ち破る事が出来た要因の一つではある。

 だが、最後に魔王と直接戦い、倒したのは間違いなく私たち『勇者タイガ一行』なのだ。


「数ヶ月後には姫との結婚式だってのに、このまま汚名を返上できなかったら笑いものになっちまう」


 だからこそタイガはもう一度ルギーと今度こそ本気で闘い、倒したいとずっと彼の行方を探している。

 私としても、タイガがルギーを倒してくれるのは願ったり叶ったりだ。

 なので王国の情報網をフルに活用してルギーたちの行方を追ってはいるのだけど。


「一体どこに隠れてやがるんだ。あのクソやろうは……」


 タイガは町を見下ろしながらそう吐き捨てると、給仕が用意して置いてくれたのだろう水差しの水をコップに注ぎ込んで一気に飲み下す。


 最後に三人の姿が確認された場所。

 それは私たち勇者パーティーが魔王領に攻め込む直前に寄った町でもある。

 なので、土地勘もあるし、聖女である私のことを町の人々も皆知っているはずだ。

 一度出向いて町の人々から話を聞いてみるのも手かもしれない。


「エルモ……今、あなたはどこで何をしているのかしら……」

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