第13話 転生悪役令嬢救出

「いやぁ、大漁大漁」

「思ったより現金だけじゃなく、すぐに換金できそうな宝石とかも沢山あってよかったよ」

「だな」


 俺たちはあのゴロツキたちの言っていた組織の本部を急襲し、四天王の一人とか名乗った奴らと勇者より弱い体がデカいだけのボスをぶっ飛ばしてお宝をたんまり収納ポーチに入れて出て来たところだ。

 組織の本部とやらは、昔の戦争で作られた砦を改修したもので、中には五十人ほどの荒くれ者たちがたむろしていた。


 だが勇者をも倒した俺たちの前では少し他人より強い程度の奴らなど相手になるわけがない。

 あっという間に制圧を終えると組織のボスの部屋を聞き出し向かってボコってやった。

 そして砦の地下に保管されていた、奴らが集めたお宝のうち、足が着かなさそうなものを収納ポーチに放り込んで帰ろうとしたのだが。


「お前、どうして他の奴らと一緒に逃げなかったんだよ?」

「私にはもう帰る場所はありませんの」


 俺とエルモの後ろを今、一生懸命付いてきている一人の女に俺は声を掛ける。

 金髪碧眼で、エルモより少し背が高く、エルモよりかなり出るところは出ている美少女は寂しそうにそう呟く。

 顔の左右で揺れる縦ロールが特徴的なその少女の名はレートと名乗った。


「貴族のお嬢様なんだろ?」

「元貴族ですわ。私、家から追放されましたの」


 お宝の山があった宝物庫。

 そこから意気揚々と帰ろうとしていた俺たちの耳に、更にその地下から何人もの助けを呼ぶ声が聞こえたのだ。

 そのまま無視するのも寝覚めが悪いと思った俺たちが奥にある階段を下りると、そこには砦が機能していた時には捕虜や犯罪者を放り込んでいたと思われる地下牢がズラリと並んでいた。

 そしてその牢の中には十人ほどの男女が囚われていたのである。


「それでも他の奴らと一緒に行けば良かったんじゃねぇの? どこかに行く予定だったんだろ?」


 牢の中に囚われていたのは、組織が人身売買のために捕まえてきた人たちだった。

 旅の途中や、俺たちのように町で襲われて連れ去られた者もいたようだが、一々全員の話を聞く気は無かった。

 なので、その中に居た馬車の御者が出来るという男に全員を近くの町まで連れて行って警備隊にここのことを伝えてきてくれと頼んだのだ。

 だが、レートは一人その馬車に乗ることを拒否して俺たちについてきた。


「わたくしは王都の貴族家を放逐され、辺境の村の教会に送られる途中だったんです」

「放逐って、いったいどんなことをしたのさ」

「別に何もしていませんわ」

「じゃあどうして?」


 エルモの問いかけに、一瞬答えるのを躊躇したレートだったが、意を決したように顔を上げるとその言葉を口にした。


「断罪イベントのせいですわ」

「断罪イベント……ってなんだそりゃ」


 正直に言えば、それから彼女が語った話は俺にとってはさっぱり意味がわからないことだった。

 なので途中で歩きながら眠ってしまいそうになる。

 なんせ昨日、宿を逃げるように出たせいで一睡もしていないのだから仕方が無い。

 だが、どうやらエルモはレートの語る内容に何やら心当たりがあるらしく、俺と違ってかなり興味深げに彼女の話を聞いていた。


「あれは学園の卒業パーティの会場でしたわ。突然わたくしの婚約者が取り巻きを連れてやって来て、わたくしに向かって『君との婚約は破棄だ!』と会場中に響き渡るような声でおっしゃいましたの」

「ふむふむ」

「その瞬間ですわ。わたくしの頭の中に突然前世の記憶がよみがえりましたの」


 突拍子もない話である。

 レート曰く、彼女はそれまで王都でも名のある貴族の令嬢として生まれ何不自由ない暮らしを送ってきたらしい。

 その婚約者というのも実はこの国の第二王子だったのだそうで、彼女の家の格はかなり高い事がわかる。


 だが、その日突然彼女はその第二王子に婚約破棄を告げられた。

 しかもよりにもよって終わればそのまま結婚の準備に入ろうかという卒業パーティの会場で、である。


 そしてそこから始まったのが彼女の言う『断罪イベント』というものだ。

 第二王子とその取り巻きの男たち。

 それぞれかなり身分の高い家の子息たちらしいのだが詳しい話は面倒くさそうなので聞き流した。


 その男たちが一人の庶民出の少女を背に守るようにしてやって来てレートを攻め始めたらしい。

 レートがその少女に対して数々の悪質な嫌がらせをしていたということを、証拠を突きつけながら彼女の罪を断罪した。

 しかしその間もずっとレートの中にあったのは『これって前世でわたくしが遊んでた乙女ゲーのシーンそのまんまですわ』という戸惑いだけであった。


「乙女ゲーって何だ?」

「後で教えてあげるからルギーはちょっと黙っててよ。それでレートは婚約破棄されて家からも放逐されたんだね?」

「そうですわ。そして、王都から辺境の村へ向かう途中に野盗に襲われて……気がつけばあの檻の中でしたの」


 エルモに邪険にされた俺は少しいじけながら収納ポーチから取り出した干し肉をかじることにした。

 そういえば寝ていない上にほとんど碌な飯も食っていない。

 どこか近くの村か町で飯食いたいな。


「――じゃあ前世の記憶についてこれから一緒に旅していく間、色々教えてくれるかい?」

「ええ、喜んで」


 干し肉をかじりながらこれから行く町の名物は何だろうかと考えていた俺にエルモが後ろから肩を叩く。


「そういうわけだからルギー。これからはレートも一緒に魔族領目指して行くことになったから」

「よろしくおねがいいたしますわ」

「は?」


 突然そんなことを言われて俺は咥えていた干し肉を地面に落としてしまう。

 もったいない。

 後で拾って洗えば食えるかな?


「いや、ちょっとまて。なんでこいつも一緒に来るの? というか魔族領ってどういう事だよ」


 俺は地面に落ちた干し肉を一応拾って砂を払ってから収納ポーチに仕舞い込むと、エルモとレートを振り返り、そう尋ねたのだった。


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