第28話:富士樹海ダンジョン①

翌日、2人で早朝から樹海へと足を踏み入れた。鬱蒼とした樹海の中は、同じような風景が続き、方向感覚を失わせる上に、マップがダンジョン使用に上書きされ、ダンジョンマップというアイテムを拾わないと使えないようになっている。おまけに、機能に備え付けの方位磁石は回転を続け、正確な方向を指し示さなくなっている。自然の迷宮が展開されたそのフィールドには毒々しいキノコや怪しげなキノコ、コケ類、シダ植物などが生い茂り、良質な素材の宝庫ともいえるが、猛毒な種類も含まれるなど、トラップとしての役目も果たしている。

「先輩、これって本当に現実より楽ですかね?」

「いや、現実はGPSとか使えるからこれより圧倒的に楽だと思う。体力面ではこっちの方が有利だけど」

植物をかき分けながらコケで滑りそうになる地面を慎重に踏んで進む。

「なんか同じところをぐるぐる回ってる気がする」

「そうですか?今のところ自分たちの足跡を見つけてないのでそんなはずはないと思いますけど……」

「宿場町のNPCに聞いた話だと1分ごとに地形情報がリセットされるらしくて傷つけた場所とか壊したものとかが元通りになるんだって」

そのセリフを聞いた香音の顔から残り僅かな元気が抜けたのを感じた。

「最悪出られなくなるじゃないですか!それどうするんですか!帰れるんですか!?遭難するじゃないですか!自殺の名所って言うだけありますね!!」

香音が俺の肩を拳で叩きながら一息でまくし立てる。

「いやごめん、救済措置はあるから許して」

「じゃあお詫びに現実で最近できたカフェの特盛インスタ映えイチゴパフェおごってくださいね」

仕方なく了承すると香音の機嫌が戻った。

「あのパフェ高いし食べきれないから丁度よかったです」

「まっていくら位するのそれ?」

「1000円です」

うちはお小遣い制じゃないからきついとは言えなかった。

ほのぼのしたトークを繰り広げていると、甘い香りがしてくる。匂いの発生源を探っていると、正面の茂みの奥で大きな音がする。

「なんだ?」

音に釣られて茂みをかき分けて進むと巨大なハエトリグサが生えていた。その口に当たる部分には、体長1メートル程度のイノシシが咥えられている。

「ひっ、こんなのがいるなんて聞いてないですよ」

香音が恐怖で固まる。

「なんだこれ……高さだけで5メートルはあるのか……?」

通常の食物連鎖をも逆転させるほどのハエトリグサに俺も足が震える。無理矢理これはゲームだと必死に考えることで恐怖を薄れさせる。しかし、恐怖に打ち勝つよりも早くハエトリグサが行動する。地面から大量の根を生やし、叩きつけて攻撃するようだ。一瞬でどうにか判断を下し、全身に【エンチャント・風】を纏い、香音をダメージが少なそうな茂みに突き飛ばして回避させる。当然、自分は防御や回避の行動がとれるはずもなく、無数の根に直撃する。

「くそ!香音、どうにかして1分時間を稼ぐからその間に頑張って持ち直してくれ!」

とは言ったものの体力が一撃で7割持って行かれてる。何を喰らっても次でお終いだ。

「【エンチャント・火】」

草には炎。言わずと知れた某ゲームの基本。それが通用すると踏んで刀のみにエンチャントを施す。鞘から抜いた瞬間、体に纏っていた解除忘れの【エンチャント・風】と反応し爆炎が生まれる。魔力が異常な速度で減っていく。魔法の属性を混ぜていろいろな攻撃ができるという事を身をもって理解できたが、実用レベルまで持っていけてない。ギルマスとアインが使っていた重力魔法がどれほど強大なものなのかを理解したが、それについて深く思案している時間はない。とりあえずは目の前のハエトリグサに意識を集中させることにした。

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