第25話:不穏な噂
ダンジョン帰りに街を歩いていると周囲からいくつも共通の話題が聞こえてくることに気づく。
「最近街の外でPVP(プレイヤーVSプレイヤー)が起こってるらしいぜ」
「あ?またバグの一つか?テストプレイヤー1000人くらいいるだろ?」
「それが街の外でのプレイヤー同士のダメージ判定は仕様らしいんだよな」
「そうなのか」
「しかもプレイヤー同士で戦って負けるとペナルティで所持金取られるらしいぞ」
「やばいな。俺も気を付けねえとな」
他からも同じような話が聞こえてくる。換金屋に入ると店主が話しかけてくる。話題はやはり噂の事だ。
「いやー他のお客さんから良く聞くんですよ。なんでも盗賊みたいなのが何人も居るらしくてですねぇ」
「何人も居るんですか?」
「噂では4、5人は居るらしいですねぇ」
「そうですか、ありがとうございます」
代金を受け取って店を出る。
「先輩、なんか大変なことになってますね」
「そうだね。まあレベル的に負けることはあまりないだろうけど」
「慢心してると大変なことになりますよ?」
香音が呆れた顔で言ってくる。自分でも調子に乗っているのは事実だと理解している。ただ、この世界ではちょっと背伸びしていたい。
それにしても、これから新環境へ移行するというのだ。総人口が多くなれば当然盗賊の数も増えるだろう。ああ、また面倒ごとな気がする。
「まあ一応警戒はしておこうか。とは言ってもどこにいるかもわからないんだけど」
「そのうち戦うことになりそうですね。人間を撃つのは気が引けますが」
「まあ流血表現とか無いから気楽にやったらいいんじゃない?」
「そういう問題じゃないですから……。ゲームとはいえ人に武器を向けるのは精神的に来るって言う話です」
そう言って香音はため息をついた。日頃から対人ゲーム含めいろいろとやっているか否かでこういうところも差は付くのだろう。だからと言ってゲームをやると暴力的になるとか言う理論には賛成しないが。
「いざとなったら何とかなるだろうし、ダメだったら俺が戦えば大丈夫か」
「本当ですか?でも私だって守られてるだけのつもりはないですから」
「そういう発言を聞くことになるとは入部直後の1か月前には想像もして無かったな」
「それは当然ですよ。もともとネット小説を書くためって言うのが入部理由ですから」
「じゃあ文学部行けよって思ったけどな」
「あの雰囲気は苦手ですし誰かに読ませるのも苦手です。というかあの空気で転生物は書けませんよ」
少し思考を巡らし、確かに純文学しか書かないような連中だなと思ったので何も言わないことにした。
「あとはライトノベルを読む人が居るって言うのも理由ですかね?」
「ああ、体験入部の時に『ライトノベルって読みますか』って聞いてきたあれか。まあお陰で世に出回ってない作品が読めてるのは感謝だね」
そう言うと香音は少し照れる。
「そのうちここでの経験も文にしたいですね。面白い体験が多いので」
俺は特に何も言わなかったが、内心ではこの発言が現実になることを楽しみにすることにした。
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