第21話:決着

先輩は復活できるとはいえ、自分の体力を犠牲に龍を地上に落とした。龍は少し離れた場所でのたうち回っている。とても近づいて攻撃を加えられる状況ではない。他の人たちもほとんどは短期決戦のために初動で魔力を使い果たしている。

「メノウさん、魔力は残っていますか?」

「ええ、残っているわ。香音、貴方も戦えるわね?」

「はい、なので力を貸してください」

私がメノウさんに伝えると、彼女は無言でうなづく。

「前、晴斗先輩がゲームを自作しているときに実装していた必殺技を思い出したんです。それを使ってメノウさんの魔法を私が弓矢で強化して撃ちだします。なので矢じりにさっきの魔法を付けてください」

「分かったわ。貴方に賭けるわ。掛け金は甘いもの奢りで【アイスボム】」

氷塊が矢先に纏わり付く。重量がかかり、腕に重みが伝わる。

「先輩だけに見せ場は上げませんよ【オーバーロード】」

強化魔法が限界異常に体に掛かる。1秒ごとに体に痛みが走り、ダメージを受ける。十数秒続ければそのまま力尽きてしまうだろうし、撃ち終わっても反動で動けなくなる。だからこそ、この一矢に賭ける。

「那須与一って知ってます?弓の名手で古典の授業などでは扇の的のお話で出てくるんです。どんな状況でもその矢は外れない。たとえそれが船の上の扇でも、そして今みたいに、龍の瞳でも【扇貫き】」

矢は、目にもとまらぬ速さで氷塊を纏って龍の眼球へ飛ぶ。その矢は的確に眼球を射抜き、同時に氷塊が弾け飛ぶ。

「うっ、無茶しすぎたぁ・・・っ」

私は残り僅かな体力で、更に状態異常【反動】で立っていられる状態ではなかった。

「貴方、やるじゃない。特に一番最後、必ず当たるんだったらいつもあれを使ったらいいじゃないの」

メノウさんが上から私の顔を覗き込んでくる。

「ああ、あれですか。あれは外すと私の体が爆発四散するんですよ。平家物語の中で『これを射損ずるものならば、弓切り折り自害して、人に再びおもてを向かうべからず』って言うセリフがあるんです。簡単に訳すと『この矢が当たらなかったら自害します』って言う事ですね」

「え!?何それ、物凄い代償じゃない。貴方の角後に負けたわ。賭けは貴方の勝ちよ。後でギルド近くのカフェに行きましょう」

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

「あーもう、一番死んだわ、あそこまでカッコつけておいてこれだよ」

屋根の上で動けなくなり、そのまま転がっている香音に合流し、話しかける。

「まあいいじゃないですか、先輩が居なかったら勝つのはもっと時間がかかりましたよ?」

「いやー、香音のあの技使ってたら決まってたでしょ。一応今回のMVPな訳だし」

「あれはMVPの決め方が1回の復活の間に与えたダメージ量の順位ですからね」

「おいお前ら、戦利品の山分けだ」

「おお、ブレイク!なんか良さそうな装飾品持ってるじゃねえか」

声を掛けてきたブレイクは首に龍の爪が付いたネックレスを付けていた。

「いいだろ?これ攻撃力上がるんだぜ。そんなことよりほら、お前の刀だ」

ブレイクが俺に投げ渡してくる。

「危な!刀なげるなよ」

「ああ、すまんな。落ち着いたら龍が死んだところに来てくれ。いろいろあるぞ」

「了解」

用件を伝えて、ブレイクはまた龍のところまで戻った。

「あ、なんかこの刀強化されてる」

「え?どういうことですか?」

「龍の血の効果でエンチャント効果が上がるらしい・・・」

「なんか得しましたね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る