第19話:イベント開始

日曜日の12時を迎える少し前、ギルド『極彩色』メンバーは天守閣の会議室に居た。

「2日間の間で他のギルドの戦力を把握してきた。他4つはやはりここよりも人数が多い。特に『横浜新選組』は独自の試験をやっていて量と質が悪くない。『ソラマチ倶楽部』は同じく東京で自由参加だから人数が多い。残りの『八咫烏やたがらす』と『八重桜』は数十人規模だ」

情報を聞いていると12時を告げる鐘がなった。

「さて、戦闘開始だ。メニューからイベント参加でフィールドに転送される。行くぞ!」

言われたとおりにメニューを操作する。一瞬視界が真っ白になり、浮遊感に包まれる。数秒後、つい最近見た横浜の街に居た。前と違うのは、龍が数倍のサイズになり、ギルドメンバー以外のプレイヤーが居ないことだ。

「さて、やられたらペナルティで3分間戦えなくなる。それだけ頭に入れておいてくれ」

全員の転送が終わるころ、龍もこちらの存在に気づいたようだ。

「先制は貰っちゃいますねー」

そう言いながら肩くらいの長さの黒髪の少女スミレが西洋式の弓を引き絞る。

「【メテオストライク】」

詠唱の直後、矢を放つ。矢は龍の背に当たり、そこから天に向けて光が昇る。

「発動までちょっと時間がかかるのでまだ近づかないでくださいねー」

天空から轟音が聞こえる。見上げると、乗用車程度のサイズの隕石が、龍に刺さった矢をめがけて落下していく。

「なんだあれ・・・レベルどこまで上げてるんだ」

「まだ45ですよー。ただ、あれをやりたくてずっと練習してましたー」

俺の独り言にスミレが答える。その間に隕石が龍に衝突し、弾ける。

龍の体力は1割減ったかどうかだ。

「うわぁ・・・体力多いな」

「予想通りだ。精鋭を集めて正解だった」

ギルマスが何かを用意しながらつぶやく。

「さて、香音。俺達もやろうか」

「はい!最近、全体強化を練習したので!まあちょっと溜めが必要でしたが」

香音が杖を振ると全員のステータスが多少上がる。

「まずは龍が飛んでいる高度まで飛ばなきゃいけない。多分50メートルくらいか?」

「ふふっ。それじゃああなたが行く前に私にも攻撃させてね。そうしないと巻き込んじゃうから」

そう言ったのは青髪ロングの魔導士、メノウだった。

「氷魔法ばっかりやってたらもう中級魔法使えるようになっちゃったから戦えるわよ。まあ他は最下級しか使えないけど。【アイスボム】」

メノウが杖を振ると、球状の氷塊が現れる。氷塊は龍をめがけて飛ぶ。龍も気が付いたらしく、回避行動を取った。

「避けるだけなんて、思ったより脳が無いのね」

氷塊が龍の横を通り抜けようとした瞬間、氷塊は爆発四散する。龍の体力を削ることができたらしい。龍は咆哮を上げる。直後、暗雲が横浜の街を覆う。暗雲は滝のような雨を引き起こし、プレイヤーをずぶ濡れにする。

《フィールド効果により、火属性が使用不可になりました》

「わざわざこうしてくるってことは火属性が弱点か。なんかフィールドを自力でカスタムするってボスらしいな」

「準備が整った。全ギルドメンバーに告ぐ、30秒後に近接戦闘に切り替えだ」

「おい、どうする気だ!あそこまでは飛べねえ、特に俺みてえな重装備は!」

ブレイクがギルマスに問う。

「まあ見ていろ。アイン、発動だ」

そう言うと、ギルマスとアインの手のひらが濃い紫に輝く。そして、手のひらを辺に向けて技名を唱える。

「【メガ・グラビティ】」

詠唱と同時に龍を紫色の球体が包み込む。それは次第に地上へ近づき、街の中心部へ落ちる。急いで全員で落下地点に向かうと、大きなクレーターの中心に龍が捕らえられている。

「なんだよそれ!?かっけー!」

中二病の少年レオが自分のキャラを忘れて叫ぶ。

「さて、落としたから近接戦闘だ。掛かれ!」

ギルマスの掛け声を合図に『極彩色』の近接担当が攻撃を仕掛ける。それに合わせてレオが龍の防御力を下げ、更に、小型の悪魔のような生き物を数匹召喚して龍の拘束を援護する。

「やってやる!【エンチャント・風】」

俺は刀に風をまとい、斬り裂く。

「行くぜ!轟け!【兜砕き・落雷】」

ブレイクが技名の通り落雷の如く凄まじい威力で頭蓋骨を叩き切りに行く。

「さあ俺の出番だ!【鉄拳正拳突き・連打】」

ライオンの獣人ケンが文字通り錬金術で鉄にした拳で腹部を殴る。

「僕は近接でもこういうの苦手なんだよねー【俊足連撃】」

銀髪猫耳のスピカが両手に短剣を握り、龍の体の上を縦横無尽に駆け巡りながら切り裂いていく。

体力が半分を切ったとき、龍が暴れだし、青いオーラに包まれる。急な反撃にあい、近接職全員が返り討ちに遭う。

「第二形態か!!!」

そう気づいたときには3分間のペナルティを受けていた。

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